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    狂聡ワンドロワンライ 紅葉 額

    #狂聡
    madGenius

    葉枯れのころ 中学最後の秋に修学旅行で東京に行った。
     大阪から東京は想像以上に遠くて、兄が住んでいるのはこんなにも遠い場所なのかと驚いたのを覚えている。スケジュール通り各地の観光名所を巡り、最終日前日の自由時間には流行っているというよく分からない食べ物や飲み物を持って大きな公園に連れて行かれ、女子が写真を撮り続けるのに付き合わされた。と言っても、聡実は邪魔が入らないように周囲を見ながらただ彼女たちを横目にぼーっと風景を眺めてるだけだった。30枚、40枚近く撮影しそろそろ終わりかという頃に動画を撮り始めた。またなん十回とリテイクするのでとっくに胃袋に収まった食べ物のごみと、楽しそうにしている女子にも声をかけて不要なゴミを回収し、近くのゴミ箱へ捨てに行った。人工物と自然のちょうど真ん中のような、計算され管理されている植物たちはちょうど紅葉し始めた季節で、青い空に映えた赤や黄色がとても美しく聡実はスマホを取り出して写真にその風景を収めた。空とビルと紅葉、SNSでよく見るその構図は実際に目にすると確かに写真に撮りたい衝動に駆られるものであった。親と兄に写真を送り、スマホをしまおうと思ったその時、ふと成田狂児のトークを開いて写真を送ろうかと思った。今まで何かを送ろうと思っても言葉が浮かばなくて何度も入力しては消し、あの日以来トークを進められずにいる。ふと、間違ったフリでもすれば良い会話のきっかけになるかなと思ったが、友人に声をかけられて送れないままスマホをカバンにしまった。

     帰りの新幹線。大富豪をする友人グループの隣でウトウトしていると、窓ガラスに背の高いスーツの男が歩いている姿が映った。足早に通路を通り過ぎたその背中に目を向けたが、もちろん成田狂児ではない。だが、背の高さがとても似ていると思った。ドキドキと高鳴る心臓をそっと手で押さえて、シートに身を沈めた。目を閉じて大きく息を吸い、頭の中に浮かんだあいつの影を振り払うように別のことを考えた。受験のこと、隣で盛り上がる大富豪の勝敗のこと、この前告白してきた女子のこと。
     何を考えても、結局あいつの影は消えない。それはわかっていたけれど、無駄にイライラと考え続けるよりましだ。この頃には、狂児と関係ないことを意識的に繰り返し思い起こすことであいつのことをうやむやにしてやり過ごす術を身につけていた。スマホを取り出して親にメッセージを送ろうかと思ったその時、写真を送りかけていたことを思い出した。綺麗なコントラストを描くその風景は、時間が経ってから見てみると薄ら寒いような気がして削除した。空と紅葉なら大阪でも見られる。こんなものをいきなり送られても、返信に困って無視されるのが関の山だろう。
    あいつにとって自分はほんの気まぐれなんだから。
    スマホをしまって目を閉じ、隣の大富豪に意識を向けて全部忘れることにした。

     新宿にある有名な神社に行く途中、そのことを思い出し、何気なく狂児に話した。その時視界に入っていた高いビルが、その時の写真に写っていたので思い出したのだろうと思う。
    「あぁ、へぇ、そうなん。送ってくれたらよかったのに」
    薄ら笑いを浮かべながら狂児はいった。その様子に苛立ちながら
    「送ったって、返事返ってこなかったやろ。既読もつかんし。スルーされるよりそのほうがしんどかったから、送らないでよかったです」
    文句を言うみたいにそう言った。狂児は楽しそうに笑って
    「確かに。返事はえらい遅なってたやろなぁ。数年後か…預かってくれるんかなそんな前のメッセージって。まぁ、送ってくれてたらPCでアカウント見てた組の連中が保存しといてくれたかもしれへんな。そしたらそれ見て返事したんやけど」
    「そんな、数年後に返事きても。」
    「んー、まぁ、でも別に送ってくれたらなんでも嬉しかったけどね」
    「はぁ、その言葉、そのままお返しします」
    聡実はブスッとそう吐き捨てた。
    狂児が聡実の手を引いて立ち止まった。
    「今からその公園いこ」
    そう言って反対の方向へ歩き始める。
    「え、ちょっと。神社は?商売の神様と芸事の神様が一緒に居てるから一石二鳥や言うてたやん」
    聡実はひっぱられるままに狂児について行きながら文句を言った。狂児は聞いているのかいないのか、慣れた足取りで公園に向かっていた。
     紅葉は相変わらず美しく、若い女性たちが写真を撮っているのもあの頃のままだった。たくさんの若者が思い思いの場所で座ったりポーズを決めたり、中には踊ったりしながら撮影している。聡実はあまりにも場違いな狂児の姿にハラハラしながらもその中を進んでいき、当時写真を撮ったあたりで足を止めた。
    「あ、あの。ここら辺です」
    「うん、そうか。撮った写真てここら辺?あのビル入ってたんやもんね」
    狂児はそう言いながらスマホを掲げた。聡実はその手をつかみゆっくりとおろしながら、
    「あの、当時僕小さかったんでこれくらいの角度です」
    そう言って、当時の写真と画角が同じになるようにスマホの位置を調整した。
    「そうか。これくらい?こんな感じかな」
    そう言いながら狂児は写真を撮った。次にそのスマホの位置を見ながら微笑んで
    「はは、聡実くんこんなに小さかったか」
    といいながら聡実の胸元を撮影した。
    「何してんですか。…小さかったでしょ、前へならえでは腰に手ェあてて立ってたし」
    「そうやったかなぁ。しっかりしてたからもう少し大きい印象やったけど」
    「その…並んで歩くこととかなかったし。車か、カラオケか」
    「あぁそうや、そうやったわ」
    狂児はふふふと小さく笑った。
    「つむじが、綺麗やって」
    「は?つむじ?」
    訝しげに聞き返すと、狂児は聡実の頭に手を置いた。分厚くて温かい感触に、背筋の毛がそわりと逆立つ。
    「つむじ。ここがまん丸で可愛くて。でこっち見上げた時のおでことメガネがまん丸でまたかわいいねん。ほっぺと唇は赤ちゃんみたいやったし。そんで声も綺麗やのにめっちゃ辛辣やったからさ、おもろかってん。思い出したわ」
    「はぁ?」
    聡実は顔が赤くなるのを感じたが、視線を逸らして誤魔化した。
    「もう今は見えへんし可愛くないでしょ」
    「ん?いやぁ可愛いよ」
    狂児がグイッと頭を狂児の方に引き寄せた。真昼の公園で、たくさんの人がいる中二人の距離がグッと縮まる。
    「お兄ちゃんになって、声もしっかりしたし背も伸びたけど」
    至近距離で囁く低くて甘い声が全身に電気が走ったように響く。文句を言いたかったが、心臓がドキドキと拍動し始めて言葉に詰まってしまった。
    「何…」
    「君はいつだって可愛いし、かっこいいし、おもろいよ」
    「は…ちょっと、何言うてんの」
    「ここで写真撮ったの、送ろうとしてくれたのが嬉しい。送ってくれたらよかったのに。俺の宝物が増えたはずやったのに惜しいことしたわ」
    「そん、だから、…そっちこそなんも言うてけぇへんかったのに、なんやねんそのいいぐさ。そっちこそ連絡せぇや」
    「な、勝手やんな。でもさぁ、聡実くんが俺のこと考えてくれてたて事実だけで、もうたまらんのよ。なのにごめんね」
    「なんやねんそれ」
    狂児が、聡実の生え際に鼻先を当てた。唇が僅かに額に触れる。小さくため息をついたような声が聞こえてきた。
    「あの時の聡実くんも大好きやけど、今もほんまに好き。なのに俺はうまく出来てへんなぁて思って。あの時は色々距離があって近づけへんかった部分もあるけど、今は聡実くんとの距離が近づいてきてくれるやん。背も伸びたし、大人になったし。それから、俺のこと考えて知ろうとしてくれてる。俺が何にも成長せぇへんのに聡実くんがどんどん近づいて来てくれるから返してあげたいのに、何にもできへん。出会った頃からおっさんやし、どんどん枯れる一方やろ。枯れて散ってなくなるまで、できるだけ長く一緒にいたいねんけど…」
    「狂児」
    聡実は狂児の言葉を遮った。枯葉を踏み締めて一歩近づき、背伸びをして唇を重ねる。少し離してから、瞳を覗き込んで子供に言い聞かせるように言った。
    「枯れても綺麗やからあの日、ここで写真送ろうと思ったんです。狂児がおっさんなんは最初からやし」
    「うん」
    「この季節にしかできないことも、見られない風景もあるやろ。あの時の僕の声みたいに、生きてたら変わってしまうことなんて当たり前にあるのに…怖がって抗おうとしたってむだですよ」
    「…それは、まぁそうやけど」
    「僕のつむじはもう見られなくて額を見なあかんくなったみたいに、枯れていく姿をちゃんと見といてあげますから安心してジジィになってください」
    「ジジィ…ふふ、言うやんか聡実くん」
    狂児は小さく笑って聡実の額にキスをした。
    「枯れても色づくジジィでいるから、聡実くんそばにおってくれる」
    「…狂児さん次第やな。僕こそ可愛く無くなっていくけどええの」
    「ふ、聡実くんが可愛くなかった事なんて一度もないし、大丈夫」
    「そう、それなら、まぁ」
    聡実は狂児の顔を見上げた。おかしそうに笑う狂児と目が合う。
    「はは、聡実くん顔赤い。可愛いなぁ」
    「は?葉っぱが赤いからそれの、その、日の当たり具合とかやないですか」
    苦し紛れにそう言いながら顔を背けたが、狂児はその様子を見て嬉しそうに笑っていた。
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