ごはんを食べよう② 揃った声が、まだひんやりとした春の空に吸い込まれていく。
すく、とナイフで切った目玉焼きは、よく焼いたからか少し黄身がふわふわしている。
塩を振って頬張ると、表面の白身がカリカリしていていい音がする。卵と、少し油の味。それに塩味が加わって美味しい。ちらと目の前のイライを見やると、イライはベーコンと卵を重ねて食べていた。
いいなそれ、僕もやろう。
今度の一口には塩を振るのはやめて、切ったベーコンと卵の黄身を重ねて食べた。
卵の甘さとベーコンの塩気が絶妙なバランスで、我ながらよくできたと思う。
「イライ、ついてる」
「え? どこ?」
「ここ」
ホットミルクが口の端に残って髭みたいになっているイライがかわいい。
そういえば、「あの場所」には髭を生やしている人が多かった。今頃何をしているだろう。
イソップはミニトマトを口に放り込み、イライがティッシュペーパーで口の端を拭いているのを眺めた。
「イソップくん、何か考えてる?」
「……ええ。髭みたいだなって」
「なにそれ」
ふふ、とイライが顔を綻ばせる。
吐息で笑って、ふと一瞬だけ、イライも遠い目をした。
「ね、イソップくん」
「なに、イライ」
「……帰りたいと、思う?」
「……」
イソップは目を細めた。
思い出すのは、いつも曇っていた空だ。
あの場所に置いてきた色々なもの。それを想ってそっと手付かずのトーストに視線を落とす。
手にとったトーストにサラサラした苺のジャムを塗って、ぱり、と一口齧る。
甘酸っぱくて、それなのにひたすら甘いような気もする。どこか、あの場所で食べたような味がした。
「エウリュディケ荘園は不思議な場所でしたね」
ややあって、イソップは静かに言った。