世界一かっこいい恋人 イライはかっこいい。
BLK戦隊の戦隊練習をしながら、イソップは前髪の隙間からイライを見つめた。
きりりと上がった眉は男らしく、唇は厚めだ。
精悍な顔立ちをしているし、眼鏡の奥には理知的な光が宿っている。
ゲームをしている時にもスッと通る声は低くて、オフラインイベントで初めて顔出しをする前からファンが多かったのも頷ける。
「フクロウのクールタイム上がったよ」
「距離チェしてるから大丈夫。フラホ使ったら見てくれる?」
「オーケー」
「北壁ロボだよ。南壁に本体」
「わかりました。墓完結します」
「ナイチェ。これ上がったらチェイス粘着に行く」
フライホイールを使った後、イライの操作する「占い師」からフクロウを貰い、無理矢理板を越える。
ゴーンゴーンと鳴り響く存在感の溜まった音。
おそらくフクロウの加護がなければ恐怖の一撃を喰らっていただろう。
北ゲートに棺桶を置いているから距離が近い。
ダウンした後一度危機一髪ありの救助が欲しい。
距離を離して上がった暗号機まで行けば解読圧もかからないはずだ。
ハンター役をしてくれている美智子が使っているのは「芸者」だ。
距離を詰めるのはお得意で、実際最初の板当てがなければ距離も空かなかった。
「そろそろダウンするよ。板は間に合わない」
「オッケー、3台上がる。技師本体ももうすぐ! バッツマンが救助に行けるよ」
「ナイチェ。どこでダウンする?」
「中央カウボポジで」
「わかった」
「私の新規で終わりだね」
そう言うイライのラスト暗号機は今3割。
4人通電はできるだろう。
トレイシーの「技師」がいると暗号解読が流石に早い。
その試合はガンジの「バッツマン」の粘着で飛び確定サバイバーを作らず余裕を持った三逃げをすることができた。
「お疲れさん。今日はみんな調子がよかったねえ」
「美智子さんもお疲れ様。あの神出鬼没にはひやっとしたよ」
「救助恐怖取らないと負けやと思ってねえ。避けられてしまったけど」
BLKメンバーである美智子とトレイシーがそんな会話をしている。
それをぼんやり見ながらイソップは背筋を伸ばした。
e「スポーツ」といえどやはり肩は凝るものだ。
バキバキと音を立てる背中に、今日は早く寝ようと思う。
そんな背後から「イソップくん」と声をかけられて、イソップはびくりと肩を揺らした。
「イライ」
「お疲れ様。今日はすごかったね。今度の大会が楽しみだ」
「……うん」
イライは眼鏡の向こうで空色の目を輝かせている。
キラキラしたオーラが見える気がして、イソップは「うっ」と小さく腹を押さえた。
「イソップくん?」
「……いや、イライの目が光って見えて」
「私はロボか何かかな!?」
驚いてイソップの顔を覗き込むイライはかっこいい。
かっこいいのだけれど、眉尻が下がり、潤んだ目のその慌てた様子がなんとも言えずイソップの胸を締め付けた。
「イソップくん……?」
「イライ、その……顔だけにして」
「何を!?」
かっこいいのは顔だけにして、と言えなかった。
だってイライはいつだってイソップをときめかせてくるのだ。ずるい。
かっこよくて──かわいい。
こんな人がイソップの恋人で、イソップの全てを受け入れてくれているのが何かの奇跡なんじゃないかと思う。
世界で一番かっこよくてかわいい、イソップの恋人。
「顔の話をするならイソップくんの方が」
「もう黙ってかわいい」
「えっ」
ほら、こんなすぐに顔を赤らめるところだって、イライは可愛らしくて、だから愛しくてならない。
練習は真面目にやる。けれど、その後どうするかは自由なのだ。
イソップはイライの「どういうこと……?」という追求から逃れるために顔を逸らす。
その背後で、ガンジがストローをズッと吸い上げた。
「帰ってからやれ」
「アッハイ」
その声はイソップとイライどちらのものだったのか。
さておき、トレイシーの「部屋閉めるよ!」の声にみんな揃って荷物を持ち上げたのだった。