ごはんを食べよう26(完)「いつか、荘園に行きませんか」
「……戻る、ということ?」
「いいえ」
ぴくり、と肩を震わせたイライに首を振る。
イライもイソップの意図しているところはわかっているのだろう。
それでも条件反射で震えてしまった、というところか。
イソップは手を伸ばしてイライの手を撫でた。
重ねたまま、静かに口を開く。
「僕たちがいなくなったあと、荘園に何があったのか、今では知る術はないでしょう。……それでも、僕らがあそこにいたことは真実です。だから、確かめにいきましょう」
「そして、お別れをしよう、と?」
「ええ」
イソップは頷いた。
「荘園にお別れを……僕たちが、ここで生きていくために」
重なった手が、今度はイライの手によって絡められる。しっかりと繋いだ手は温かかった。生きている。
二人とも、ここで、今、生きている。
「そうだね、いつか……君と一緒に、荘園に行きたい」
「……はい」
イライは微笑んだ。その笑顔があまりにも穏やかで、イソップはその温かさが喉を通ってするりと胃の腑に落ちるような、そんな感覚を覚えた。
「そうして、帰って来るんです。ここへ」
「もちろん。それも君と一緒がいい」
「一緒がいい、じゃないです。一緒、なんですよ」
念を押すように続けた言葉に、イライがゆっくりと目を瞬かせる。やがてゆるりと細くなった青いが愛しい。
窓の向こう、少しだけ開いたカーテンの隙間から、星々の光が見える。
荘園でも、同じ光景が見えた気がする。ずいぶん遠いところまで来てしまったけれど、きっと大丈夫だ。
今日も明日も明後日も、あなたと食事をしよう。そうして、生きていこう──一緒に。