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    視力検査のC

    @savoy192

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    視力検査のC

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    デンドロフィリアの模倣

    DIO→ジョナ前提DIO←ジョル。DIO様がジョナさんのことを考えながら植物で抜く話

    デンドロフィリアの模倣

    DIO→ジョナ前提DIO←ジョル。DIO様がジョナさんのことを考えながら植物で抜く話

     「……っ……、……」

     洋燈の灯が影を追い、陰を暴く。
     瀟洒な装飾を施された調度品が僕らを取り囲むようにしてそびえ立っている。
     僕は広く豪奢な部屋の中央で革張りの椅子に掛け、長テーブルを挟まずに父と少し離れたところで向かい合っている。まぁ、対面するというよりは僕が一方的に観察するような姿勢を取っているのだが……
     というのも。
     僕は無造作に足を組んで目の前の父を見つめているが、父は脚を肩幅ほどに開き、これまた広いベッドの縁に座している。
     父は僕が生み出した黄チューリップの花弁に自身を擦り付けている。
     目の前の僕のことなどお構いなしに、静かに熱い息を吐き、目を閉じて耽っている。
     傍から見るとかなり滑稽な恰好だ。

     父に花弁をくれてやるようになって1ヶ月になるが……僕は父のこの行為の意味するところが未だによく判らない。自分の創った植物がマスターベーションに使われるのは初めてだ。
     初めは、確かデンドロフィリア(樹木性愛)……と言ったかな……父はそういった性的倒錯を持つのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
     他の植物には目もくれない。僕の生み出す植物のみが欲望の捌け口の対象となっているようだ。

     ひょっとすると僕がそういった性的な対象として見られているのかと思えば、それもまた違うようだ。一度冗談のつもりで「僕を抱いてみませんか」と鎌を掛けたら、それはそれは不思議そうな顔つきをされた。節操の無いこの人でも流石に自分の子どもには食指が動かぬようだと思わざるを得ない(しかし下男も所構わず誘うような人だから気が変わる可能性も否めない)。

     では父はこの状況に一体何を見出しているのか……僕はこの1ヶ月ずっとそれを考えている。実の息子に自慰行為を披露して一体何が楽しいのだろう。
     僕に見られて興奮する質なのか? いや、それは多分ない。もしそうなら他の人間との情事に僕を呼んでいるはずだ。
     父は誰かに見られているからといって興奮するような人ではないだろう……自分以外の人間は自分のための道具に過ぎないと……そうでなければ路傍の石と同程度だと思っているだろうし。

     それに、父は自分の痴態を、僕が無感動に…というより寧ろ忌まわしげに眺めていることにきっと気づいている。

     今、僕の目の前で蹲っている父は……時々目を開けはするものの伏し目がちで、焦点が合っていない。視界に入っているはずの僕の膝も認識していないと分かる目だ。
     父は完全に一人だけの世界に閉じこもっている。
     見ている僕は何だか頭が痛くなってきた。

     他にする事も無く手持ち無沙汰なので、僕は姿勢を楽にして、その辺の卓上にあったプラスチックの文房具や無用の燭台を植物に変えては父に与える。
     そして、芋虫の腹這いを眺めるような目で、父を観察した。父のその、ギリシャ彫刻のように精巧な筋骨隆々の肉体、その美しい肉体が快楽にうねる様は倒錯的ですらある。身体は雄々しいのに、その行為は女々しくて不愉快だ。

    中身はともかく、父の身体は確かに神の造形のようだ。
    ディオニュソスの貌にアポロンの肉体。二極の美の化合。
    例えるならそんなところだろう。しかし化合はあくまで化合であって調和ではない。
    父の至上の審美性の前には数多の人々が平伏すだろうが、その美はどこか歪だ。これ以上のものは地上に存在しないだろうと思わせるほど圧倒的で、破壊的に美しい。なのに、不完全だ、と思う。欠けているものを無理やりに繋ぎ合せたようなちぐはぐさを感じるのだ。
    そんな危うさを持つからこそ信者の彼らは魅了されるのかもしれないが……

    信者たちといえば。
    簡単に頭を垂れる彼らを見て、父は愉悦に浸ってでもいるのだろうか。
    2週間ほど前に大広間で開かれた『集会』。世界中に点在する父の部下や信望者たちのうち十数名ほどが集まり、活動報告を行った。父はその一人一人の奏上に耳を傾け、ある者には叱咤激励の言葉を贈り、またある者には成功報酬を渡した(そいつは帰り道に不幸な事故に遭う手筈となっている)。
    向けられる感情が好意か悪意かに関わらず、父は周囲の人間を利用し管理するのが巧かった。来る者拒まず、去る者は殺すといったところだ。もし父がマフィアのボスとなっていたらきっと成功していただろう。威厳も実務能力もスタンド能力も兼ね備えている……組織自体に持続性があるかどうかはともかく。

    ちゃぷり。
    これまでの粘着質な音とは異なる質の音が聞こえ、僕は少し目を瞬いた。
    ……少し思索と回想に耽りすぎたようだ。
    父は既に2度目の射精を終え、サイドテーブルのボウルに溜めておいた湯に絹布を濡らし、それで自身を軽く清めていた。
    乱した衣類を整え始めた父の足元には、僕が与えた花びらがバラバラに裂かれて散らばっていた。いずれの破片も、白濁で汚されている。元は無機物とはいえ、自分で与えたとはいえ、自分のスタンドで生み出したものを穢されるのはあまり良い気分がしない。が……手を加えられるということはこの花びらがそれなりに『想われている』ということだ。チューリップだけでなく白百合だとか桔梗だとか……を父がわざわざ要求してくることもあった。女性から贈られた花束の中にあったそれらは精気を吸ってそれでお終いだったのに。

    どうやら僕自身や植物ではなく、僕のスタンドそのものに理由がありそうだ。

    スタンドで生み出した植物……命を与える……生命力……吸血鬼とは対極……ああ、何だかこの辺りに正解がありそうなのだが……僕の直感はそう囁いているが、確信には至らない。

    何故『僕の』スタンドなのか……他の植物使いのスタンドを持つ者はいるだろうに……血の繋がった実の息子だから特別ということだろうか。にしてはあまり『僕』自身には頓着しているようには見えないが。まさか……僕に他の誰かを重ねている?

    そこまで考えが行き着いて、気がつけば手が出ていた。

    パシン。

    乾いた音が辺りに響き渡る。
    僕の手は父の頬を打っていた。

    「……なんだ、ハルノ」

    父は不服そうに僕を睨んだ。当然だ。今の僕の行動は唐突だった。
    それでも僕は抗議の意思を視線に込めた。

    あなたは馬鹿な人だ。僕にだってプライドはある。誰かの代替にされるのはいけ好かない。僕は僕だ。それに今の僕はハルノではなくジョルノだ。何故それが分からないのだろう。

    「勝手に主人の私室に居座って私を観賞しておいて……平手打ちとは随分な狼藉だな」

    一音一音に威圧感を滲ませながら父は僕を脅すように言った。ああ、なんて恐ろしい人だ。その声を聞いた瞬間、体中の毛が逆立つ思いだった。しかし残念ながら……言葉の内容に着目すれば、虚勢を張っているようにも聞こえる。

    「僕が素直に大人しく従うタマに見えますか」

    父はにぃっと口の端を片方だけ吊り上げると、穏やかさを湛えた瞳で今度はしっかりと僕を『見た』。目の奥で紅い光が煌々と輝いている。

    父は衣服を整え終えると、何も告げずに部屋を出ていった。僕に背を向けて、あくまで威風堂々と去って行った。半裸の背中、左肩に星を宿した背中は、あの写真の姿と少しも異なるところがなかった。

    僕はふと、もう一度足元に目を遣る。残された花びらは精液に塗れて、涙を流しているように見えた。父に想われているその人は今の父の美しく醜い姿を知っているだろうか。きっと父は僕だけにしか見せる相手がいない。

    去っていった父の背中が目に焼き付いて離れない。極美の威厳にあふれた姿だ。

    お父さん。
    あなたと出会ってから僕はいつも裏切られたような気持ちでいっぱいだった。なのに、今はひどく安心している。
    僕は、いつあなたの息子になれるだろうか。
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