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    視力検査のC

    @savoy192

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    視力検査のC

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    短期ラクガキ連載でカメラマンD×男子大学院生J。
    今回はパート①で出会いの部分だけ。

    「ちょっと待ってディオ! 私はあなたに撮ってほしくてこの仕事をやってるようなものなのよ! 聞いてる?」
    キンキンとうるさい女の声を遮ってやった。全く、ちょいと優しくしてやっただけで特別だと思うのか? 女ってヤツは…… モデルの機嫌を取るのも、出版社の意向を汲み取るのもいい加減飽いてきた。カメラマンとしてのキャリアはもう十分重ねただろう。今年ぐらいは俺の自由にやらせてもらう。
    そう決心して、勝手にLINE電話を掛けてきたモデルとの通話を切り上げる。ブロックもしてやったから後はあちらで反省してくれることを願うばかりだ。こんな奴らに付き合ってる時間はない。まずはモデル探しから始めなければ……
    なんとなく、今までのコネを辿っていては自分の理想のモデルには出会えない気がしていた。普段なら行かないようなところに足を運んで、自分の目で人を見極めて選ぶ必要があるとは感じている。自分でなければ撮れないような最高の写真を撮れる……そんなモデルを見つけたい。具体的にどんな、と聞かれるとまだ突き詰められてはいないのだが、とにかく今までに出会ったことのないような逸材を見つけたい。
    長期休暇を取ってディープスポットに入り込むのも良いかもな、と今後のスケジュールを確認しようとしていた時。向かい側の喫茶店のオープンテラス席に座っている図体のデカい男が目に入った。
    (な、なんだあのマヌケそうな顔でパフェなんぞ食ってる男は……しかしどうも目が惹き付けられる……)
    いつもの自分なら視界にも入らないような男だった。カロリーの高いものをわざわざ好んで食べてるような男なんぞ自分にとっては軽蔑の的だった。しかしなんということだろう、あんな長身で体躯の良い男なんぞスポーツ界にも滅多にいない。しかもよくよく見れば整った童顔で人好きしそうな、爽やかな好青年といった印象すら抱いた。それが生クリームとスポンジケーキを頬張ってなんとも気の抜けたマヌケな表情を浮かべている。そのアンバランスだが気品のある雰囲気からどうも目が離せなかった。こいつにカメラを向けたらどんな顔をするだろうか? あの巨体を無理やり組み敷いたらどんなに気分が高まるだろうか? インスピレーションが溢れ出して止まらない……
    下卑た想像を抱えながら、足は自然と男の方に向かっていった。店を出る時に会計を忘れていなかったのは奇跡に思えた。
    周りの雑音が聞こえないほど一直線に向かいの喫茶店に向かっていき、「一番安いコーヒーを一つ」と軽く注文を済ませて男の座る席へ向かっていく。幸い、一人で座っているようで誰かを待っている風でもないようだった。
    「ねぇ君、すまないが相席しても良いだろうか。この席でしか仕事が捗らなくってね」
    と咄嗟に強引な嘘をついて向かいの席に座った。男は一瞬驚いたようで、ぽかんとした表情を浮かべていた。
    「えっ、あぁ、ぼくは構いませんよ。もう少しで食べ終わるところですし」
    彼は戸惑ったように俺に向かいの席を譲ると、長居しては気まずいと思ったのか、次の一口を多めに食べた。俺の目を惹き付けておいて早々に立ち去ろうってのか? そんなことは俺のプライドが許さんぞ。絶対に逃してなるものか。
    狩猟本能が疼いてしまい、思わず彼のスプーンを持つ手を掴んでいた。いきなり手を握られて、彼は大きなペリドットの目を見開いてこちらを見つめてきた。その顔はますます彼の顔立ちを幼く見せていて、自分の手で汚してやりたいという気持ちを掻き立てるものだった。クソ……ッ
    「いや、こちらのことは気にしなくていいさ。ゆっくり食べておくれよ」
    彼に不信感を抱かせないように、努めて優しげな仮面を顔に貼り付ける。こいつと話を付けるにはどうしたらいいか、俺は頭の中でチェスの駒を並べ始めた。
    「そうですか、では頂きます」
    彼はまだ困惑の消えない目をちらりと向けて、おずおずとフルーツを口に運び始めた。仕草は遠慮がちではあるが、一口食べる毎に彼の口は綻んで、甘いものをゆっくり食べる幸せを噛み締めているようだった。
    まだこちらへの警戒は解けないか。それならば……
    「そのパフェ、美味しいのかい? さっきから見てると君はなんだかすごく嬉しそうに食べているね」
    「えっ、ええ、ぼくはここのチョコパフェがすごく好きで……週末にはいつも来ているぐらいなんです」
    「そうか、僕は自分では甘いものは進んで食べることはないんだけれど、君の幸せそうに食べている姿を見るとこちらも食欲をそそられそうになるよ。君を広告のイメージキャラクターなんかにしたらどんな食べ物も美味しそうに見えてしまうに違いないね」
    「ええっ、そんなに……恥ずかしいです」
    口がお上手ですね、と彼は頬を染めながら恥ずかしそうに俯いてしまった。こいつは今度は俺の股間を疼かせたいらしい。
    「なにも恥じることじゃあないさ。自分の素直な気持ちを顔に出せることは素晴らしいことだよ(そんなこと微塵も思っちゃあいないが)。……普段お仕事は何を?」
    「ぼくは大学院生をしてるんです。普段は研究室で資料と睨めっこしてることが多いんですけど……目が疲れた時にはここの喫茶店でリフレッシュすることも多いです」
    彼はだんだん警戒心が抜けてきたのか、こちらの質問にも澱みなく答えるようになってきた。
    「アルバイトなんかはしているのかい?」
    「いえ、ぼくは研究に集中したいので、やるとしても短期のものが多いですね。発掘作業のバイトとかやってます」
    フン……となるとこいつは裕福な学生でそんなに金には困ってなさそうだ。モデルのバイトに誘っても断られてしまうかもしれん……だがしかし。
    「学生が研究に専念しているのは素晴らしいことだ。もし良ければ君の分野の話を聞かせてくれるかい」
    院まで進んだ学生なら自分の研究の話をするのが好きだろう。そう踏んで、俺は彼に話をさせることで彼をこの場に長居させようとした。こんな良い素材は何としても捕まえなければ……。しかしこいつは本当に見れば見るほど男の理想の肉体の持ち主だな。服の上からでも腕や脚は筋肉で膨れているのが分かるし、立てばかなり見栄えのする長身だろう。首の筋肉の付き方から見るに背筋もさぞかし鍛えてあるに違いない。脱がせたらどんなにか極上の体が目の前に現れるだろうか。それに唾液と生クリームでほんのり濡れた唇がまたふっくらとしていて艶かしい。広告というよりはAV向けの人材かもしれん。
    と、観察すればするほど妙に心臓と腹の奥を鷲掴みにする男を見て思う。
    最低限、何としても名前と連絡先を聞き出して1ヶ月以内にはスタジオに連れ込みたい。

    ***

    話をしているうちに、彼は近くの大学で考古学を研究していることが分かった。そして名前をジョナサン・ジョースターと言うらしい。(「周りからは『ジョジョ』って呼ばれることが多いんです」とはにかみながら答えた彼の顔は今夜のオカズにしようと決めた。)
    「考古学か。ならさぞかしあちこちに出掛けたり、本を読んだりしているんだろうね」
    「いえ、そうでもないんです。本当はもっと多くの学会に出たり現場に行ったり資料を取り寄せたりしたいんですが、研究費は最低限しか出なくって……奨学金や仕送りでは限度があるんですよね」
    と彼はコーヒーを飲みながら少し困ったように眉を下げていた。彼は世間話の延長のつもりで何気なく言ったのだろうが、こちらにとっては大チャンスだった。しめたぞ。
    「そうか……なら、モデルの仕事をやってみないかい? 週に1回、日給で3万出そう。スタジオはここから電車で二駅ぐらいのところにあるし、君にとって負担になる仕事はさせないと約束する。僕で良ければ、君の研究の後押しになるようなことをしたいんだ」
    とあたかも彼の研究に惚れ込んだというような口上を述べる。学生にとってはかなり良い条件を付けたし、名刺もさり気なく差し出した。加えて真剣な表情で見つめてやればどんな女も男も多少は靡くはず。さぁ、餌に掛かってこい。
    名刺を受け取った途端、彼は青ざめたような表情を浮かべた。
    「ディオ・ブランドー……」
    彼は視線を左上に逸らして何かを思い出そうとしていた。そして名刺と俺の顔を見比べて、次第に焦りの色を表し始めた。
    「俺の名前に聞き覚えが?」
    「いえ、そうなんですけど、いや、そうじゃなくって」
    内心でどっちだよ、と思いながら明らかに様子のおかしいジョナサンを見やる。俺は何か不味ったか……? 仮にカメラマンとしての俺の名前に聞き覚えがあったとしても相手は寧ろ感心するような顔か恍惚とする顔を浮かべるはずなんだ。こんな風に恐れるように後ずさったりはしないはず……
    ジョナサンは名刺をポケットに突っ込むと、急いで鞄を肩に掛けて立ち上がった。
    「ごめんなさい!ぼく用事を思い出したので失礼します!」
    「はあ!? おい、まだ話は済んでないぞ、待て、せめて会計を済ませ……」
    ジョナサンは猛烈な勢いで席の間をすり抜けて、出口へと向かっていってしまった。
    あの巨体でよくも人にぶつからずに急いで通り抜けられたものだと思う。
    「なんだぁ? あいつ……まるで幽霊でも見たかのような顔しやがって」
    彼が店を出て行ってしまったので、仕方なく自分も席を立って会計を済ませてしまう。ジョナサンはあのチョコパフェを3杯も平らげていたようで、昼下がりのコーヒーブレイクにしては少々高い領収書をもらった。
    こんなこともあろうかと、渡した名刺の裏にこっそりGPS機能付き小型発信機を張り付けておいてよかった。
    自作のスマホアプリを開いて、手早く彼が今歩いている通りを把握する。ここから西に200メートルか。このディオ・ブランドーのスカウトから逃れられると思うなよ。早くタクシーを捕まえて追い付かなければ……

    ***

    (う、うわぁ、確かにあの人はディオだった。こうして出会うのは何巡ぶりだろう? 彼はぼくのことを覚えてはいないみたいだけれど……前回出会った時はろくでもない殺され方をしたから、思わず逃げてきてしまった。
    背を向けたのはまずかったかもしれないが、今回の人生ではエリナと平穏に暮らそうと決めているのだ。絶対関わり合いになったりはしないぞ!)
    とディオから離れたところで帰りのバスを待つジョナサンだったが、バスが定刻通りに来なければ恐らくディオにつかまってしまう距離ではあった。果たしてジョナサンはディオ・ブランドーの追跡から逃れることはできるのだろうか!? ~つづく~
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