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    sirokuma_0703

    @sirokuma_0703

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    sirokuma_0703

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    キスから始まる🥞🌟

     変人だけど顔は綺麗な人だと思っていたから、唇が触れても嫌ではなかった。センパイがオレをどう思っていたかは知らないけど、満更でもないのは顔を見てすぐにわかった。
    「司センパイ」
    「なんだ」
    その表情はずるい。どうせはじめてのキスだったくせに、見栄を張って余裕ぶって。赤くなった頬と潤んだ瞳が全部台無しにしていて、それが余計にそそる。
    「もう一回、いいですか」
    センパイの視線が泳ぐ。その気持ちは手にとるようにわかった。だってオレたちは恋人じゃない。まだ出会ったばかりで、お互いのことなんてほとんど何も知らなくて、好きかどうかもわからない。それでもオレの視線はセンパイの口元に釘付けで、心臓はどくどく音をたてていた。
    「いい、ぞ」
    やった、と言いそうになって、慌てて口を閉じた。変な勘違いをされても困る。
    「目、閉じてください」
    「ん」
    力がこもって、眉間に少し皺が寄っている。不慣れなのがよくわかった。そういうオレも、決して慣れてるわけではなかったが。
    「はやく」
    うわ、かわいい。この人本当にあの天馬司か?あの変人ワンツーの片割れか?なんだこのギャップ。やばすぎるだろ。
    「…しますよ」
    センパイが小さく頷く。吸い寄せられるようにキスをした。引き結ばれた唇を、舌先でノックするとセンパイの肩が震える。恐る恐る、応えるように口を開いてくれたのは少し意外だった。ちゃんと乗り気ではあるらしい。受け身なのは、やっぱり経験不足だからだろう。なんだか優しくしてやりたくなって、適度に休憩を挟みながら舌を絡めた。荒い息遣いと卑猥な水音。全身が心臓に乗っ取られたみたいだ。鼓動がうるさい。不意にまつ毛が震えて、蜂蜜色の瞳が丸くなった。司センパイがオレから距離をとる。
    「お前、なんで目を開けてるんだ!」
    「あ」
    言われて初めて気がついた。キスをしている間のセンパイの顔が、鮮明に浮かび上がる。
    「忘れてました。いいじゃないすか、別に。減るもんじゃないし」
    「お前なぁ…!」
    ちょっと怒った顔、やっぱり司センパイだな。眉毛の角度が特に。
    「司センパイ」
    「今度はなんだ」
    「またしましょうね」
    勢いよく顔を背けられ、心臓が少し冷たくなった。センパイはただ雰囲気に流されただけで、もしかしてそんなに興奮してなかったのか?そう考えて、結構ショックを受けている自分にショックを受ける。
    「…ん」
    「な、なんすか?」
    「だから、いいぞ」
    「えっ」
    「また、しような」
    そう言ってはにかんだ司センパイが、寝ても覚めても頭から離れなくなった。

     寝不足の身体を引き摺って学校に向かう。目の前が急に明るくなった気がして顔を上げると、そこに司センパイが立っていた。
    「おはよう、彰人」
    「…おはよーございます」
    司センパイの雰囲気が、いつもと違う気がする。声が馬鹿でかくないし、変なポーズも取らない。何かあったのかと思って、あっただろと自分を張り倒したくなった。オレが寝不足なのもそのせいなのに。
    「っ…センパイ」
    「なんだ?」
    司センパイが小首を傾げる。その仕草がものすごくかわいい気がして、慌てて首を振った。そんなわけない、あの司センパイだぞ。顔が綺麗なのは事実だ、認めざるをえない。だけど「かわいい」は違うだろ。それだけは超えてはいけない一線だと、オレの本能が囁いていた。
    「彰人?」
    「いえ、なんでもないです」
    おいおいおい。正気かオレ。たった一回のキスでこんな風になるなんて。センパイもセンパイだ。変に意識するな。いつも通り馬鹿みたいな高笑いをしろ。無駄にかっこつけながら堂々と歩け。くそっ、なんでこんなこと祈らなきゃいけねぇんだよ。
    「そうか」
    センパイが視線を落とす。目、でかいな。髪も艶々してるし、肌も女子に負けないくらい綺麗だ。本当に、見た目だけは最高じゃないか。バレないようにチラ見して、最終的に昨日のキスを思い出す。またしようって言った。いつとは言ってないけど。今、もう一度したくなった。
    「司センパっ」
    センパイの腕を掴もうとしたその時だった。
    「おや?司くんに、東雲くんじゃないか」
    「類!」
    良いところで邪魔が入った。変人ワンツーのツーの方。不思議そうな顔をして、オレと司センパイを交互に見ている。
    「2人で学校に行くなんて、珍しいね?」
    「あ、あぁ。今日はたまたまな。…なんかお前、鞄が膨らんでないか?」
    司センパイの言う通り、神代センパイの鞄は、何故かパンッパンに膨れ上がっている。もう嫌な予感しかしない。
    「フフフ。よく気が付いたね。さすが司くん」
    神代センパイの目が怪しく光る。巻き込まれないうちに逃げるのが得策だ。わかっているのに足が動かない。なんでだ。司センパイがいるからだ。
    「類…お前、また爆発させる気か?」
    「さぁ、どうだろうね?」
    「させる気だな⁉」
    「そんなことないよ。それに、毎日爆発させてるだけじゃ、芸がないだろう?」
    「芸がないことはないだろう…」
    変な気分だった。神代センパイと話す司センパイはもう、いつも通りの変人だ。そうなれと思っていたはずなのに、いざそうなると不愉快だ。
    「あー、すみません。用事思い出したんで、オレ先に行きますね」
    「あっ…彰人!」
    司センパイの声だけがオレを追う。後ろを向いて吐き捨てたくなった。
    (オレと司センパイは、昨日キスしたぞ)
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