少し遅れて待ち合わせ場所に着くと、そこには異様なオーラを放った相手が俯きがちに佇んでいた。
「……えぇと。お待たせ、瀬戸内くん」
あまりの淀んだ空気に、周囲にはひと気がない。初め、その重苦しい雰囲気に、待ち合わせ時刻に遅れたことを怒っているのだと思った。近づいて、恐る恐る謝罪の言葉を口にすれば、そこでようやくこちらに気付いた様子の瀬戸内がハッと視線を上げる。
その顔には――予想に反して――やけに弱々しく揺らめいた眼差しがあって。仁淀はぎょっと目を見開いた。
「えっ……ど、どうかした?」
瀬戸内のこの手の表情は、心臓に悪い。思わずどもりながら尋ねた声に、けれど相手はうろうろと視線を外してなにやら迷うそぶりを見せたのち、ぽつりと一言零すのみであった。
1929