バアルくんのやつ ステージの上でギターを奏でる彼を見て、わたしは一目惚れというものを知った。
「あの! 好きです!!!」
「は?」
迷惑そうに細められた目に、一瞬怯みそうになるが今のわたしは無敵と名高い恋する乙女なのだ。ここで引くわけにはいかない。
「さっきの演奏、とっても素晴らしかったです!!!」
勇気を出してもう一歩を踏み出す。更に眉間の皺を深めた彼は、ありがとうとだけ言ってさっさとどこかへ去ろうとしてしまう。なんとか呼び止めようとすると、次の予定があると続けてそのままどこかへと去っていってしまった。
それから。彼が参加していたバンドのライブがまた行われると知り、わざわざ隣の島まで見に行った……が、そこに彼の姿は無かった。彼にしたように出待ちをしてそのバンドのメンバーに話を聞くと、どうやら彼はサポートメンバーだったらしく、彼の行方はそのバンドのメンバーたちも知らないようだった。わたしは絶望し、とぼとぼと家へと帰った。
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