自己像幻視あの日、夕陽の下でカリュドーンの子、赤いマフラーのチャンピオンとして一人戦い切った彼がぽつぽつと語ってくれたことが未だ頭に残っている。
他人の目に映る自分が何か恐ろしいものに見える。
過去の話だ。ただあの場で話を聞いただけの自分がなにか口出しできることでもない。否定もせず肯定もせず静かに頷いて、彼の言葉に耳を傾けていた。
…だけど今もそう感じることがあるのなら?
──『Random Play』、2階。すっかり二人で過ごすには馴染みとなった僕の自室。
いつものように映画鑑賞をした後、いつものように感想を話し合う中で自分がどのように見えるのかという話になった。
今回の映画のテーマは所謂"ドッペルゲンガー"である。
自分自身の姿を幻覚として自分で見る。そしてその幻覚は2度見ると見た者は死んでしまう。
そこであの日彼が語ってくれた話を思い出したのだ。他人の目に映る自分が恐ろしく見えるのだと。
話しながらサングラスの奥で揺らぐ彼の瞳は、それを再び訴えているかのようだった。
思わず隣に座る彼に手を伸ばし頬に手を添える。払い除けもせずされるがままでいてくれているのでそのままサングラスの縁に指を添えた。
「ライトさん、今僕の目に映るあなたはどんな顔をしていて、あなたから見た僕はどんな顔をしているように見える?」
彼のサングラスを慎重に外して、まっすぐ視線を合わせる。
この部屋に居座ることも随分と馴染むようになった彼は普段身に着けているマフラーも外してジャケットも脱いで、気楽な格好をしてここで過ごしてくれている。そんな彼の首から肌身離さず下げられたタグがサングラスを外した際に揺れてかちりと音を立てた。
それと同時にライトさんは息を呑み、深く深呼吸するようにため息をついて視線を合わせ返してくれる。
ライトさんの瞳に映る僕は穏やかに微笑んでいる。自分で自分の顔をこのような形で確認することは少し気恥ずかしいけれど、今のこの表情は作り笑顔などではないときっと彼にもわかるだろう。だってライトさんと過ごす一時はこんなにも穏やかで暖かでいるのだから。
では、同じように僕の瞳に映るあなたは…果たしてどうだろうか?どのような姿でどのような表情をしているのだろうか?
僕にはわかっていることだ。だけど、僕から正解を言う事はまだできない。やがて彼はまるで観念したかのような表情で苦笑いをしながらぽつりと呟いた。
「あんたの瞳には…あんたに心底惚れてる俺と、俺の目にはこんな俺に惚れてくれてるあんたが映ってる」
「正解。きっと…その通りだよ」
サングラスを返してから唇を強請るとキスに応じてくれる。彼の背中に腕を回して体温を求めたら抱き締め返してくれる。
熱くて甘くてこんなにも優しい。このまま、とけて、全部一緒に混ざってしまっても良いんじゃないだろうか。
仲間のために一人で戦おうとするあなたが、一人であっても送り出される信頼を得ているあなたが、照れ臭そうにしながらこうして僕の求めに応えてくれる今のあなたが恐ろしいものであるはずがない。今も、昔も、これからも。