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    kuromituxxxx

    @kuromituxxxx

    文を綴る / スタレ、文ス、Fate/SR中心に雑多

    ☆quiet follow
    POIPOI 55

    kuromituxxxx

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    そんな終わりの世界軸

    #ファイモス
    Phaidei

    【ファイモス】Messiah「救世主」と君に呼ばれる度にいつも胸の奥がすこしだけくるしかった。
     
    「救世主、」
     肩越しに振り返った君の黄金色の瞳と視線が合う。
     はくはくと心臓は煩いのに背中はひどくつめたい。息がうまくできない。剣を握る手も震えたままで、
    「救世主、何を躊躇している」
     ふる、と首を横に振る。
    「できない、僕には、」
     できない、と絞り出すようにして繰り返した声はひどく頼りなくて、
     だって、
    「……君を殺せなんて」
    「救世主、時間がない」
     ここに至るまでに彼は何度死んで、そしてまた戦う為に何度息を吹き返して立ち上がったのだろう。
     けれどそれももうおしまいだ。
     彼の体はゆっくりと暗黒に飲まれて違うものへと形を変えようとしている。
    「早くしろ、救世主」
     わかってる、わかって、いる、
    「いやだ、」
     いつかはどこかでこんな日が来るんじゃないかって、
     君が僕に君の秘密を教えてくれた日からずっと、
    「できない、できないよ……」
     いや、本当はそれよりも前にどこかで気付いていたのかもしれない。だって永遠はないから。
    「君を失いたくない」
     それはまるで懇願にも似た、
     この世界に神様がいるのなら、あといくつ僕から奪えば気が済むのだろう。
    「ファイノン!」
     名を呼ばれて、びくりと肩が震える。
    「それは俺も同じだ。だから俺を俺のままで終わらせてくれ」
     頼む、なんて、そんなことを優しいまなざしで言わないでほしい。
     こんなことの為に僕は剣を取ったわけじゃない。戦うことを決めたわけじゃない。
     
     なら、何の為に?
     
    「ファイノン、」
    「う、あ、」
     剣を握り直す。
     第10胸椎、を、背後から、
    「あああああぁ!」
     慟哭にも似たそれは確かに僕の喉元から響いていたはずだけど、まるで遠いどこかから聞こえてくるようで。
     ガラン、と手元から滑り落ちた剣が派手な音を立てて地面に投げ出される。
     崩れ落ちていく君のからだを抱き止めて膝を着く。生温かい赤黒い液体が地面に染みを作っていく。
    「メデイモス、メデイモス、いやだ、いやだ、僕を、ひとりにしないでくれ、」
    「……ファイノン」
     のばされた手は僕まで届くことはなく、燃える夕陽のようなうつくしい瞳は僅かに弧を描いて、そうしてゆっくり眠りにつく。
     これまでに何度そうしたよりもそのからだを強く抱きしめてみるけれど、もう知らない重みと温度のものへ変わっていくだけで。
     
    「ファイノン、お前は生きろ」
     
     最後に君の唇は確かにそうなぞっていた。
     ねぇ、メデイモス、僕は君を救えたのかな。君の何かを掬えたのかな。
     たとえば君の言うように救世主に僕がなれたとして、そこにもう君はいないのに。
     救世主。
     君にそう呼ばれる度、いつもどこかすこしくるしかった。
    (最後に行き着くのが君のいない世界なら、そんなものになんてなりたくなかったよ)
     
    「僕を、ひとりにしないで、」


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    kuromituxxxx

    PROGRESS無数に存在する並行世界のひとつにて、転生できる魂を持つアベンチュリンとその専属医になるレイシオのはなし
    【レイチュリ】明日の僕もどうか愛していて 1 明日にはきっと僕は君のことを忘れている。


     ああ、早く。早く終わればいいのに。
     今日もまた閉め忘れたカーテンから差した陽の光で目を覚ます。朝の透明なきんいろの光の中で瞼を開くのは孤独を確かめることによく似ている。そこにあるのは自分ひとりだけの体温で、ひかりの中にいてもそれに自分の輪郭が溶けることはない。
     アベンチュリンは枕元に置かれた端末に手をのばす。
     液晶に表示された今日の日付を確認する。僕の記憶が確かなら、三日飛んでいる。
    「僕は今回も死ねなかったのか」
     ぽつりと零した言葉も朝の光の中に落ちて溶けてどこかへ行ってしまう。
     ベッドから抜け出して、ひた、と床に裸足の足を着ける。痛みはない。洗面所で鏡を見れば記憶の中と寸分変わらぬ姿かたちのままの自分がいる。平均的な男性より幾分小柄で痩身のからだ、窓から差していた光に似たきんいろの髪、そこから覗くピンクと水色のまるい瞳、首元には奴隷の証である焼印。鏡で自分の体を隈なく確認してみたけれどひとつとして傷痕はなく、だから今回も僕は前回の自分がどう死んだのかがわからない。何度死んでもどうしてか、死んだときのことは思い出せないのだ。
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