両片思い 魔界へ帰るというガンガディアを洞窟へと無理矢理連れてきた。あなたに迷惑はかけられないと言うガンガディアを宥めすかし言いくるめ、手狭だった洞窟を広げて大きな部屋も用意した。
マトリフはそこまでしてガンガディアを側に置きたいと思っていた。それは好敵手に抱く思いではない。ガンガディアへの好意をはっきりと認識してはいたが、告げるつもりはなかった。どうせ数歩先が墓なのだからこのまま持って行くつもりだった。
「また本読んでんのか」
巨体を見上げれば人間用の本を大きな手で持っている。この洞窟に来てからガンガディアは本ばかり読んでいた。
「どれも貴重な本ばかりだ。読む時間が足りないよ」
文字を追う純粋な目の輝きが眩しい。この顔を見れるだけでマトリフは充分だった。残り短い人生に不意に咲いた花を眺めるくらいは許されるだろう。
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