止血「よーし。全員死んだぞ!」
笑顔でウエスターが言った。サウラーは、呆れたように肩をすくめる。
「ねえ、もう少し綺麗にやれないの。血、すごいよ」
「しょうがないじゃないか。武器持ってたんだから。全く、どこから持ち出したのか……」
この国では絶対的弱者である反乱軍も、集まればそれなりに知恵を持つ。
(そもそも、メビウス様に逆らおうって思考した時点で、馬鹿なんだよなぁ……)
サウラーは、もうすぐ身体もろとも抹消されるであろう国民データ達の死に顔を覗き込みながら、そう思った。
「サウラー。何してるんだ?次の任務に行くぞ!」
ぼたっと、サウラーの服に、ウエスターから、血が落ちる。
「ちょっと。何、返り血じゃなかったのかい?どこから出てるんだ」
「あ?口切ったかな」
ウエスターの口から、とめどなく血が流れている。しかし、彼はそれを気にすることなく、舐めながら、言葉を繋ぐ。
「次の任務はなー、えっと。南地区の23番地点の、あーこれは面倒だな」
喋る度、口から血が流れている。
(気にならないのか?)
「ウエスター、喋らなくていい」
「別に痛くないぞ」
キョトンした顔でウエスターが言うが、サウラーは、イライラしながら言葉を返す。
「痛いかはどうかは聞いてないけどさ、服汚れるよ。それで、そのまま君が歩くと、ラビリンス中が汚れるんだけど」
「ああ……それは確かに。とはいえ、次の任務まで時間が無いんだが」
サウラーは、はーと肩を落とす。
「かがんで」
「なんでだ?」
「か・か・ん・で」
「何怒ってるんだよ」
サウラーも、一般の人間の中ではかなり高身長だが、ウエスターとは少し差がある。サウラーが、不服そうに、ウエスターの肩を、両手でぐぐっと下に抑え込もうとするので、ウエスターは仕方なく少し屈んだ。
「あ」
「あ?」
サウラーが『こうしろ』と言わんばかりに、縦に口を開けるので、ウエスターも、反射で口を開ける。
サウラーは、そのままウエスターの口内に舌を入れた。
(うーん。……あ、ここだ)
サウラーは、舌で口内に傷口を見つけると、しばらくそのまま動かない。ウエスターは、何が何だかよく分からなかったが、サウラーに逆らわない方が色々上手くいくと経験が語っているので、そのまま耐えようとした。ただ、少し屈んだ姿勢が厳しくて、小刻みに震えている。
ついに、ウエスターが、サウラーの肩を持って、無理やり引き剥がす。
「サウラー、息ができないんだが」
「え、どうして?鼻ですればいいじゃないか」
「う、うーん。あと、姿勢がきつい……」
「このくらい、筋力で何とかしてよ。それとも、僕がずっとつま先立ちしろって?」
そうしてる間にも、ウエスターの口からまた血が溢れる。
「あーもうほら……まどろっこしいな」
再びサウラーはウエスターに口付けて、止血を試みた。
その背後で、先程死体となったものたちが、炭のように消えていく。管理データが修正されたのだろう。
「……よし、止まった」
「え、本当か!有難い」
「だけど、服は洗濯してよ」
「おう……スミマセン」
ウエスターとサウラーは、次の任務に歩き出す。
そこにあった死体と武器は、既に跡形もなくなっていた。