番外編:無限 空が完全な黄昏の色に染まる前に帰り着く。
玄関に各々の新しいコートの入ったショップバッグを置き、洗面所で手を洗う。
一緒にキッチンへ入って、無限は買ってきた茶菓子を手にミネラルウォーターをピックアップし、リビングで電気ポットに注してスイッチを入れる。その間に、小黒が茶の道具一式と小皿を支度してきてくれた。
「ありがとう」
「うん。無限にしたよ、お茶」
東方美人(オリエンタルビューティー)。蜜の香りと色を持つ茶を、小黒は時折冗談で「無限」と呼ぶ。
「古臭いっていつも言ってるだろ、その冗談」
「冗談じゃないし、全然本気」
ローテーブルへ茶道具と皿を置きながら、無限の開けているケーキの箱の中を覗き込んできた。小黒が評判を聞きてきた新規開店のパティスリーのスペシャリティ、タルト・オ・フィグとピスターシュフランボワーズが収まっている。
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