Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    42_uj

    @42_uj

    ☆quiet follow Send AirSkeb request
    POIPOI 27

    42_uj

    ☆quiet follow

    のばまき。
    渋谷より前。子どもの頃の写真について話すまきさんとのばらちゃんの話。

    (2021年5月25日)

    いつか誰にも見分けられない「ちょっと見てください」って真希さんの肩を叩いたのは交流戦の数日前だったと思う。真希さんは言われるままに私のスマホを覗きこんで、「なんだこれ、野薔薇か? かわいいじゃん」て笑ってくれた。
     スマホの画面には私の小学生のころの写真があった。等身の低い黒髪の私が夕日のなかでかっこつけてカメラを睨んでいる。ふみちゃんが「部屋片付けてたら出てきた」ってスマホで撮影して、LINEで送ってくれた写真。もう忘れちゃったけど、誰か大人から、使ってなかったという使い捨てカメラをもらったんだったかな。ふみちゃんとふたりで「沙織ちゃんもここにいたらなあ」とか言いながら日が暮れるまで写真を撮り合い、ドキドキしながら現象に持って行った。結果はほとんどが光量不足で、たった数枚しかかたちにならなかった写真をどうしたのだったか、ずっと忘れていた。ふみちゃんがもっていてくれたんだね。
    「へえ、変わったけど変わってねえな」と真希さんは物珍しそうに画面のなかの私ミニと私とを見比べていた。「髪、黒かったんだな。ふふ、黒薔薇じゃん」
    「なんですかそれ」
     私もつられて笑ってしまう。
     そうやって和気藹々と会話を重ねてるあいだに、「真希さんの小さいころの写真ってないんですか」って訊いたんだったとおもう。

     そしてその「真希さんの小さいころの写真」がいま私を悩ませているというわけだ。
    「どうした、降参か?」と真希さんは向かいのソファでにやにやとこっちのようすをうかがっている。
    「うう……、もうちょい待ってください」
     私の手のなかにはちょっと古びた写真があり、いや、古びたって感じるのは写真に写る女の子が着物を着ているからかもしれない。女の子ふたりは同じおかっぱ頭で同じ色柄の着物を着て、カメラを知らないみたいななんともいえない表情でこっちを見ている。このどちらかが真希さん。「見たがってただろ、真依に持ってこさせてたんだった。交流戦がおもった以上だったんでしばらく忘れてたけどな」と渡された写真は、あまり写真に残されなかった姉妹の子ども時代の貴重な一枚らしい。ねえやが撮ってくれてたみたいだときいて、わあ別世界だなあとおもった。それで「どっちが私かわかるか?」ときた。「見くびってもらっちゃ困りますよ」と応えたけれど、いくら真剣に見つめても正解は見えてこなかった。ひとりの女の子の2枚の写真を加工して一枚にしましたって言われたらぜんぜん信じちゃう。むかしはふたりともそっくりのいい子だったけど成長するにつれ真依の性格が悪くなり、その差が顔に出てきたみたいなことなんだろうか。
    「時間切れだな」と、とうとう写真を取り上げられてしまう。
    「似過ぎですよ。これ、真希さんも自分がどっちかわかってないんじゃないですか」
     冗談でそう言ったのだけど、
    「いやほんと、マジでわからねえんだよな」
    「えっそんなことってあります⁈」
    「あるんだなこれが」
     真希さんは私から取り上げた写真を今度は自分で眺めている。
    「じゃあその写真って、もう迷宮入りってことですか?」
    「ってことでもない。これは右が私」
    「右」
    「向かって右な」と真希さんはまた私に写真を渡してくれた。言われてみると向かって右の女の子のほうがまっすぐな瞳をしている気がしてくる……けど完全に気のせいだろうな。やっぱり同じ顔だ。
    「位置でわかる的なことですか? なんか、双子の作法……?」
    「なんだよそれ」
    「じゃあなんでわかるんですか、自分でも見分けられないのに」
    「見分けられるやつもいるってことだよ」と真希さんはなぜか自慢げに言った。「あらかじめ真依に確認しておいた」
    「えっやだ。私、真依……さんに負けたってことですか」
    「勝ち負けじゃないだろ」
    「勝ち負けなんですよ」。真希さんにはわからないでしょうけども。「でも真依さんはどうやって見分けてるんでしょうね」
    「さあな。ぜんぜん違う顔だから見分けがつかないほうがおかしいって言ってる」
    「やっぱ私の負けだ……」
     写真を再度見つめても、やっぱり同じ顔にしか見えない。ふざけて「私のほうがいっぱい好きなのに」と口を尖らせると、真希さんは「そう悔しがるなよ」と髪を撫でてくれた。
    「アイツは私のこと嫌ってるからな。一緒にされたくないんだろうよ」
     そういう真希さんの表情がなんとも穏やかなので、私は何も言えない。
    「それに、もしかしたらアイツも見分けなんてついてなくて、適当こいてるだけかもしれないしな」
    「……それは違うとおもいますけどね」と言いながら今度は自分から写真を返した。「ま、これからの真希さんについては私のほうが詳しくなるからいいんです。過去にはとらわれない主義!」
    「まあがんばれ」と真希さんは呆れたように笑ってくれる。「さて、せっかくだから他のやつにもクイズどっちが私でしょうを出しに行くかな」
    「えっそれは嫌です、虎杖が正解とかしたら悔し死にしますよ私」
     そうやってまた軽口を叩き合いながら、たぶんまた険悪になっちゃうだろうけど、今度このひとの妹に会う機会があったら、もっとこのひとの話をしないとな。と考えている。見分けられるやつがいるってきいて、答えを言われる前にアイツのことだなってわかっちゃった。たぶんだけど、双子の子どもの写真について、お母さんが完璧に見分けられるとか、そういうかんじじゃないんだろうな。もしかしたらあのそっくりな顔の女の子ふたりを見分けられるひとって世界にひとりだけなんじゃない? あーあ、なんだろうな。でも遠慮はしませんからねって言っておかないと。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works