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    42_uj

    @42_uj

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    POIPOI 27

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    MEMOいたふし。渋谷より前。虎杖のことが好きな伏黒、そのことを察している虎杖、両方から話をきいている釘崎が映画を見たり願いごとについて話したりします。
    (ワンドロで書いた3篇を2021年6月7日にピクシブにまとめた文章。これは同年12月に本にした際のバージョンです。本では最初の章でした)
    摸造のピクニック2018.10

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     目を開ける。テレビ画面には映画が流れている。光が淡い。淡い光のなか、頭に布をかぶった子どもが顔を傾けてテーブルを睨んでいる。テーブルには液体をたたえたコップ、空のコップ、乾いたふうな瓶が並ぶ。セリフはない。コップがすべるように動いて子どものそばを離れていく。ひとりでに。子どもがなんらかの能力を使って動かしているということなのかもしれない。子どもの標的は瓶に、別のコップにと移り、テーブルに顔の側面を預けてしまった子どもがどこを見ているのか、もうわからない。空のコップはテーブルから落ちてしまった。
    「あ、起きた?」
     ベッドにもたれて画面を見つめる虎杖がこちらを振り向かないままで俺に訊ねる。音を立てたりしたつもりはなかったが、気配で察したのだろう。こいつのこういうところは獣みたいだといつも思う。
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    MEMOのばまき。
    渋谷後。オメガバース、β×Ω。
    恋人同士だけど恋愛関係ではなくてちょっと暗い話です。まきまいを含みます。
    (2021年11月14日)
    もういないひと 最悪だ。またこの夢だ。暗闇のなかで2匹の美しい獣がたわむれている。猫。しなやかな筋肉、すらりとした細身の白い猫。2匹の白猫はお互いの尾を追いかけあってくるくると回っている。かわいい。ほほえましい。夢ってだいたいそういうかんじだけど、やっぱりこの夢でも「夢を見ている私」と「夢の中のその光景を見ている私」がいて、後者をわたしって呼ぶことにしようか。わたしはその光景がいとしくてたまらない。じゃれあう猫たちを見つめながらわたしは「いつまでもいつまでもそうしていなさいね」と心底おもっている。願っている。
     私は早く目を覚ましたいのに目を離せない。
     やがて──何度も繰り返し見ているとおりに──猫の片方が闇に溶けるように消えて、残された猫は片割れを探すように鳴き続ける。鳴き声が枯れてきたころ暗闇から汚れた芝犬が現れる。猫と同じか、少し小さいくらいの子犬だ。子犬の舌が猫の体を撫でるのを、猫が安心したように眠るのを、わたしは恍惚と眺めている。わたしにとってそれはどこか官能的な光景だった。でもそのうち怒りが湧いてくる。子犬を許さないとかんじる。大事なものを失った猫に寄り添うふりして子犬はまんまとじぶんの居場所を得たのだ。打算だ。わたしはその子犬を始末する方法を知っている。直接手をくだすまでもない。藁人形と五寸釘を取り出して、わたし自身の胸に当てる。わたしは金槌をじぶんに向かって振り下ろす。共鳴り。子犬はわたし自身なのだ。だからわたしが死んで子犬も死ぬ。
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    MEMOのばまき。
    のばらちゃんの爪にマニキュアを塗るまきさん。
    読みたいものを書きました。八十八橋後、渋谷前。
    ※虎伏におわせっぽいのがちょっとあります。

    (2021年5月23日)
    ほんとうの敵について あっいかん。これは盛大に投げられた、畜生。畜生っていうのはじぶんへの悪態で、パンダ先輩の悪口じゃないですからね。地面が遠くなって空がちょっと近づく。でもあわてない。怖くない。オーケー。なんなら空の朱色が綺麗。夕焼け。「おーやってるねえ」って真希さんの笑い声がきこえる。きこえるくらい私は冷静だ。滞空の高さがピークを超える。よし、正しく落ちるだけ。これくらいの高さなら呪力でかためる必要もない。前傾の姿勢をつくって衝撃を想像する。そのあとも戦いは続くってこと忘れちゃいけない。最初につま先が地面に触れるけど、そこで着地を脚に任せるのは間違い。体重が膝に乗る前に、用意していた上半身を丸めたまま倒す。落下の衝撃を回転に変えるのだ。両手のひらで地面を受けたら、斜めに前転。右腕、それから背中、左腿でひとつづきに地面をなぞるように転がる。うん、肘も肩も腰もちゃんと庇えた。回りきったらすぐに体を起こす。膝もぜんぜん平気だ。立ち上がりきる前に地面を蹴って、完璧うまい具合にスピードをのせれた。パンダ先輩の巨体に突っ込むみたいに走っていく。けど「よし、今日はここまでだな」と先輩が言うので急ブレーキ。「えっ、もうかよ」。つい気の抜けた声が出た。時計を仰ぐと確かに決められた時間が過ぎたところだった。私は汗まみれだしジャージも砂だらけだけど、でもまだまだやれるって気がする。
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    MEMOパロ。名画座でバイトする虎と宿、大学生の伏
     2本分の予告が終わり、映画館の会員募集のCMが始まる。場内をざっと見渡して、空いてる席の位置を確認。ちゃんと覚えたかってもうひとりに訊ねる。覚えたがお前の仕事だろう、ともうひとりは呆れたように言う。それは本当にそう。でも覚えるとかそういうのはお前のほうが得意なんだから、テキザイテキショってやつじゃんね。
     シアター後方、ロビーに通じる2カ所の扉を閉めたら映写室に戻る。少しだけ残してた照明を最後まで落とす。本編が始まるのに合わせてスクリーン脇のカーテンで画面サイズの調整。ええと、この映画は──ヨーロピアンビスタだ、ともうひとりに教えられる。そうだった。アメリカンビスタとシネスコはボタンをひとつ押せばいいけど、ヨーロピアンとスタンダードは自分で見ながらカーテンを動かさなきゃいけない。その地味な調整を苦手だなあ嫌だなあとかんじるせいで、つい意識の外に置きがちだ。小窓を覗きながらボタンを押し続け、ゆっくり閉まるカーテンを見守る。あともう少しだなとおもったところで、もうひとりがボタンから手を離した。あっ勝手にすんなよなと文句を言うけど、見てみろ丁度だろうと言い返される。そして確認するとその通りだ。もう少しボタンを押し続けていたら縮めすぎになってたはずだ。名画座でのバイトを始めたのは映画が好きな俺のほうなのに、フイルムかけるのもこいつのほうがはやく覚えたしカーテンの調整だって上手い。あーあ、ちょっと悔しい。
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    DONEi0320xf1222ワンウィークドロライ
    お題:舌 スマホを貸与されてからこっち暇なときよくそうしてるみたいにYouTubeで映画のトレーラーを流し見しながら、俺はもう見事なほどに集中できんでいる。隣の部屋で伏黒がずっとごそごそしているのがわかる。
     準備しているのだ。
     俺は通知も来てないのに伏黒とのトーク画面を何度も何度も開いては新しいメッセージがないか確認してしまう。朝から変わらん画面には俺が送った「了解!」のスタンプ、その前に伏黒から来た「届いた。今夜準備できたら連絡する」の文字がある。
     早朝からそんなメッセージを送ってきたくせに今日一日の伏黒はいつも通りそのもので、俺ばっかり挙動不審だったと思う。座学のあいだもずっと眠れなかったし、せっかくの先輩たちとの手合わせの際も集中しきれなくて怒られるどころか呆れられてしまったんじゃないかと思う。釘崎なんか何か察してるんか知らんけど、もはやにやにやされてしまった。明日には何かあったんか訊かれちゃうかもだから、言葉を用意しとかないといけない……。でもこういうそわそわした気持ちで自分の集中が削がれるなんて考えたことなかったから、まあ実戦のときに自覚するよりだいぶマシか。
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