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    42_uj

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    いたふし(にょたゆり)。
    お布団のなかでいちゃいちゃする話。
    ワンウィークドロライのお題「彼氏」で書いた文章を加筆修正しました。

    2021年10月10日

    その指で 歯を磨く。しっかり口をゆすぐ。ベッドに戻る。いちばん小さくしてた天井の電気をぜんぶ消す。とたんに部屋は真っ暗になる──ってわけでもなくて、窓辺でカーテンだけがぼんやり光っている。でも手元はじゅうぶん暗い。手探りで布団をめくり、伏黒の空けてくれてる半分に潜り込む。肘が触れたみたいでちょっと逃げられてしまうけど、大丈夫大丈夫ってかんじで二の腕に二の腕をくっつけにいったら伏黒の腕からもだんだん力が抜かれていくのがわかる。気をゆるされてる感があってうれしい。伏黒の肌はまだ少し湿っていて、なんていうか、セクシーだ。肌と肌との触れてる部分に、サイダーの泡が散るみたいなごく微量のしびれをかんじる。俺はそのしびれに意識を向けながらしばらくぼんやり天井を見つめていて、ダメだ、ぜんぜん眠くならん。
     目もだいぶ暗闇に慣れてくる。
    「伏黒、起きてる?」
     と小声で訊ねた。
     天井を見つめたままだったけど、隣に置かれた伏黒の頭がこっちを向くのがわかった。
    「お前の気配がうるさいせいでな」と小声で返ってくる。「言いたいことがあるんならはっきり言えよ」
    「あ、わかっちゃう?」
    「そりゃそれだけそわそわしてたらわかるだろ」
    「うん、ごめん」
    「なんなんだ」
    「ええと、訊きたいことがあって」
     でもちょっと訊きづらいことなので言い淀んでしまう。
    「いいから言え」
    「わかったから声落として」
     と言いながら体ごと向きを変え、しっかり伏黒のほうを見る。伏黒は仰向けの姿勢のまま首だけを倒してこちらを見つめている。ふたつの目ん玉が夜のかすかなひかりを集めて反射して、小さい海が並んでるみたいにきれい。でもこのまま見惚れてたら絶対に怒られるから、意を決して、言う。
    「伏黒って、もしかして、彼氏いたりする?」
     言った。
    「はあ⁈」
    「待って、声でかいよ」
     俺はあわてて頭まで布団をかぶる。伏黒の頭ごとすっぽりと。今度こそ真っ暗だ。
    「また釘崎に喘ぎ声がうるさいって叱られるじゃん」
    「は? あんな喘ぎ声があってたまるかよ。俺の喘ぎ声はもっとかわいいだろ」
    「じぶんでじぶんの喘ぎ声かわいいとか言うんだ⁈」
    「お前がいつもかわいいかわいい言ってんだろうが」
     それは、はい、その通りですが……。布団を引き上げた勢いで布団の外にはみ出てしまった足首が、伏黒によってがんがん蹴られる。地味に痛いけど無視。
    「はい。話戻すね。彼氏とかいるの?」
     と俺が言うのをきき、暗闇のなかで伏黒は長いため息を漏らす。身じろぎの気配がして、伏黒も体をこっちに向けたのがわかった。肩に伏黒の指先が触れたかとおもうと、指先はするする位置を変え、俺の首のうしろを撫で始める。
    「よく考えてみろ」と伏黒は声を潜めて言う。「俺が同性の同級生とお布団のなかでお互い裸でひっついたりしながら、別に彼氏をつくったりできるような、そういう器用な人間だとおもうか?」
    「いや伏黒は器用な人間じゃん。平気で嘘つくし」
    「でも彼氏はいない。これは嘘じゃないからな」
    「じゃあいた? 中学生のときとか」
     伏黒って大人っぽいから、家庭教師のどこぞの大学生と付き合ってたとか言われても驚かんなとおもう。いや不良少女伏黒に家庭教師がついてたとはおもえんし、中学生女子と付き合おうとする大学生はちょっと死んだほうがいいけど。ていうかこんな想像してごめんねってかんじだ。
    「いたわけないだろ」
     伏黒はまたため息をつきながらそう答えた。
    「いたわけないのか」と俺は復唱する。
    「ああ。それにこの先も彼氏とやらは永遠にいない」
    「じゃあ、彼氏じゃなくて。……なんていうの? 男?」
    「過去も未来も現在も、彼氏も男もいないし、いらねえ」
    「言い切るねえ……」
    「わかって言ってんだろ」
     と言う伏黒の声にはだいぶ棘が含まれていた。
    「……ごめん」
    「てかなんでいきなりそういう話になるんだよ」
    「言ったら伏黒、怒るかも」
    「内容による」
     俺の首を撫で続ける指にすこし力が加わるので、素直に引き寄せられてあげる。両手で頬を包まれる。すぐ目の前に伏黒の顔があるのが息づかいでわかる。ちゅーするんかなとおもってちょっと待ったけど、しないんですね。
    「じゃあ言っちゃうけど」と俺は観念する。「伏黒、お財布にゴム入れてるよね?」
    「ゴム?」
    「コンドーム」
    「ああ」と伏黒はあっさり肯定する。「入ってるな」
    「あれはなんなんですか」
     勝手に他人の財布を覗くなとか余計な詮索をするなって殴られるんかとおもってた。伏黒は伏黒で俺がそんなことを気にしてたなんておもいもしなかったみたいで、お互いに拍子抜けってかんじの声色だ。
     伏黒はちょっと迷いがあるみたいに間を置いて、
    「……言っても虎杖、引くなよ」
    「内容によるね」
     わざとついさっきの逆みたいにした会話に、ふたりでクスクス笑う。
    「じゃあ言う。あれは」と伏黒の声はふたたび途切れるけど、これは迷いとかじゃなく、単に言葉を探しているだけのようだった。「説明がむつかしいな……こう、運搬用だ」
    「運搬用」
     と俺は言われた言葉をそのまま繰り返す。理解は全然できていない。
    「任務に呪物の奪取があったりするだろ」
    「両面宿儺の指をとってこい、みたいな?」
    「そう。それがもし同時にいろんなやつに狙われてて、こっそり持ち出さないといけないとする。あと簡単に奪われてもいけない。隠すのにちょうどいい場所があるだろ?」
    「……?」
     いや言わんとすることはわかるんだけど、ちょうどいいとはマジでおもわん。伏黒は俺の困惑を無視して話を続ける。
    「そこにいれようとおもうと、まあそのまま直で突っ込むわけにはいかないし、包んでいれるための道具がある。どうだ、わかったか」
    「直接的な表現していいですか伏黒さん」
    「許す」
    「ゴムは、こっそり運ばなきゃいかんものを包んで……」と俺もさすがに表現に悩む。「下のお口に突っ込む用ってことね?」
     また足首を蹴られる。じぶんでもナシだなとはおもったんだけどね。「いやごめん」っていちおう謝る。
    「引いたか?」
    「引くっていうか、心配になるよね。呪物なかに入れるとか、絶対キケンなやつじゃん」
    「まあ、そうだろうな」
    「実行したことあるの?」
    「実行したことはない。勝手に考えて備えてただけだな。ふふ、まあお前はそのキケンなやつを直に飲み込んでるわけだけど」
    「上のお口でね」とふざけながら、俺のなかには素朴な疑問がある。「でも伏黒には影があるよね? 影にもヤバいもん入れていいのか知らんけど」
    「それは影に入れておけるって気づいたの自体がわりに最近だから」
    「なるほどね。でもそれならその、人体の不思議と申しますか、なかに突っ込もうみたいなのはむかしから考えてたってこと? 中学生が?」
     俺はやっぱり伏黒のことが心配になる。もしかして先生が悪? 先生のよくない入れ知恵っていうか先生に騙されてる的なかんじなの?と頭のなかにいるへらへらモードの先生を勝手に憎みそうになるけど、「五条先生に何か言われたとかじゃないからな」と先に釘を刺される。それはなによりです。
     伏黒は俺の頬をむにむにしたり頭を撫でたりしていた手を離して、今度は胸に顔を埋めてくる。俺は伏黒の背中に手を回す。伏黒も同じように俺の背に触れるので、ぴったり抱き合うかたちになる。
    「ちょっと伏黒、おっぱいにほっぺうりうりするのやめて」
    「じぶんから押し付けてきたくせに」
    「うう、くすぐってえ」
    「ふ。乳首が刺さる」
     と俺たちはちょっとおちゃらけた雰囲気をつくるけど、それは伏黒がシリアスなことを言おうとする伏線でもある。
    「別に中学のときも、備えちゃいたけど実行するつもりがあったわけじゃない。使い道のない余計な穴に、なんか利用価値があったほうがマシな気がしただけだ」
     ほらね。
     伏黒の、女に生まれたことへの憎しみのような気持ちとか、俺とお布団のなかでお互い裸でひっついたりする(これは伏黒の言いかたの真似です)ことでその憎しみがすこしマシになってるんだろうなってことを、説明されたことはないけど、俺はなんとなく察している。だけどいつもなんて言ってやればいいのかわからんし、今回も同じだ。
    「なるほど」とだけ応える。
     伏黒もそれ以上の説明はしなかった。代わりに、
    「でも使うんじゃないか、相手が女でも」
     と話をかえてくる。
    「使う?」
    「コンドーム」
    「水風船にするとかじゃなくてだよね」
    「なに純朴ぶってんだよ」
     と伏黒は舌打ちして、俺の、伏黒の背中に回してるのとは逆の手をシーツのうえから拾いあげる。流れで体を離されたので、やっとおっぱいが解放されたってほっとする。俺たちは布団をかぶったままでいるから相変わらず視界は真っ暗なんだけど、伏黒は見えてるみたいに俺の指をなぞる。伏黒の両手は俺の左手にかるくこぶしをにぎらせてから、中指と人差し指だけをのばさせる。そして伏黒の片方の手が俺の手首を掴んで固定、もう片方の手の親指と──見えんからわからんけど、たぶん──人差し指がつくった細い輪に、俺の中指&人差し指がゆっくりと通される。見えないせいで肌が余計に情報を拾う気がする。存在しないゴムをかぶせられてる2本の指に、またあのサイダーみたいなしびれを感じている。
    「で、いれるだろ」と伏黒の声が言う。「まあ素手でやることもあるんだろうけど、エチケットとして」
     指用のコンドームもあるらしいぞとか説明をされながら、俺はワーッてなっちゃって、なんか動揺っていうか感動っていうか、伏黒の指が離れていったあとも不恰好なピースサインみたいな2本の指を動かせないでいる。ヤバい。そっかー、手マンなら男女差ないもんな!て叫びたいけど、もう蹴られたくないので我慢我慢。つい、この2本の指が湿った、あたたかい、やわらかい場所に包まれるところを想像してしまう。さっき伏黒がつくった指の輪っかよりもずっと小さい輪に触れるんだろうなとか。指が引き絞られるとき、あの弾けるみたいなしびれはどれだけ訪れるんだろう。今まで考えたことなかったのが嘘みたい。たぶん俺、顔真っ赤だ。布団をかぶっておいてよかった。口のなかにたまっていた唾を飲みくだして、
    「い、いれるのもありなんですね」
     とだけ声を絞り出した。
    「なんで敬語なんだよ」と笑われる。「まあお前がやってくれるってんなら」
     これは「指をいれるのがありかどうか」の答えだ。その言いかたに、俺って伏黒にそれをやらせてもらうんじゃなくて伏黒にやってあげるってことになるんですねって、はあ。ヤバいじゃん。いや伏黒のそういうところには言ってやりたいことが100個あるけど、それはそれとしてまた顔が熱くなる。
     伏黒が「布団暑いな。あと足はさみい」と言いながらお布団を定位置に戻してしまうので、これで赤面もバレバレだ。と焦るけど、暗闇に慣れた目でも彩度はわからん薄暗い部屋なのでセーフ。
    「お前、顔あっついな」
     と頬に触れられるのでアウトだった。モノトーンの薄暗い視界で伏黒が微笑んでいる。
    「だって今ちょっと、新章突入!てかんじだからね。マジで」
    「なんのだよ」
     とまた笑われる。俺からするとなんで伏黒はそんなに飄々としてられんのかってそれが不思議だ。
    「はー、わからん」といろんな気持ちを込めて言った。「けど、とりあえずこれから爪をちゃんと切るし、釘崎からマニキュアもらうのもやめマス」
    「はは。ふつう舐めるほうがハードル高くないか?」
    「そうなん? やっぱいれるってなると傷つける感あって怖いじゃん」
    「俺は傷つかない」
     伏黒が眉間に皺を寄せて怖い顔をするので、手を伸ばして眉間を撫でてやる。猫が飼い主の手に擦り寄るみたいに伏黒は俺の掌に頬を寄せてきて、はい、かわいいかわいい。どちらからともなく顔を近づけ、おでことおでこをくっつけて、鼻と鼻をすり合わせる。
     そうだね伏黒、お前は傷つかない、傷つかないよって念じる。
    「ちゅーする?」とおうかがいをたてると、
    「いや、しない」
     肩を軽く押されて、体が離される。
    「なんで」
    「これ以上濡れたら替えたパンツがもったいないから。もう触ってくれなくていい」
    「待って」
     色気もクソもない言い分に今度はこっちが笑わされてしまう。待って笑かさないで、のほかに、待って触ってあげてるんじゃなくて俺が触りたくて触ってるんよ、と言いたいけど、ずっとうまく伝えられない。
     伏黒は切り替えが早くて、もう仰向けの姿勢に戻っている。俺もそれに従う。
    「彼女は?」と俺は天井に向かって言う。
    「は?」と伏黒。
     もう声が眠そうだ。
    「彼氏とか男は過去未来現在いないとして、彼女はいた?」
    「いない。先に言っとくけど、彼女じゃない女もいたことないからな」
    「じゃあ彼女、いまはいる?」
     と俺は訊くけど、ここからはもう消化試合ってかんじだ。
    「いないな」
     と伏黒は思った通りの答えを言った。
    「え〜、俺は?」
    「友だちだろ。同じ布団にお互い裸で入る友だち」
    「伏黒がそれでいいって言うならいいんだけどさ」と返しながら、いつもとちょっと趣向を変えることを思いつく。「でも釘崎も友だちじゃん? 釘崎とも入るのお布団」
    「釘崎か……」
     伏黒はちょっと考え込む。
    「考え込まないでよ」
    「ありかなしかで言ったらありだけど、あいつは友だちとはこういうことしないだろ。俺は友だちとするのがいいんだよ。だからなし」
    「そこはさあ、伏黒。いたどりお前だけだよって言うところじゃん」
    「はは、虎杖、お前くらいだよ」
    「そうじゃなくて」
    「悪かった。お前だけだ」
    「なら彼女でよくない? 友だちで、かつ彼女。どっちもならいいだろ」
    「わかったわかった」
     と伏黒は言うけど、絶対にわかってない。
     たぶん伏黒に告白されて受け入れた最初に俺が恋愛とかわかんないけどって言ったのを、伏黒はずっと尊重してくれてるんだよね。でも別に俺は恋愛とかじゃなくても、伏黒をえっちだとおもうしかわいいし、触らせてもらってうれしい。触りたい。別にそういうことするのに友だちって関係では足りないなんて思わんけど、でも俺は俺で、伏黒の俺への恋心を尊重したいのだ。だから友だちも恋人もどっちもでいいじゃんって心底おもう。
     俺に恋がなかったとしてもね。
    「あーあ、伏黒さんはいつになったらわかってくれるんだろーな」
     わざと嫌味ったらしく棒読みで言うと、
    「ふ。いつだろうな」と伏黒は楽しそうに返す。「まあせいぜい長生きしろよ」
     なんて、そんなこと言われたら黙るしかない。ずるい。
     黙っていると隣から寝息がきこえはじめる。起こしたりしないように、口の動きだけで「お前もな」って言ってやる。お前も長生きしろよ。まあこれ前にも言ったけどね。
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