ギレルが『赤き死神』と呼ばれることになったこの日から遡ること数日。帝国に潜り込ませた諜報員から帝国軍が飛行系ゾイド――スナイプテラの発掘、復元に成功したという情報が入った。ようやく帝国軍との戦力差の溝が埋まり始めた共和国軍としてはなんとしても食い止めたい。そこで実戦投入される前に開発基地を襲撃、撃破。あわよくばスナイプテラを強奪するという作戦がたてられた。
作戦に当たったのは共和国軍でも指折りのライダーがいる第五師団。ディアスは連隊長として作戦に参加していた。
プランAはいたってシンプルだ。まずは帝国軍基地に潜入している複数の諜報員が無線通信をジャックし、情報を混乱させる。スナイプテラが格納されている場所は判明していたのでそこを集中砲火する。帝国のゾイドはゾイドオペレーターシステムを採用していることから、ライダーさえ乗せなければどうとでもなるというわけだ。もしスナイプテラに出撃された場合はプランBに移行。本隊は敵基地の主力部隊の迎撃しつつ基地を制圧。ディアスが指揮する狙撃班は援護射撃しつつ、ターゲットを狙う。
しんと張り詰めた冬の空。己の息遣いさえ聞こえそうな静けさの中、悪夢は突然始まった。
指揮官の号令で全軍が敵基地格納庫に向けて照準を合わせていたそのとき。薄い雲を切り裂くようにして赤い閃光が煌めいた。
作戦はすぐさまプランBに移行された。だが想定していたよりも早く敵基地の主力部隊が展開。恐ろしいほど統率の取れた部隊を前に第五師団は苦戦した。
狙撃班も善戦はしたが相手が上だった。いくら弾幕を張っても正確無比に飛んでくる攻撃は避けようがなく、気が付けば第五師団は沈黙していた。
共和国軍の増援部隊が駆け付けた頃には帝国軍基地はもぬけの殻。スナイプテラはおろか、研究施設はデータ収集ができないように徹底的に破壊されるという念の入れようだった。
第五師団と敵主力部隊。けして引けを取るような戦力差ではなかったはずだ。実際共和国軍のゾイドを戦闘不能においやったのはスナイプテラたった一機で、主力部隊は共和国軍が基地内に侵入しないよう足止めしているに過ぎなかった。
『赤き死神』
スナイプテラの専属ライダーであるクリストファー・ギレルがその二つ名を冠するのに時間はかからなかった。