「オレに話って?」
休憩中、バ先の後輩に呼び出され店の裏にやってきた。まぁ、察しはついている。
「あ、あの……わ、私……」
ほらね。
「ラギー先輩のことが好きですっ!」
顔を真っ赤に染めながらも、しっかりとオレの眼を見て伝えてくる姿が何ともいじらしい。
とは言えオレの答えは決まっていて
「ごめんだけどオレ……」
「彼女さん。いるんですよね?」
眉を下げながらも笑顔を作る後輩
「知ってました。わかってました。フラれる事も。でも私、ラギー先輩のことが本当に好きで……好きで好きで大好きで………。伝えたくて仕方なくなって……」
わかっていた。何て言いながらも、予想通りの反応にそれなりのショックを受けている様子。
「だから……。聞いてくれてありがとうございました。……へへ、仕事戻りますね!」
ガチャン
ドアが閉まるまで何となくその背中を見送った。
「伝えたくて仕方なくなって……かぁ。」
彼女にも
ユウくんにも
そんな時があるのだろうか…………。
.。o○.。o○.。o○.。o○
「ユウくんってさぁー、オレのこと好きって言わないッスよねぇ。」
「そう?常に言ってる気かするけどなぁ」
「それは二次元のキャラに言うような 好きでしょ!その顔好きー♡ その仕草たまんない♡アンタの好きはそんなんばっかりッスよ。」
そう、拗ねたように言うブッチくん。
言われてみればそうかも知れない。
初めこそ二次元と混同していて部分はあったが、でも今はちゃんとブッチくんを三次元の彼氏として好………
「ってな訳で。言ってほしいんスけど」
「へ?」
「へ?じゃない!話聞いてなかったんスか?!好きって言ってって言ってんの!」
身を乗り出し、食い気味に求められ圧倒されてしまう。
「えっ!ちょ、そんないきなり……」
「いきなりだろうが何だろうが言えるでしょ?付き合ってんだから。」
簡単に言ってくれるぜ!
「ぶ、ブッチくんだってさぁー。人のこと言えないでしょ?」
「はぁ!?オレ?」
「そうだよ!いっつも意地張って素直じゃないじゃん。ブッチくんが先に言って?そしたら私も言う。」
その言葉にブッチくんはニヤリと笑い、更に私との距離を縮める。視線は私の瞳を捉えて逃がさない。
「オレはユウくんのこと、そりゃあもうだぁ~~い好きッスよ♡何たってユウくんの姿見たさに柄にも無く飲み会に参加したり、興味も無い講義に足を運んだりしたぐらいッスから♡」
「ッ////////」
その言葉に、声に
あざとい表情に
顔の温度が一気に上がる。
「っ っ ! !もう!ズルい!!」
「何がズルいんスか。素直な気持ちを伝えただけでしょーが。」
さっきの可愛い顔はどこへやら
呆れ気味に私に抗議してくる
「なんかちょっと芝居がかった言い方だったし。台詞だって、」
ほんとに何をやっても何を言っても様になるから悔しい
「でも事実てしょ。さ、ユウくんの番スよ。」
「わかってるよ!うぅ~~。
す、……すー、」
勢いよく吸い込んだ息は
言葉に成るのを躊躇う
「はやく」
「急かさないで!
す………すーー、んーー、あ~~~」
どうしても2文字めが出てこない
「はぁ ねぇユウくん、
流石のオレも傷付くんスけど……」
「う……ごめん」
ブッチくんの悲しそうな顔……久しぶりに見た。2人で居ればいつだって楽しくて、笑っていられるのに。
「でもま、無理に言わせても意味ないし」
「え?」
「無理強いしてごめんね?」
そっと私の頭を撫でる彼の大きな手は優しくて。胸がぎゅっと痛んだ。
強引だったり意地悪だったり
自分勝手にみえても肝心なところでは
私を何よりも優先してくれる人なのだ。
.。o○.。o○.。o○.。o○
あんな形で言わせたって満たされる筈がない。それでも…
「言ってほしかったなあー。」
「え?なんか言った?」
夕食のお礼だと、キッチンで後片付けをする彼女の耳にオレのぼやきは届いていたようで、こちらを振り返る。
「いいや、なんでもないッスよ。
ただの独り言」
「そ?」
彼女はシンクに向き直った
先程から聞き知れないメロディを口ずさんでいる。きっとボカロなのだろう
毎朝、ヨレヨレのシャツに袖を通し
野暮ったく前髪を下ろす
そんなオレとは正反対に
ユウくんはこの春トレンドであろうファッションで身を包み、隙無くセットされた髪を揺らしながら、颯爽とキャンパス内を歩く。
その姿を遠目に見ながら
家でのゆる~~い姿を知っているのは自分だけだという優越感と、あれが自分の恋人だと公言できない憂鬱さを抱える日々。
ヴーーーヴーーーヴーーー♪
「あれ?私のスマホ?」
「いや、ごめんオレの。」
「りょーかい」
彼女が作業に戻った事を確認すると
その目を盗み、数秒前の着信履歴を彼女のスマホから削除する。
ゼミの先輩だかで、参考資料やら要点やら、世話をやくふりをして彼女に近付く害虫だ。オレからすれば下心丸判りなその態度も、良くも悪くも三次元に興味のないユウくんには好意すら伝わっていない。
だから距離を取らないし付け入られる。
無防備でオレを不安にさせるくせに
苛立たせるくせに
「好き」の一言の安心材料すら与えてくれない彼女に、ふつふつと怒りが沸き上がる。
.。o○.。o○.。o○.。o○
「ラギー先輩ありがとうございます。
あがりだったのに買い出しに付いて来てもらっちゃって。」
「まったくッスよ~
この量の買い出しを女の子一人に任せるとか……あの店長どうかしてるよな。
はァ、後で残業手当てきっちりせしめねーと」
「ふふ、ありがとうございます。」
「それさっきも聞いたけど」
「そうじゃなくて」
「?」
「告白した後も変わらず接してくれて。」
「………。」
変わらず接する事ができるのは
単にキミに興味がないから。
なんて本音は口には出さず
「ま、バイト仲間なんで。」
テキトーな言葉を返すも
後輩は嬉しそうに微笑んだ。
「……………すきだなぁ。やっぱり好きだ」
オレのことをラギー先輩と名前で呼び
まっすぐ好きだと伝えてくる
ユウくんがくれないモノを
この子は容易くオレに差し出してくる。
だがその2度めの告白は
呆気なくオレの耳をすり抜けた。
「………ユウくん!」
聞かれた??
放心しているのだろうか、薄く唇を開いて彼女はこちらを見ていた。
「えっと、これはッスね………」
流石のユウくんでも彼氏が他の女の子に告白されている現場など見たくはなかっただろぅ。
しかもそんな子と一緒に買い出しに行っていたとか、、、。
「ユウくん……ごめ…「わっ!、え……ごめん!私タイミング悪かったね!」
「??!」
「あっちの公園で待ってるから!」
後輩にぺこりと頭を下げて足早にこの場を去って行くユウくん
(はぁ?!)
「綺麗な人てすね~。見惚れちゃいました。ラギー先輩のお友達ですか?」
あの態度を見ればあれがオレの彼女とは思わないッスよね。
これまで溜め込んだモヤモヤが腹の奥で一気に塊っていく。
「ごめん。先に荷物置いて帰る」
ダッシュで店に戻り荷物を置くと
店長に嫌味の1つすら残さず
急いで公園へと向かった。
.。o○.。o○.。o○.。o○
「たいッ……」
帰り道は強引に彼女の手を引き
投げ掛けられる言葉はすべて無視した。
やがて彼女も喋らなくなり
無言のまま、ズカズカと寝室まで来た。
「ねぇ、どうしたの?何か怒って……」
半ば乱暴にベッドに押し倒せば
「ねえ、まって……ちょ…っとまっ……て
何があったか聞かせ……」
オレの手首を抑え、力いっぱい抵抗する彼女。構わず襟元を下げ無防備になった首筋を舌で愛撫する。
「ひゃ……ん……や…だッッ!こんな風に始めないで!………何に怒ってるの?」
あーーー。煩い煩い煩い煩い
苛立ちのままに彼女の白くて綺麗な肌に犬歯を這わせる。
「ん………ぁ!」
どことなく舌に感じる血の味が
更にアドレナリンを分泌させる。
ゆっくりと体を起こせば、怯えたユウくんの瞳が映る。
「オレが怖い?」
眉をひそめオレの様子を伺う彼女
「いつもと違う?」
荒くなった息を整えながらこくりと頷く
「だったらちゃんと満たしてよ」