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    しいげ

    @shiige6

    二次創作オンリー※BLを含む/過去ログは過去に置いてきた。

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    POIPOI 239

    しいげ

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    闇の呪印ラルアル(https://poipiku.com/237679/9808443.html)のサブ話。ED後、ジュリアの家で治療中のラルフとヘクターの会話が書きたかった。

    ##悪魔城ドラキュラ
    #ラルアル
    ralu

    大狗のやすむ山にてアイザック相手に不覚を取り死の淵を彷徨ったあと、ラルフは見知らぬ家で目を覚ました。助けられたこと、そして魔女の家と聞けば、ひとまず人里離れた場所であることは見当がつく。
    悪魔精錬士の関係者であるというジュリアは有能な『魔女』だった。臆せずラルフの治療を続け、お陰で傷は回復していったが、傷の深さゆえ起き上がることすらままならない日々が続く。
    アイザックは、悪魔城はどうなったのか。
    ラルフの懸念を見越し、意識が戻ってすぐにジュリアは事の次第を説明した。その場にヘクターもいたことが全てが終わった何よりの証だった。

    病人の部屋の扉をそっと開きながら、ヘクターが声をかける。
    「…起きているか、ベルモンド」
    熱が上がり、汗で髪が貼り付いた顔をラルフはだるそうに声の主へ向ける。
    熱を出せるまで回復したのだから喜ばしいことだ、とは思ってもろくに体が動かせないことはひたすらに歯痒い。ほぼ寝たきりで体もすっかり鈍っている。
    「ジュリアの薬だ。飲めるか」
    言いながらヘクターは自らが使役する悪魔に指示し、ラルフの重たい体を寝台から起き上がらせる。ヘクター自身も華奢ではないどころかかなりの手練だが、ラルフはそれ以上の体躯の持ち主だ。身の回りの世話をするだけでひと仕事だが、悪魔の力なら別ということだ。
    悪魔の支える手に体を預けることにも慣れ、手渡された造血の薬を口に含む。まずいと感じるのは生きている証拠だとありがたく思うことにし、ラルフは飲み干した器を無造作に差戻す。

    「…便利なものだな、悪魔精錬とは」

    空いた口からふと思っていた言葉が出る。
    話しかけられると思っていなかったのか、ヘクターは器を受け取る手と共に、虚をつかれたように動きを止めた。
    「悪魔が人に従う理由は、契約か、付き従うふりで逆に操っているかだ。いずれも代償がいる。だがこの悪魔は違うようだ…お前に完全に服従しているように見える」
    ラルフが持つのは悪魔と戦うたの一般知識程度だ。ヘクターほど悪魔側への関わりを極め体現した者は単純に興味深い。
    ラルフの体を寝台に横たえさせる間、ヘクターは説明の言葉を探しているようだった。
    「──悪魔精錬は、簡単に言えば魔力を変換し形と自我を与えるもの。俺の意に従うよう創ることはできても、無垢であるがゆえ弱った人間の心に入り込み破滅をもたらすこともある。それが悪魔の本質だからだ。呪われた力であることに変わりはない…」
    ほう、とラルフは理解できる部分にだけ耳を傾ける。ひとまず、悪魔を使役する折に必ずヘクターが共にいる理由は察した。
    弱ったラルフに『魔』が入り込まないよう監視しているのだ。
    真面目なことだと感心すらする。ドラキュラの元で死神と並び称された存在とは思えないほど、人に対し純粋な男だ。それともそうであったから離反する羽目になったのだろうか。
    まあ、終わったことをあれこれ詮索する気はない。この男が世から隠れ、自らの力と共に生きていくと決めたのなら、ラルフが鞭を向ける必要はなくなったのだから。
    「呪われた力とやらも…使い方次第…だろう?」
    ラルフはそういう男をひとり知っている。独り言のように口から出たものだが、ヘクターには響いたらしく生真面目な答えが返ってくる。
    「…俺も以前はそう思っていたがな。結局のところ……ベルモンド?」
    ぼやけ始めた意識からはヘクターの声が遠のいていき、代わりに誰かの陰がちらつく。
    ジュリアが作るいつもの薬なら、鎮痛と睡眠の効能もあるはずだ。抗うことはせず目を伏せる。
    「──……」
    ヘクターが黙って出ていく気配を意識に捉えつつ、眠りに落ちるまでに思っていたのは、遠い空の向こう。山を越えた先。羽根のない自分にはまだ戻れない場所。



    ✳  ✳  ✳



    人並みに休み、眠り、目を開くごとに、ラルフの焦りは確実に募っていった。
    命を拾ったことはありがたいが、アルカードに何も説明せずに出てきたことが今更に悔やまれる。
    死にかけてつくづく身につまされた。あのまま死んでいたら後悔すらできず、アルカードをひとりにするところだった。
    (あいつの方は平気で生きていけるのかも知れないが、「待っていろ」と言ったからには何としても戻らなきゃな)
    便りを出す手段すら持たない身では待つしかない。歩いたり体をある程度動かせるまでは回復したが、旅に耐える体力はまだ戻っていない。ましてや道中で悪魔との戦闘にでもなれば勝ち目は薄く、結局アルカードの元へは帰れなくなる。
    それがわかってはいるが気が急くラルフに、ヘクターは自ら精錬した悪魔を一体同行させると言い出した。
    「野生の獣や並の悪魔程度なら、俺から離れても用は足りる筈だ。ただし俺の指示なしでは戦闘以外のことはできない。旅の体力と気力は十分に養っておくことだ」
    「…ありがたい…のかもしれんが、用が済んだらどうすればいい」
    「破壊すればいい。それで魂は俺のもとへ戻ってくる」
    悪魔精錬とは何でもありだなと思いつつ、戻る目処が立ったことを手放しで喜ぶ自分にラルフは呆れる。「ジュリアは反対したからな」と言い添えて、わざわざ彼女のいない時を選んで申し出てくれた訳だ。
    「無間回廊のことといい、ヘクター、お前には重ねて借りができた」
    「それには及ばない。…お前には、待つ者がいるんだろう?」
    ヘクターの言葉にラルフは驚く。傷にうなされてアルカードのことを口にでもしたのだろうか。
    「見ていればわかるさ。ドラキュラの消滅した地に用がないのは当然として、お前の焦りはそれ以上のものを感じる」
    「………」
    「…人には英雄、悪魔には脅威で名高いベルモンドにも人らしいところがあると感心していたのさ。皮肉じゃない」
    ヘクターが珍しく笑うように口を上げた。実際、はにかんだのだろう。
    「ふ…皮肉だとしても構わないがな。俺も、頭から悪魔精錬士という肩書でしかお前のことを見ていなかった」
    ラルフの言い返しに、はっ、と声を上げてヘクターが笑い、それから眩しいものを見るように目を細めた。
    「──帰る場所があるというのは、いいものなのだな」
    それがラルフの願い。
    アルカードの元へ帰りたい。そうだ、帰る場所だと思っている。約束だからという以上にただ会いたいと、胸中に渦巻くこの寂しさや恋しさをヘクターは羨ましいと言う。

    (──かつての悪魔城を知る唯一の男、か)

    長引く滞在の間、特に命の恩人であるジュリアにはラルフ自身のことは話してあったし、ジュリアやヘクターの事情も一通りは聞いていた。だから今や、魔女や悪魔精錬士という以上に彼らのことを知っている。こうして言葉を交わすとなおさらに。
    腹を割って話をしてみるのもいい気がした。

    「ヘクター。お前はアルカードを知っているか?俺が待たせているのはそいつだ」

    名を聞いてすぐに心当たりに行き着いたようで、ヘクターの目が見開かれる。
    「アルカード……アドリアン様のことか?ドラキュラのご子息の…生きているとは」
    「様、ときたか。離反したお前が敬称で呼ぶほどの間柄だったのか?」
    「…俺がドラキュラの元から逃げるしかできなかったとき、彼は立ち向かいことを成し遂げた。敬意を表して然るべきだ」
    ヘクターの真剣さにラルフは苦笑を飲み込む。
    「だがその後、奴の残した呪いを祓い復活を阻止したのはお前だ。俺はそれも世に認められてしかるべきと思うが」
    「……よしてくれ」
    真に厭わしそうにヘクターは表情を歪める。ヘクターの過去は決して英雄視されるものではないだろうし、当人が本当に望んでいないのは理解している。
    (アドリアン。それもアルカードの名か)
    ヘクターにはそちらの名が、ラルフには言い慣れた名の方がしっくりくるので、特に統一せず話は続く。
    「アルカードとは親しかったのか?」
    「…それほどではない。姿は何度も見かけていたが、普通の人間のようだなと思った程度だ。もちろん力を軽視するつもりはなかったが…母君が人間であることを聞いていたからかもな。──」

    ぐ、とヘクターが言い淀んだのをラルフは気づく。

    「その母親を目の前で…魔女として焼き殺されたとは、後で知ったことだ…」

    「──…」
    魔女狩りそのものにラルフは立ち会った経験はないが、生きたまま火に焼かれる苦痛を人に与えることには懐疑的だ。魔と直接戦う力を持たない民衆なりの対応策ではあるが、ラルフからすればそれほどの数の『魔女』が市井に紛れているとは考えにくい。
    その犠牲者の一人がアルカードの母…つまりドラキュラの妻だ。
    ヘクター自身が失った恋人とも重なるのだろう。苦悩に顔を歪める目の前の男に一瞬アルカードが重なって見えた。

    「あいつもお前とは敵対しないだろう。もし望むなら、会いに来ればいい。お前もジュリアも。いっそワラキアを離れて移り住めばどうだ」
    「…やめておこう。ここは曲がりなりにも俺の故郷だ。それに、英雄ラルフ・ベルモンドの周囲がどんなものかは想像がつく」
    確かにドラキュラ討伐後は、良くも悪くもラルフの周囲に人が増した。いまさらその中に入りたいとは思わないということだろう。予想できていた答えなので特に何とも思わない。

    「だが、そうか…アドリアン様は、それでもお前と生きる事を選んだのだな」
    ヘクターの呟きに顔を上げると、ラルフを見据える視線と目が合った。
    「ベルモンド、必ず…かの方を守れ」
    「言われるまでもない」
    ヘクターなりの餞別の言葉を受け取り、ラルフは力強く頷く。
    アルカードは間違いなく怒るだろうし、事の次第をどう伝えるか悩む気持ちもある。だが待っていてくれることを疑いはしないし、全ては戻ってから考えればいいことだ。
    今はただ、待つ者の元へ戻る時が待ち遠しかった。
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