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    Ichiruri

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    Ichiruri

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    転生学パロ/男子校で姫をすることになった鷹見くんのお話/食券&炎司先輩と一緒にいるために姫やってます✌️/炎司先輩は姫護衛/長いのでシリーズ化/途中まで

    男子校の姫、鷹見くんシリーズ◎転生学パロ
    ◎鷹見くんが男子校の姫になるおはなし
    ◎個性はあるけど職業ヒーローはいない?世界
    ◎年齢操作あり



     ◆◇◆


     物心がついた時から啓悟は、自分以外の記憶を有していた。

     【前世】を覚えている。

     【ヒーロー】を覚えている。

     背中には真っ赤な剛翼はねがあり、自身がホークスであるという自覚もあった。
     なのにテレビを見てもあの人はいない。どこにも太陽みたいに眩しい炎が見当たらない。それどころか個性を持つ者は珍しいのだと言う。
     
     もしかするとヒーローが存在しない世界にいるのではと、愕然とした。
     個性事故なのか、はたまた生まれ変わったのか。
     幼き姿でホークスはずうっとエンデヴァーを探していた。


     この記憶は一体なんだろうか。考えて、考えて、考え続けて。


     そうして、やっと自分以外で初めて記憶を持つ者にたどり着く。


     啓悟は、幼い頃から【ホークスの記憶】がたったひとつの道標だった。【エンデヴァー】は夢物語じゃないと確かめたかった。


     この学園はその手掛かりになるかもしれない。

     世界では珍しい【個性を持つ者】が集まる巨大学園都市雄美学園。

     ここに来ればあるいは──、


    「……エンデヴァーさん」


     桜の花弁がいくつも舞う中、啓悟は期待で羽根を震わせながら学園の門をくぐったのだった。
     


     ◆◇◆


     クラスメイト達がこちらを伺うように、ひそひそと言葉を交わしあっている。これから始まる入学式、そして新しいクラスに浮かれているんだろうな、と思えたらどんなに良かったか。
     啓悟はまつ毛を瞬かせ、珍獣を見るような視線をその身に浴びていた。教室に入る道すがらも、多くの視線に晒されていた。それに気付かない程、鈍くはない。
     周りが何を話してるかなんて、剛翼を飛ばさずとも予想がつく。明らかに浮いてる啓悟の格好に、皆が揃って眉を顰めてるのだ。なにより自分自身でもそりゃあ気になるだろうなと、納得だった。

     啓悟はいま変装をしている。まるで鳥の巣のようにモサモサのかつら。それはご丁寧にも地毛と同じ金色な上に、目元を覆い隠すくらいに、ボリュームたっぷり。もちろん視界は狭い。
     それから縁ありの伊達眼鏡。これが顔全体を占めているので、相手からは表情がわかりにくい。とりわけ目立つ背中の赤い羽根は、あちこちに寝癖がついたままで、だらしなさを強調している。
     極め付けに制服。サイズが合ってないぶかぶかのブレザーは、くたびれていて、おさがりだと一目でわかる。シャツのボタンをすべて留めて、ネクタイをしっかりと締めているが、どうしても不恰好だとしか、言いようがなかった。
     その特異な出立ちは人目を引き、昨日から入寮した学生寮でも遠巻きにされている。つまり全体的にモサッとした、どこか冴えない印象の男子高校生。それが今の鷹見啓悟の姿だった。

    『いいですか。学園ではくれぐれも・・・・・目立たないように過ごしなさい。今後の君の学園生活を思って言ってるんですよ』

     思い出すのは、渋い顔で何度も何度も目立つなと忠告してくる自称叔父・・の目良の顔だった。
     施設育ちの啓悟の前に、突如として目良が現れたのは高校入学目前のことだ。
     叔父と言ってもそう年は変わらない。聞くと一つ上の高校二年生なのだという。普通よく知らない男から親族だと名乗られたとして、すぐ受け入れられるかと言われたらノーだと思う。でも目良善見よくみるという男を啓悟はよく知っていた。正確には啓悟ではなく、前世の記憶【ホークス・・・・】が知っていた。素直に忠告を聞くくらいには、信用に値する人物だと思っている。

     そんな彼は、この学園の中等部に通っていたらしい。頑として理由を教えてはくれなかったが、啓悟がそのままの姿で学園に通うのに否定的だった。
     いっそ本格的に別人に変装して、入学したほうがいいのではと思う程止められた。
     とはいっても、目良と出会った時にはすでに奨学生として学園に通うことは決まっていた。そもそも背中には殊更目立つ真っ赤な翼がある。この世界では個性は物珍しいし、有翼で目立つなというのは無理な話だろう。目良から押し付けられた変装セットをおとなしく身につけることで、妥協してもらった。
     元学園生の助言を信じ、これを身につけていればスムーズな学園生活を送れるだろうと期待していたのだが、当てが外れた。現状目立ちまくっている上に、心なしかクラスメイトからは警戒されている。
     
    (うーん。危険人物扱いだな。どこもかしこもお坊ちゃんって感じだし)

     遠巻きに観察されているのを感じながら、啓悟はのんびりと自席で頬杖をつく。早くホームルーム始まらないかな、と思っていると隣から声をかけられる。

    「ボンジュール☆」
    「あ、うん。ボンジュール。お隣さんよろしくね」

     へらっと笑いながら軽い調子で答えると、なぜか教室中が静まり返る。なんで驚いてるんだろうと首を傾げてから、ああ、この格好かと思い至る。キャラ設定に見合った言動を心掛けるべきだったか。
     啓悟の物静かそうな見た目に反してノリが良く、チャラそうな物言いに、ギャップを感じた者は多かった。みんな揃いもそろって、顔を見合わせ目を白黒させているが、異分子が混じったらまあ警戒されるわな~と啓悟は呑気に考えていた。
     同じく隣のきらきら少年もマイペースだ。さすがクラスで浮いている人物に真っ先に声をかけるだけはある。

    「きみは外部入学生かい?」
    「そうそう。外部組ってそんなに珍しいの?」
    「そりゃあ、もちろん!」
     
     パチンとウインクをひとつ送った少年は、学園について滑らかに話しだす。
     世界でも類を見ない巨大学園都市である雄美学園高等学校。ここは学業、スポーツ、芸術、あらゆる方面から見出された者、そして【個性】をもつ者が入学を許可される男子校だ。クラスの大半は中等部からの内部進学組で占められ、外部入学生は珍しい。それにプラスして、編入試験で上位の成績を叩き出した啓悟は、入学前から噂になっていたのだという。
     また敷地内には女子高もあるが、遠方のためバスを利用しないと行けないそうだ。それくらい広い学園内には、あらゆる施設が完備されているので、外部生は迷子になるだろうと、どうやら心配してくれているようだった。

    「学園の案内ならまかせてよ☆僕は青山」
    「俺は鷹見。まあ、その時はよろしく」

     自己紹介をしあっていると、わらわらと人が集まりだす。そこまで警戒するような人物ではないと判断されたのだろうか。上鳴や緑谷、飯田に峰田、さらには常闇までもが啓悟の机の周りに集合する。かつての雄英生が半分を占めるクラス、それがこのA組であった。

    「おはーっす。同クラだし、よろしくな!俺は上鳴」
    「おはよう、外部生だよね。僕は緑谷」
    「飯田という。前年度の委員長だ。わからないことがあったら聞いてくれ」
    「俺は峰田。お前同じ匂いがするな。イケメン滅べ同盟組もうぜ」
    「常闇だ。この出会いに感謝しよう」
    「えーっと、この春から同じクラスの鷹見啓悟。よろしく」

     よろしくとそれぞれと自己紹介し合う。啓悟の個性は真っ赤な翼で目立つので、それぞれに個性のことも教えてくれた。常闇の影から現れた黒影にも挨拶をすると、心なしか彼が微笑んだ気がして、啓悟の口元も緩む。

     公安委員会委員長として仕事をしていた際には、基本ホークスで通していた。それでもフルネームを公表することもあったので、もしかすると名前からホークスだと察したのではと伺うが、この様子だと気付いたわけではないらしい。
     やっぱり彼らにも前世の記憶はないみたいだ。
     目良にも度々前世の話を振ってみるのだが空振りだった。この世界では前世の記憶を有している方が異質なのだと改めて思う。
     この調子だと例えエンデヴァーを見つけることができたとしても、彼はホークスのことなんて微塵も覚えていないだろう。

     思考に沈みかけたところで突然、大きな音を立てて扉が開く。すたすたと教室に入り込んできた男は、取り巻きを引き連れながら教卓の前にくると、ごほんとひとつ咳払いをした。それから軽やかに語り出す。

    「おはよう、A組諸君!ご存知の通り、僕は数日後に控えた『姫選抜』の筆頭候補者である物間寧人。一週間もしないうちに一学年の姫【一ノ姫】に就任予定だ。まぁまだ決まったわけではないけれどね。結果は歴然だろう。うん?あれあれ?おっっっかしいなァ?A組には候補者がいないんだって?え〜〜〜?本当にいないの?優秀なA組なのに?ふははははは。僕はB組からの満場一致はもとより他薦での姫候補!さらに筆頭!!でもきみたちA組からは姫候補はナシ!他薦もナシ!たとえ自薦だとしても他薦の方が圧倒的有利!はっ。まあ妥当だね。つまり姫にふさわしいのはこの僕、物間寧人ってわけだ!目にもの見せてやるよ。A組ィィィ!!」

     ひゃっひゃっひゃと高笑いをする物間に呆気に取られる。取り巻きの男たちは、何故だか男泣きしながらご立派です!さすが姫候補筆頭!ネイ姫〜!と野太い声で声援を送りながら拍手をしていた。

    「なにあれ」
    「あ〜、あれはB組の物間。な〜んかA組を目の敵にしてる奴」
    「彼は【姫候補筆頭】なんだ」
    「ケッ。な〜にが姫だ。男だろ」
    「アイツが【一ノ姫】とかお先真っ暗だよな。毎回俺ら煽ってくる未来が見えるぜ」
    「君たち!そんな言い方は良くない。彼の演説を正々堂々と聞こうじゃないか」

     ひそひそと交わされる会話に首を傾げる啓悟に、みんなが親切にも【学園の姫】について教えてくれた。
     なんでも中高一貫の男子校である学園では、創立以来の伝統で【姫規律ルール】というものが存在するらしい。姫とは所謂アイドル的存在。その存在に癒され、励まされることにより円滑な学生生活を送ることができる、らしい。いや、よくわかんないな。

    「で、結局姫ってなに?」
    「女装したり、歌ったり、アイドル活動してる」

     微妙な顔で上鳴が答えると、他にもこんなことをしてたとか、あれは案外面白いイベントだったなど、昔話で湧き上がる。とにかくこの学園には姫っていう役職があるみたいだ。

    「男子校でアイドルかぁ」
    「女子校遠いしな」
    「姫って言っても男だぞ!俺は認めない!!姫なら女子を連れてこいや!」

     声を荒げる峰田に、みんながまぁまぁと宥めている。思ったより声が大きかったのか、まだ演説中だった物間が指をさしながら咎めてきた。

    「ほらそこぉ!そこのA組!投票する気はあるのか!僕の話をちゃんと聞いて、僕に投票するんだぞ」

     フンッと偉そうに言い放った物間は、言いたいことだけを言うとまるで台風の去っていった。

    「アイツに投票すんの気が進まねぇ」
    「誰か他にいないのかよ」
    「舐められたままなのは腹立つよな」
    「緑谷、姫に立候補してやろーか?案外似合うんじゃね?」
    「エッ、ムリムリムリムリ!無理だよ!僕スカートとか似合わない!」
    「じゃあ轟。イケメンだし似合うだろ」

     轟〜!お前姫やる?と上鳴が後方へ声をかけているが「俺は緑谷がいいと思う」と返されて撃沈していた。轟、ということはやっぱりエンデヴァーもこの世界にいるんだろうか。
     啓悟が意識を逸らしている中、クラスは誰が姫に相応しいか選手権が開催されていた。その素朴さから緑谷が圧倒的有利かと思いきや伏兵が現れる。
     ぼそりと常闇が呟いたからだ。静かな声は案外教室中に響いた。

    「……俺は鷹見がいいと思うが」

     唐突な提案にクラス中が静まり返り、誰もが首を傾げた。そしてその言葉を理解した途端に一斉に驚いた声を上げる。

    「鷹見?」
    「え?なんで!?」
    「姫とは一番程遠い人選すぎる」
    「鷹見が姫???」
    「まず男は姫なのは断じて許さん!」
    「常闇どうしちゃったの?」

     常闇は頷くと「姫は鷹見がいいと思う」と今度は、はっきりと明言した。
     
    「……鷹見は黒影にも優しい。初対面なのに挨拶もしてくれた。俺はそんな人なら姫に相応しいと思ったまでだ」

     皆がなるほどと頷いている。頷いてはいるが、啓悟を頭の先からつま先までじっくりと眺めても、姫=鷹見が最適解だとはどうしても思えない。その冴えない身なりをなんとかすればあるいは……?と品定めするような視線を受けた啓悟はゴクリと喉を鳴らす。

     仕舞いには常闇と黒影が、ダメか?と問うような視線を寄越してきたので、思わず啓悟は逃げ出した。あの弟子たちの顔に、弱い自覚があった。




     ◆◇◇


     教室から飛び出した啓悟は学園の上空を飛行していた。上から見下ろす景色は、中々絶景だ。
     学園内は個性の使用は認められると校則にあったので、遠慮なく剛翼を使っている。それにしても、さすが巨大学園都市と言われる名門校なだけはある。
     広大な敷地内には、校舎の他にも実に多くの施設を擁しているようだった。目良から施設は充実していると聞いてはいたが、こうしてみると広い。広すぎる。
     グラウンドは天然芝、寮棟以外にも音響施設が整った大ホールや大きな講堂が設置されている。屋内外にはプールもあるようだし、大規模な図書館、ラボや食堂も完備、テニスコートやジムの他、牧場や湖に植物園など、ありとあらゆるものが揃っているらしい。

     学生手帳に記載されている地図を見ながらそれぞれ施設の位置を頭に叩き入れる。途中、用途不明の施設に探りを入れるべく羽根を飛ばしながら辺りを探索した。
     これだけ広かったら迷子になる生徒もいそうだなあと上から眺めていると、とりわけ大きな円形の建物が見えた。あれが入学式が行われる大ホールだとあたりをつけ、ゆっくりと下降する。

     大ホールに続く道は、桜並木だった。見渡す限りの花弁で溢れかえり、薄桃色の絨毯が敷かれている。さながら春の落とし物のようで、幻想的な風景に見惚れてしまう。せっかくだから地上に降りて、桜狩りと洒落込んでみた。
     春風に揺られながら思い出すのは、先ほどのクラスメイトたちだ。まさか雄英の子たちが揃ってるとは思いもしなかった。もしかすると女子校にも雄英の子たちがいるのかもしれない。
     懐かしい顔ぶれにほっこりしたが、なにより手がかりが見つかったことが嬉しかった。

    「焦凍くんがいるってことは、エンデヴァーさんもいるはずだよな。あーあ、早く会いたかぁ」

     昔みたいに体育祭があったら会えたりするかな。啓悟はそんなことを考えながら空を見上げた。ぴゅうと、いっそう強い風が舞い上がり、桜吹雪が乱れる。視界が霞む。その時、何故だか啓悟は誰かに呼ばれた気がして顔を上げた。

    「……、……す」

     『ホークス』と、もう随分と久しく聞いていない低い声が聞こえた気がした。視界が花弁で遮られる。そして気付く大きな影が突如現れた。

    「えっ、……」

     目の前にはエンデヴァーさんにそっくりな年若い男がいた。
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