結ぶ「あ」
新たな一年がはじまるその時、最初に聞いた声は耳に馴染んだ男のものだった。
夜のにおいの残る毛布の下、背後から聞こえてきた声になに、と返してやる。喉に違和感があったのはどうやら思い違いではないらしい。湿った空気の漂うそこへ、掠れた声が落ちた。
「誕生日おめでとう、傑」
そう言われて初めて日付が変わったことに気づき、ああ、と気の抜けた声を発した夏油は、時刻を確かめようとナイトテーブルへと手を伸ばした。しかしその手は、声と同じく背後から伸びてきた手によって止められてしまう。
「それは後で。今は僕だけにして」
後ろから抱き竦めてくる体が一層ぴたりと身を寄せた。引き締まった厚みのある体が擦り寄ってくるさまは、どこかネコ科の動物を髣髴とさせる。
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