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    篝火

    元は普通の猫で、とある女性に飼われていた。今から何千年も前の話であり、彼自身その事は誰にも話していない。

    彼女は、猫に惜しみない愛情を与えた。それは正真正銘の親愛であり、猫にもよく伝わっていた。愛情を返す能力は何も無かったが、猫も確かな安心感と愛情を持っていた。
    共に親によって生み捨てられてしまった兄弟も、彼女の力によって今は安全な場所で生活している。猫にとって、これ以上のことがあっただろうか?このまま普通に歳を取れば、彼女の膝の上で安らかに生涯を終えることができただろう。

    彼女と共に過ごして何年かしたある日、猫の兄弟が飼い主の目を盗んで会いに来た。

    「なあ、このままでは彼女は死んでしまうよ」

    と、突然耳を疑いたくなるようなことを伝えてきたのだ。彼女、とは勿論猫の飼い主の事。どうやら彼女の住む集落で疫病が流行りだしたらしい。
    当時の医学ではとても太刀打ちできないもので、人間達にも原因は分からない。しかし猫はその原因を知っていた。

    「妖怪だよ。たまにいるだろ?私達の中からも化け猫とかいう奴らが産まれることがある。それと似たようなヤツらがやってるのさ。何が目的かは知らないがな」

    用心しろよ、という言葉を残して兄弟は去っていった。この日常が壊れようとしているのは、嫌でもわかった。
    しかしたかだか小さな猫に何ができるというのだろうか、逃げようと伝える事もできない。ここから出て妖怪に直談判というのも、無茶な話だ。
    彼女に病魔の手が伸びないのを、ただ祈るしかできなかった。優しい手に撫でられて、不安げに喉を鳴らして。

    しかし、その時はやって来てしまった。
    猫を撫でる手は痩せ細っていき、段々と衰弱していった。猫は必死に寄り添うが、何もできない。妖怪に対する激しい憎悪と、彼女を失う恐怖が猫を支配する。

    その後、彼女は呆気なく息を引き取った。
    猫を置いて、苦しみながら。

    何日も彼女の遺体に寄り添う猫の前に、黒い影が現れた。その姿は歪で、この世のものとは思えない。そう、この影こそが全ての元凶で、彼女の命を奪った妖怪だ。影が彼女の遺体に手を伸ばした時、猫は怒りに支配された。
    「彼女に触れるんじゃねえ」とありったけの力で噛み付くが、勿論適うわけが無い。小さな身体は吹き飛ばされ、家具の角に頭部をぶつけた。その時、正面から角にぶつかってしまった為、猫の目は潰れてしまう。
    そのまま、猫は打ち所が悪かったのか、死んでしまった。



    地獄の底から沸いてきた炎のような怒り、激しいあの妖怪への憎悪。何もしてやれなかった彼女への悲哀。

    復讐を果たす為ならばどんな苦痛にも耐えて見せよう、例え輪廻転生の輪から外れることになろうとも、二度と彼女に会うことができなくても。

    自分に平穏を与えてくれた彼女へ、自分なりの最大の恩返しができるなら。

    全ての思いと条件が揃った時、猫は炎に身を包まれた。
    そして炎の中から現れたのは、炎を操る獅子のような獣だった。獣は妖怪を食い殺すと、荒れ狂う炎でそこら一帯を炎で包み込んだ。

    もう誰も、彼女の身体に触れないようにと。

    彼は彼女の遺体を妖怪から守りきったのだ。

    猫は、火車という妖怪となった。化け猫の一種で、本来ならば地獄と現世を行き来し亡者の案内をする。
    しかし、彼に地獄に行く力は無かった。「彼女と二度と会えなくてもいい」という想いと引き換えに、この力を手にしたのだから。
    そして、彼は死んでしまえば二度と転生できない。魂ごと消えてしまう為、来世などがないのだ。次死ねば存在ごと消える、と言っても過言ではない。

    これからどう生きようか、と考えていると、猫の目の前にあの彼女が現れた。これは幻覚なのか事実なのか定かでは無い、会えるはずない、絶対に無いのだ。

    「猫ちゃん、心配で来ちゃった。無茶するのね……」

    大きくなった体で彼女に駆け寄ると、相も変わらず優しく撫でてくれる。

    「…名前、考えてなかったわね。……貴方は……いつも篝火みたいに私の夜を照らしたわ。だから、貴方は」


    最後の言葉を伝えると、彼女の姿は消えてしまった。

    「俺の方こそ、君に照らされた。」

    と言葉を伝える前だった。

    そして現在

    守るべき者ができた彼は、人間と敵対する道を選んだ。その道は確かに茨の道で、彼も苦しみながら生きてきた。だが、後悔はしていない。あの夜同様、守るのならば戦うしかないのだ。

    大きな背中に、燃え盛る大剣。
    周りを照らす唯一無二の炎を、人々は

    「篝」と呼んだ。
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