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    わたなべ

    @osgrs73

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    わたなべ

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    塗りが上手く出来なくて悶々としてたので息抜きに小話を書いた!古語について考える七i虎!わたなべは頭が悪いので意味とか違うかもしれないけどスルーして欲しい気持ち!

    #七虎
    sevenTigers

    いとし、かなし、「なぁなぁナナミン、『愛し』って何で『かなし』って読むん?」

    目の前で宿題に手につけていた彼が私を見上げながらそう問いかけた。彼の言葉から察するに、今彼は古文の宿題の真っ最中なのだろう。

    「何でと言われましても…」

    そんな事は昔の人が考えたのだから私には分かる筈もない。一瞬そう言いかけたが頭の中にふと浮かんだ考えに言葉を噤んだ。
    そして何故かは分かりませんが…と前置きをした上で静かに話を続けた。

    「切ない程の気持ちや…失う事を考えると悲しい程の愛しさがあったんじゃないですか」

    「えっ?何それ?愛しいのに悲しいん?」

    彼が意味が分からないといった様子で眉間に皺を寄せて真剣に見つめてきたものだから私は思わず小さく息を漏らすようにして笑った。彼は私と違って本当に表情が豊かで可愛い。可愛い可愛い、私の恋人。12も離れた、歳下の恋人。

    「『愛し(かなし)』という言葉は『いとし』とも読めます。『いとほし』から転じた語だそうです。『いとほし』には気の毒、可哀想といった同情の意味があります。つまり…」

    そう言いかけてチラリと彼に目を向けると彼は腕組みをして頷きながら興味深そうに話を聞いていた。その姿に私は続ける言葉を一瞬躊躇って、そして小さく息を吸い込んだ。

    「『いとし』とは…可愛いといった好意と共に、哀れだと思う情も含まれているのですよ」

    そう言うと私はテーブルに置かれた麦茶の入ったグラスに手を伸ばした。汗をかいたグラスがまるで自分のようで、指に伝う水滴の感覚を不快に思いながらも一口、二口と喉に流し込んだ。喉を通る麦茶独特の味が何だか苦く感じた。こんなに苦いものだったか。

    「ふーん?なるほど…?『いとし』は分かった!でも『かなし』は分からん!」

    私の説明に彼は自分の理解力の無さを大声で堂々と公言すると腕を組んだまま後ろへ仰け反った。目を閉じて唸りながら思考を巡らせる可愛い恋人。そんな彼を横目で見ながら私はグラスで濡れた手をティッシュで拭いそれを手中でギュッと丸めた。

    正直に言うと昔習った事だが私も古文に関してはあまりよく覚えてはいないのだ。だから『愛し』を何故『かなし』と呼ぶのかの上手な説明は出来そうに無い。しかし『かなし』と呼ぶくらいだから思わず悲しくて涙が出てしまうような大きな感情なのだろうな、とは思う。
    そして『いとし』の意味は…身をもって実感している。

    丸めたティッシュを足元近くのゴミ箱へと捨てると再び視線を彼へと戻す。宿題の用紙と向き合いながら首を傾げる彼は何やら小さくぶつぶつと呟いていた。

    「いとをかし…沢山の、お菓子…?いや、すげー面白いって事か…?」

    彼の独り言に思わず吹き出しそうになるのをすんでの所で耐え、口元を手のひらで覆う。その古語の意味が分かる私は肩が震えないように努めながら目を細めて彼を見つめる。体の芯からフツフツと湧き上がる温かい気持ち。本当に可愛くて、愛しい。
    その気持ちをそのまま口にしようとした所でちょうど彼が己の頬を指で掻いた。
    その仕草に浮かれた気持ちだった私は一気に現実へと叩き落とされた。彼の頬に刻まれた跡が目に入った瞬間、浮ついた気持ちが凪いだのが分かった。
    そして唐突に理解した。『愛し』の意味を。

    まだ若く色んな可能性を秘めているというのに、こんな大人に恋をして、捕まり、愛されている。二度と離してやれない程の重い愛を甘んじて受け入れて自ら私へと擦り寄る彼が可愛い。と同時になんて愚かで哀れだと思う。己の魅力に気付かず、自ら可能性を潰してしまった彼が、可哀想で可愛い。
    きっとこれは『いとし』だ。
    他人を慮り体を張る姿がとても切ない。と同時にそんな彼の優しさが好きだと思う。そして『処刑』という決められた運命に時折胸が張り裂けそうな程苦しくなる。そんな彼を救う為に私が出来る事等殆ど何も無い。それが歯痒くて、辛い。彼の居ない世界など考えるだけで悲しさに潰されてしまいそうだ。
    これが『かなし』なのだろう。

    そう頭で自分の感情を整理していると横から

    「昔の人って〜なんか趣?がある言い方すんね」

    と楽しそうにニコニコと笑いながら彼が言う。先程まで宿題の用紙と睨み合っていた彼は今は頭の後ろで腕を組み、リラックスした様子で此方を見つめていた。

    「君に趣が分かるとは思いませんでした」

    「あー!!ナナミン今馬鹿にした!?したよね!?う〜わひっでェ!!」

    「馬鹿にはしてません。素直な感想を述べただけです」

    「余計傷付いた!!」

    ギャーギャーと騒ぎながら「いとかなし!いとかなし!」と連呼する彼。『かなし』の意味を私もきちんと理解してはいないが、その使い方は間違っている気がする。
    目を細めては頬杖をついて不貞腐れている彼を見つめる。愛しいと、思う。それにはきっと美しい感情だけではなくて、彼にも説明した通り、どこか哀しみを秘めているのだと思う。歳の差や同性である事や呪術師である事。ふとした時に哀しみを連れるそれらはどうしたって引き剥がす事が出来ない。

    でも、それでいいのだと思う。

    そんな哀しさを抱えて、私は彼と共に生きていきたいのだ。愛らしくて、面白くて、いつだって興味を引かれる。そんな風に感情を真っ直ぐぶつけてくる彼が私は────…


    「ふっ……いとをかし」


    とてもいとしで、かなしで、いとをかしだ。
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