夢の記憶「……あれは、龍だよ」
長い回廊の途中。
山々の合間をたなびく雲を示しながら、玉龍は言った。
ゆったりと流れていくそれは、生物の揺らぎに似ていると言えば似ている。
が、それでも悟空の眼にはただの漠然とした気脈の溜まり場にしか見えなかった。
訝しんでいる悟空を察したのか、玉龍は言葉を続ける。
「……正しくは、龍の始原と言えばいいのだろうか」
霊峰の、特に気の強い場は、時として命を生み出す胎となる。
そこで幾星霜と天地の気を浴びつづける事で、雲は実体を象り龍となる。
遠い昔にそうして生まれた原始の一つから、命をつないだ先にいるのが己なのだと。
気の長い話だ。
経典を求める旅よりも、山に封じられる仕置よりも、なお長い。
悠久たる時の話。
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