Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    sangurai3

    かなり前に成人済。ダイ大熱突然再燃。ポップが好き。
    CPもの、健全、明暗、軽重、何でもありのためご注意ください。
    妄想メモ投げ捨てアカウントのつもりが割と完成品が増えてきました。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 64

    sangurai3

    ☆quiet follow

    ダイ大二次創作 原作以前捏造
    魔王が倒されて数ヶ月 ベンガーナで起こったある事件の話
    武器屋ご一家に夢を見すぎています。続いちゃった。どうすんだこれ!

    みどりごは焰の女神に抱かれ-1-ベンガーナ王宮直属の武器工房は、王城敷地の外れに建てられている。
    昼夜を問わず鋼を打つ槌の音が響くその場所からは、今は大きな笑い声が響いている。
    「いやージャンクさんの息子さん、可愛いっすねー」
    「ほんとほんと、親父に似なくて良かったなあ」
    うるせえ!と怒鳴るジャンクの顔も笑っている。その腕の中には彼の息子、ポップの姿がある。オレにもオレにもと同僚にせがまれ、落とすなよと告げて手渡す。
    もうすぐ1歳を迎える我が子を職人達が軽々抱っこしている様子に、スティーヌも幸せそうに微笑んだ。

    勇者一行が魔王ハドラーを打ち倒してから数ヶ月。
    世界は徐々に、しかし確実に復興に向かって歩み始め、ここベンガーナから各地に疎開していた者達も再び王都に戻りつつあった。
    街に子ども達の声が響き聞こえるようになった頃、国王から王城に勤める兵士・職人の元へ家族を招待する旨の通達が出た。
    市民を王城内に引き入れることに対し貴族達より若干の反発はあったものの、困難な時期をよく勤めてくれた者達へのささやかな感謝のしるしである、幼い子らに王城での親の仕事ぶりを見せることは将来の国益ともなろう、との鶴の一声で決定された。
    強引ではあるが剛胆な気質のベンガーナ国王は、身分を問わず民から熱く支持されていた。

    乳飲み子を抱えて故郷の村に疎開していたスティーヌが王都に戻ったのは先月のことだ。
    戦乱が収まってなお物資も人手も足りない王国には問題が山積している。武器に加え日用品の鍛冶まで請け負いだした工房の灯りはいつになっても消えず、夫は一日たりとも家には戻ってこない。
    そんな状況に愚痴も弱音も吐かずスティーヌは気丈に日々を過ごした。
    近所の人達に留守居を頼んだ礼をし、動きが活発になってきた息子に注意を払いながら埃まみれになった部屋を片付けているうちに、あっという間にひと月が過ぎた。
    他の職人の家族は既に職場の訪問を終えているらしい。ポップは一番の年少であったため、誰もが心待ちにしていたようだ。

    「ねえねえ親方、坊やに鍛冶場を案内してもいいですか?」
    職人達の中で一番若い、まだ見習いの青年が尋ねた。大家族だという彼は子どもの扱いが上手く、幼いポップを上手に抱きかかえあやしている。
    「鍛冶場かあ?赤ん坊にゃ熱いんじゃねえか?」親方が少しだけ眉をしかめて言う。昼休みである今は炉の火も弱めているが、慣れていない者には不快な熱さだろう。
    「少しだけっすよ。ジャンクさんの息子さんなら大丈夫でしょ」
    どういう理屈だとジャンクは突っ込むが、無理に止めることはしない。まだ記憶に残せるほどの年ではないが、息子に自分の仕事場を見せてみたい気持ちはあった。
    親がいいならいいだろうと親方の了承を得て、青年はポップを連れ奥の鍛冶場に向かう。ここでお前の親父さんは凄え武器をたくさん作ってるんだぞ-明るい声が工房にも響く。
    「奥さんも見てみるかね」
    親方にそう訊かれ、スティーヌは少々戸惑った。
    「でもあの…鍛冶場に女は入ってはいけないと言いませんか」
    昔からよく聞く言葉だ。鍛冶場の炉は火の女神の加護を受けている。女神は大変に嫉妬深いので決して女を鍛冶場に入れてはならない-スティーヌはそう教わった。
    「なあに、構いやしねえさ」親方は豪快に笑う。
    「あの戒めはな、野蛮な男どもから女を守るためのものでもあるのよ。鍛冶場は熱くて服を脱いで歩き回る奴も多いからなあ」
    そうなんですか、と頷くスティーヌに、そうそうと他の職人達も同意する。
    「オレらの女房子どもも入れてやってますから気にしなくていいですよ、奥さん。お大臣の中には古いしきたりにこだわる奴もおりますが、今の王様は『ヒカガクテキな迷信』って奴を嫌ってますからね。何の問題もありゃしませんよ」
    親方がそれを受けて更に続ける。
    「それによ、火を司る神様が女を好かないってんなら竈はどうなるんだい。大抵の家の煮炊きは女房がしてくれてるじゃないか。あっちもこっちも火であることにゃ変わりねえよ」
    心優しい言葉に微笑みと礼を返し、スティーヌ達も鍛冶場の入り口へと向かった。
    「お、おっかさん達も来たぞー」
    中に入るとむわんとした熱さに汗が噴き出るが、ポップの機嫌はいいようだ。青年もあまり奥へはいかないよう気遣って抱いてくれている。
    「ほら、あの小さい赤い火が見えるかい?あの火を大きく強くして鋼を打って、剣や槍を作るんだぜ」
    相手は赤ん坊とはいえ先輩気分が味わえて嬉しいのか、見習いの青年は自慢げに言う。指さされた先の小さな火を、ポップの大きな瞳がじっと見つめた。

    そのとき。

    「…何だ?」
    炉に残した埋め火から、ちらちら、ひらひらと何かが舞い出てくる。まるで火の粉でできた蝶々のように見えるそれらはどんどんと数を増やし、やがて鍛冶場中に広がった。
    「わ、わ、何だ!?」
    青年がとっさにポップを腕の中に庇う。赤に金にと煌めく『それら』は大変に美しいが何しろ炉から生まれ出てきたもので、どう見ても高い熱を帯びていそうだった。赤子に火傷を負わせるわけにはいかない。
    しかし、
    「あれ、熱くねえ」
    青年の周りを飛び回る火の粉の蝶々は、羽根を動かすたびにきらきらと鱗粉のような炎の粒を落としていくが、そのどれひとつを取っても人に熱さを感じさせることはなかった。
    柔らかく、しかし執拗に腕のあたりを舞う蝶々に、青年はおそるおそるポップの姿を見せる。何故だかそうしなければいけない気がしたのだ。
    その瞬間、火の蝶々は驚喜するようにポップを包み込んだ。小さな体を取り囲み、竜巻のように渦を巻いて天井へと舞い上がっては下りてくる。その羽根は一層輝き、鍛冶場全体が太陽の真ん中にいるのではないかと思うほど煌めいた。
    ポップは自身の周りを舞う火の蝶々に全く臆することがなかった。むしろ楽しそうに両の手を伸ばし、もみじのような手のひらの上に眩い焰を導いた。きゃらきゃらと機嫌良く笑うその声に呼応するように蝶は一層輝く。
    やがて、ふわりふわりと蝶々は炉に戻り始めた。去り際にポップの頬をするりと羽根が撫でていく。別れのキスみたいだ。誰かが呟いた。
    最後の蝶が炉の中に消え元の通りの埋め火に戻った様を見つめ、誰も、何も言えなかった。ただ幼いポップだけが相変わらずきゃらきゃらと笑っていた。

    「…すっげえもん見た」
    ずいぶん時間が経ってから見習いの青年がようやく言葉を吐いた。ハッと我に返ったスティーヌがポップを青年の手から譲り受ける。顔を覗き込めば傷一つ無い健康的な丸い頬。眼前に母を認め、きゃあーと笑う。
    「あれって多分火の精霊さま…ですよね」職人の1人が言い、「おそらくな」と親方が返した。
    「王宮が炉を開いたとき、精霊さまの力を込めた特別な火がくべられたと聞いたことがある。お伽話みてえなもんだと思っていたが…あながち嘘とも言えねえな、こりゃ」
    「そんな神聖な場所に入ってしまって本当によろしかったんでしょうか」スティーヌは慌てた。動揺のあまり泣きそうな顔になっている。「私達がお邪魔したことで皆さんの鍛冶場にご迷惑をおかけしていたら…」
    「なあに言ってんだい、奥さん!」職人の1人が豪快に笑う。「さっきの見ただろう?むしろあれは精霊さまの祝福さ。坊ちゃんが来て嬉しくなっちまったんだよ、きっと」
    そうだそうに違いないと皆が異口同音に言う。この工房一番の武器職人のひとり息子が鍛冶場にやって来たんだ、そりゃあ精霊さまもはしゃぎなさるさ、と。
    ずっと黙っていたジャンクがスティーヌの側に近寄り、そっとポップの頭を撫でた。あなた、と声をかけられ、妻にニカッと笑いかける。
    「こいつぁもしかしたら良い職人になるかもなあ、スティーヌ」
    違いねえやとまた盛り上がる職人達。それでもどこか不安げに視線をさ迷わせるスティーヌの肩を軽く叩き、親方がパンと両手を合わせて皆の視線を集める。
    「さあさあ、いいモン見させてもらったところでちょうど午後からの仕事の時間だ。精霊さまのご機嫌を損ねないよう気張ってくれよ」
    おうと答える威勢のいい職人達の明るい声に、スティーヌはようやくほっと肩の力を抜いた。



    「今日はお父さんの仕事場行けて良かったわねえ」
    かけられた言葉の意味をどこまで分かっているのか、隣人から譲り受けた揺りかごに乗せられたポップは「ううー、あん!あん!」と元気よく両手をばたばたさせる。
    今までに経験したことの無い-これからだってあるとは思えない-光景に出くわした真昼のひととき。一時は気を落ち着けたとは言え、スティーヌが本当に冷静になれたのは帰宅してからだった。
    何がどうしてそうなったのか、鍛冶場のことにも魔法や精霊についても明るくないスティーヌにはさっぱり分からなかったが、職人達が口を揃えてめでたいことだと言ってくれたのできっと悪いことではなかったのだろう。
    「お父さん、遅いわねえ。今日は早く帰れるだろうって言ってたのにねえ」
    「とおとおー」
    「そうそう、お父さん。偉いわねポップ。今夜はみんなで一緒に寝ましょうかねえ」
    「ねぇー」
    先にポップだけ食事を終えさせ、スティーヌは夫の帰りを待っている。今日は彼の好物をたくさん用意した。久しぶりなのできっと喜んで平らげてくれるだろう。
    そう言えばあの人の好きなお酒はちゃんと買っていたかしら、と椅子から腰を上げたとき。

    ドンドンドンドン!!

    強く扉を叩く音に、スティーヌだけでなくポップもびくんと硬直した。大丈夫よ、と抱き上げそっと外の様子を伺う。木製の扉の向こうからは荒い息使いが聞こえてきた。
    こんな夜更けに一体?夫ではなさそうだ。物盗りならノックはしないだろう。まさか女子どもに狼藉を働くつもりのならず者か。
    誰何の声も上げられず、スティーヌはポップを抱えて扉横の壁に張り付いた。もし扉を蹴破られたらどうしようか。考えるうちに再び強いノックの音が響いた。
    「奥さん、オレです!工房の…見習いの…!!」
    聞こえた声には覚えがあった。すぐさま扉を開け、中に招き入れる。何処からか全力疾走してきたのだろう若者は、崩れ落ちるように前屈みになりハアハアと荒い息を吐いた。
    「一体どうなさったの?ああ、まずは水を」
    台所へ向かおうとするスティーヌを首を大きく横に振ることで止まらせて、何とか息を整えた青年はごくんと唾を飲みこみ、叫んだ。
    「ジャンクさんが、旦那さんが捕まっちまったんです!お城の大臣をぶん殴っちまったとかで!!」
    「えっ」
    「親方や皆も動かないようにって工房に残らされてて、オレが何とか抜け出してここに!」
    吐き出すように告げられた青年の言葉に、スティーヌはただ呆然とした。ポップが腕の中からぺちぺちと顎を叩いてくるが声をかけてやることもできない。
    部屋には青年の荒い息と揺りかごのキイキイという音だけが響いていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏💖👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👍😭🙏🙏🙏🙏🙏🙏👏👏👏😭👏💕👍👏🙏🙏🙏💕☺😭🌋💴💴💴💴💴💴💴💴💴💴
    Let's send reactions!
    Replies from the creator