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    sangurai3

    かなり前に成人済。ダイ大熱突然再燃。ポップが好き。
    CPもの、健全、明暗、軽重、何でもありのためご注意ください。
    妄想メモ投げ捨てアカウントのつもりが割と完成品が増えてきました。

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    sangurai3

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    バラン編 アニメ30話あたりからの分岐?IF妄想。題名は思い浮かんだ適当語。
    何の救いも無い暗い話です。ご注意ください。本当にすいません。

    地涯魔物の咆吼が響く深い山の中、二人の少年が旅をしている。
    先を行く年長の少年-兄が周囲の様子を伺いながら慎重に歩みを進め、年少の弟は遅れぬよう必死にその後を追っていた。
    「あっ」
    地表に張り出した木の根に足を取られ弟が躓く。すぐさま兄が駆け寄った。抱き起こし、怪我は無いかと問う。
    「痛いよう」
    べそをかいて弟は膝を指した。色褪せた水色の下衣に赤い血が滲んでいる。兄は膝上まで裾を捲り上げ、薬草と包帯を使って手早く応急処置をした。
    「この辺りで休める場所を探すから。もう少し頑張れ」
    「うん、お兄ちゃん」
    弟は目に涙を浮かべたまま健気に頷く。
    「もうすぐ日が暮れる。急ぐぞ」
    兄は弟の手を取り、再び歩き出した。

    兄-と弟は呼ぶが、彼と家族として過ごした記憶は一切持っていない。そもそも弟には記憶と呼べるものが無く、いつの間にか兄は自分の側にいた。
    弟が覚えている一番最初の記憶では、兄も、兄の周りにいた人達も、皆怖い顔をしていた。あの時は彼に「お兄ちゃん」と呼びかけると何故だかひどく怒られた。
    しかし閉じ込められていた暗い地下牢から連れ出してくれて以来、兄はとても優しくなった。怖い顔をした他の人達は皆いなくなったようだった。あの日からずっと、二人きりで旅を続けている。
    ある日すれ違った人に兄弟かと問われ、ええまあ、と兄が答えたので、自分達は兄弟だったのだと知った。
    ぼくらは兄弟だったんだね。ぼくらの父さんと母さんは何処にいるの。父さん達の所へ行かないの。そう兄に訊いた。
    兄は一瞬以前のような怖い顔をした後、おれ達に親はいないよ、と静かに言った。
    じゃあぼくらは何処に行くの。弟がそう問うと、何処までもだ、と兄は答えた。

    鬱蒼と生い茂る木々の奥に洞穴を見つけ、今日はここで休もうと兄が言った。枯れ木を集め火を点ける。纏っていた外套(マント)を地べたに広げ、その上に腰を下ろした。
    兄は弟のブーツを脱がせ、手に取った。
    「もう寿命だな。転んだのもこれのせいだろう」
    そう呟き小さくため息をつく。道なき道を歩き続け、靴底はぺらりとめくれかけていた。
    服もそろそろ買い換えなくちゃな。そう言う兄の服や靴もかなり草臥れている。近々町か村に行くのかな、と弟は考えた。
    旅の始めの頃は時々大きな街にも寄った。そこで兄は食べ物や衣類などを買い揃えていた。誰か人にも会っていたような気がする。
    しかしすぐに今のように人目を避け、山奥や荒れ地ばかりを巡るようになった。何故なのかは弟には分からない。
    ごくたまに人里に下りる必要がある時も、兄は弟を連れて行ってはくれなくなった。それも何故かは分からない。
    弟は知らないこと、分からないことばかりだった。それでもいつも兄が何とかしてくれるから大丈夫だと思っていた。ただ兄について行けばいいと信じていた。

    ふと思い立って、弟は胸元を探った。綺麗な石のついた細い紐を首から外し、兄に差し出す。
    「お兄ちゃん、これあげるよ。これを売ったら、新しい靴や服が買えるでしょ?」
    買い物をするにはお金-G(ゴールド)というらしい-が必要なことくらいは知っている。
    兄は旅の途中で摘んだ薬草や毒消し草、また倒した怪物(モンスター)の毛皮や牙、角などを道具屋でお金に交換していた。
    時には怪物がキラキラした石を持っていることがあった。それもたくさんのお金に変わった。
    キラキラしているものがあればたくさん買い物ができるのだと弟は認識していた。
    この石もキラキラしているからきっとたくさんのお金に換えられるだろうと考えたのだ。
    しかし石を見た兄は顔を強張らせ、それは駄目だ、と言った。
    「それはお前が大事に持ってなくちゃ駄目だ」
    「どうして?ぼく、こんな石無くてもいいよ。代わりに丈夫な靴や綺麗な服を買おうよ。美味しいものだってきっとたくさん買えるよ」
    弟の言葉に兄は首を横に振り、その胸元から同じように紐をつけた石を取り出して弟に見せた。
    「分かるか?これ。お前のとお揃いなんだ」
    「おそろい?」
    そう、と頷き、兄は弟の首に石のペンダントをかけ直してやる。
    「これはおれ達の大事なものなんだ。だから絶対に手放しちゃ駄目なんだ」
    「じゃあ、これは?」
    弟は代わりにと腰に提げたナイフを見せた。髪の長い少女に無理矢理持たされたものだ。
    少女にはこれで自分の身を守れと言われたが、弟はナイフなんて怖くて使いたくなかった。
    それに怪物が現れた時はいつも兄が魔法で倒してくれるので、こんなものは必要ないとも考えていた。
    ナイフにはとても綺麗な赤い石が嵌められている。きっとこれもたくさんのお金に換えられるはずだ。
    しかしまたも兄は駄目だと言った。ぼくこんなものいらないよと弟が言っても、それはお前が持っておかなきゃ駄目なんだと言うばかりだった。
    弟には何一つ兄の言うことの意味が分からなかったが、兄がそれは売らなくても大丈夫だ、お前が持っていろと繰り返すので、渋々ナイフも腰の鞘に戻した。
    「おれは少し出てくる。食べるものも探してくるから、お前はここで待ってろ。絶対に動いちゃ駄目だぞ」
    そう言って兄は洞穴を出て行った。もう日暮れだ。今から食べ物が見つかるのだろうか。一人待つのは不安だったが、薄闇の中に出ていくのも怖かった。
    お腹空いたな、と弟は思った。最後に食事をしたのは前日の昼だ。山に住む鹿や兎などの獣は喰べ尽くされていたので、仕方なく兄が魔法で倒した怪物の肉を食べた。
    血抜きをし香草を擦り込んでよく焼いても生臭さは消えず、兄は後で吐き戻していた。今夜はもう少しましなものが食べられるだろうか。ぼんやり外を見ながら弟は兄の帰りを待った。

    兄が洞穴に帰ってきたのは随分と時間が経ってからだった。ごめんな遅くなって。そう謝る兄の手の中には膨らんだ麻袋があった。
    兄は袋の中からパンを取り出した。硬く焼かれたそれは質素なものだったが、香ばしい香りに弟のお腹はきゅうと鳴り、口の中には唾が溜まった。
    「薬草と交換してきたんだ、食べな」
    兄がそう言ってパンを差し出してくる。お金にもいくらか換えてきたから、新しい靴を買おうな。そう言って彼は薄く笑った。
    そんなに薬草は残っていただろうか、と弟は思った。先ほど怪我の治療をした際に残り少ないと兄はぼやいてはいなかったか。
    弟は手渡されたパンを半分にちぎった。お兄ちゃんも一緒に食べよう。そう言って片方を兄に差し出す。しかし兄は受け取らなかった。
    「おれはいいよ。お前が全部食えばいい」
    「ダメだよ。お兄ちゃんも食べてくれなきゃ、ぼく食べない」
    弟は引かなかった。兄はとても疲れた顔をしていた。目の下が黒く落ち窪んでいる。彼にも美味しいものを食べて欲しいと思った。
    いつもは若木の新芽のような匂いがする兄から、嗅いだことのない匂いがしていた。甘い蜜のような、苦い毒のような。不思議で不快な匂いが煙るように兄の身体を包んでいた。
    知らない薬草の匂いかな、と弟は思った。パンと交換するための薬草をずっと探していたのだろう。だからこんなに帰りが遅くなったのだと思った。
    しばらく押しつけ合いをした後、兄はようやくパンを受け取ってくれた。二人で同時に頬張る。口の中に小麦の風味が広がった。
    「美味しいね、お兄ちゃん」
    そう笑う弟に兄は頷き笑い返そうとしたが、その微笑みは引き攣り、何故か急に俯いてしまった。
    「お兄ちゃん、どうしたの」
    弟が呼びかけても返事をしない。パンが喉に詰まったのかな。弟は兄の背中をさすった。すると兄は更に深く項垂れてしまう。
    「…ごめん、ごめんな…ごめん…」
    小さな声でそう言い続ける兄。何に対して、誰に対して謝っているのか弟には分からなかった。ただ丸まった背中をさすり続けた。
    「お兄ちゃん」
    呼ぶ声に兄は顔を上げた。
    「―」
    兄が口の中で何かを呟く。
    「名前を呼んでくれよ。おれの名前を。おれは―」
    洞穴の外で突如強い風が吹いた。ひゅおおおと響く大きな音に、兄の掠れた声は紛れてしまう。
    「お兄ちゃん、ごめんなさい。よく聞こえなかったんだ。何て言ったの?」
    弟がそう問いかけると、兄はひどく悲しそうな顔をして、それでも、何でもないよと頭を撫でてくれた。

    パンを食べ終わり、空腹が解消されると眠気が押し寄せてくる。弟は大きなあくびをした。兄は少し笑って、もう寝なと言った。うんと頷き外套に包まって横になる。
    「おやすみなさい、お兄ちゃん」
    そう声をかけると、ああ、おやすみ、と返事をしてくれたが、兄の表情は虚ろで、その視線はどこか遠くに向いていた。
    パチパチと燃える焚き火に照らされ、洞穴に映った兄の影がゆらゆらと揺れている。綺麗だな、と弟は思った。
    「これから、どうすればいいんだ。どうすれば―」
    眠りに落ちる寸前、兄の呟きが聞こえてきた。悲壮な声で繰り返される言葉に、弟は答えることはできなかった。

    「―イ、ダイ、起きろ。ダイ」
    兄の声に目を覚ます。何度か呼ばれて、それは自分の名前だったと思い出した。毎日兄が呼んでくれるのに、何故か弟は覚えていられない。
    出るぞ、と兄は言った。外は微かに白んでいる。夜明け前のようだ。日の昇らぬうちに寝床を引き上げるのは二人にとって珍しいことではない。焚き火はいつの間にか兄が消していた。
    「飛ぶぞ。ここから離れるんだ」
    そう言って、兄は弟を外套で包み込み両手で抱きかかえた。いくつもの不思議な呪文を扱う彼は空を飛ぶこともできるのだ。今日はどうやら遠くへ移るらしい。
    弟はぎゅっと兄にしがみつく。昨夜の不快な匂いは薄れていてほっとした。行くぞ、と兄が言うなり二人の体は宙に浮き、洞穴から文字通り飛び出した。
    空を飛ぶのは怖くて、でも少し楽しい。兄はあまり高度を上げず、木々の間を縫うように飛ぶ。高く飛ぶと見つかってしまうからだと言う。誰に、と問うたが答えてはくれなかった。
    視界の端、山裾に小さな集落が見えた。昨夜兄がパンを調達してきたのはあの村だろうか。
    家々からはいくつもの黒い煙が立ち上っていた。風に乗って2人の元にも煙が流れてくる。
    「朝ごはんを作っているのかな」
    弟が言った。
    「こないだ怪物を焼いたときと同じような臭いがするね。あそこの村でもよく食べるのかな」
    弟の問いには答えず、兄は飛行速度を上げた。血肉を焼く生臭い煙はあっという間に二人から遠ざかっていった。
    ふいに、弟の顔にぱたぱたと水滴が落ちてくる。頭上から降ってきたそれは弟の額に巻かれた布を湿らせ、丸い頬をつうっと伝った。
    雨かな、と抱きかかえられた腕の隙間から空を見上げる。黒く厚い雲に覆われているが、雨粒がそれ以上降ってくることはなかった。
    明日は晴れるといいねと言う弟に、そうだなと兄は返した。

     ォオ  オォォォ  オオォォオ
    遠くから何かの鳴き声が聞こえてくる。誰かを呼んでいるような、声が。
    兄は弟をきつく抱きしめる。弟は目を閉じ、布に覆われた額を兄の胸に押し当てた。耳を塞ぐよりもその方が静かになる気がした。兄の鼓動がどくどくと額に響いた。
     ォオォォ  イィィォ  ィィオオォォ
    鳴き声は止まない。兄は更に速度を上げた。剥がれかけた靴底が風に煽られぺこぺこと鳴って、ちょっと面白いなと弟は思った。
     ィイイォオオオ  イィォオオォ
    木々の頂ぎりぎりを兄は飛ぶ。針葉樹の葉が彼の頬を刺し無数の切り傷を作る。それでも決して速度を緩めることは無かった。
    「お兄ちゃん、速いね。風になったみたいだ」
    腕の中の弟が楽しげに言う。兄は、もっと速く飛ぶからしっかり掴まっておけよと声をかけた。
    真っ直ぐ前を見据えるその瞳からはまた涙が溢れだしていた。

    何処に行くのと弟が尋ねる。
    何処までもだと兄は答えた。
    終わりゆく世界の果てで、少年達はあてどない旅を続ける。
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