もがれた翼に会いに行く「比翼の鳥って知ってる?ポップ君」
「一応知ってるぜ。あいつら片目片翼で連れ合い見つけるまでどうやって生きてんだろうな」
「伝承にツッコミは野暮よ。世間じゃ君とダイ君のことをそう呼んでるんですって」
「え、あれって仲の良い夫婦の例えだろ?あいつの連れ合いならおれより姫さんじゃねえの?」
「あらありがとう。でも物語の終わり方がまずかったわね。―勇者は蒼穹に姿を消し、哀れ片翼をもがれた大魔道士は涙のうちに地上に落とされた」
「何じゃそりゃ」
「街で流行りの吟遊詩人の唄」
「ひでえな、抗議ついでに出演料たかりに行ってやろうか」
「ほっときなさいな。ああいう手合いは悲劇を語るのが好きなのよ」
「おれらは比翼の鳥じゃねえし、物語は終わっちゃないぜ姫さん」
「分かってるわよ」
「おれもあいつも1人で飛べる。たとえ翼をもがれたって…おれは墜ちない。もう二度と、絶対に墜ちたりしない」
「…そうね。君はどこへだって飛んでいける。ダイ君は飛んで行きっぱなしで困ったものだけど」
「すぐとっ捕まえてきてやるさ。姫さんだってそうだろ?自分の力でちゃんと飛ぶことができる」
「あたし?あたしはどこへも行けないわ。ここでやらなきゃいけないことがたくさんあるもの」
「でも飛ぼうと思えば飛べるだろ。王城(ここ)にいるのは飛べないからじゃない、『今は飛ばない』と決めてるだけだ」
「そう思ってくれているなら光栄だわ」
「勇者は帰還し祝福の声に包まれて愛する人と結ばれる。人間も魔族もモンスターも皆仲良くいつまでも幸せに暮らしましたとさ。―ハッピーエンド以外の結末なんて認められっかよ」
「そうね、うん」
「泣くなよ姫さん」
「泣いてないわよ!」
「ちゃんとあいつ見つけてくるから」
「ええ、信じて待ってる。あたしも悲劇は嫌いよ。ちゃんと大団円にしてちょうだいね」
「まかせときな」
「さあて話のついでだ。ちょっと飛んでみないかい、姫さん?空中散歩としゃれこもうぜ」
「空中散歩!素敵ね、どこへ行くの?」
「いや、そんな遠くに行く時間は取れねえし、その辺ぶらっと」
「天下の大魔道士がケチなこと言ってんじゃないわよ。一瞬で世界中飛び回れるくせに。王都近辺じゃすぐ見つかっちゃうじゃない」
「へいへい、じゃあルーラで小旅行&空中散歩コースな。ちゃんと書き置きはしていけよ」
「はあーい」
「あーあ、どっかその辺あいつもぷらぷら飛んでたりしねえかなあ」
「そんなところ見つけたらポップ君、問答無用でメドローア撃っちゃうんじゃないの」
「いやあ極大呪文はさすがに撃てねえよ。今は姫さん抱えて両手塞がってっから」
「塞がってなかったら撃つのね」
「ベギラゴンくらいなら許されると思わねえか?」
「いつの間に覚えたの…うーん、それならダイ君も黒コゲ程度で済むかしら。その後はどうするの?」
「姫さん落っことす」
「何それ!」
「あいつ黒コゲでも絶対すぐ復活して姫さん受け止めに行くから。んで、おれに言うんだよ『危ないじゃないかポップ、おれがいなきゃレオナが地面まで落っこちちゃうところだったぞ!』」
「あっはははは、言いそう!自分の怪我なんか完全無視してね!」
「な!で、おれは言ってやるんだ『だったらお前がちゃんと一緒に飛んでやれ!二度と手ぇ離すんじゃねえぞ!』ってな」
「強引だけど悪くない締めだわ。でももう一つ隠しオチも欲しいところね」
「へえ、どんな?」
「あたしにトベルーラ教えて?ダイ君より上手く飛べるようになってみせるわ」
「あははははは!姫さん意地悪ぃ!」
「そのくらいやり返してもバチは当たらないでしょ」
「違えねえ」
君がいなくたって飛べるけど
君のいない世界はひどくつまらないから
早くここへ帰っておいで
私達の大切な翼