そうして。僕は大人の階段を上った。「篤四郎さんっ」
白い道着から黒い、軍服に着替えられた篤四郎さんが出てこられた。
「時重くん、どうしたんだい?」
「ちょっと、篤四郎さんに聞いてほしいことがあって、」
大人で将校さんの篤四郎さんは僕ら子供たちとは違い道場隣の先生のお宅で着替えられるから、篤四郎さんとお話したい僕は篤四郎さんが稽古を切り上げる頃には自分も終わらせて素早く着替えて先生のお宅から道場に繋がる通路で待つのだ。
聞いてほしいこと、と切り出したけれど、内容はあるといえばあるしないといえばなかった。ただ誰にも邪魔をされずに、篤四郎さんと話をしたくて聞いてほしかったし話してほしかった。
冬に篤四郎さんが仰った。
篤四郎さんはもうすぐ、道場にこなくなってしまう。
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