カトマクチハ書きたい マキナの残骸ともいえる、彼女の体を構成していた部品の前でぼろぼろと大粒の涙を流すチハルを見て、マックスがぽつりとつぶやく。
「いいアニマトロニクス買ってもあれはできないんだろうなー」
「お前、わざわざ金かけて泣く気?」
「んなわけないじゃん」
軽妙な掛け合いも、BGMが泣き声では続ける気にはなれなかった。
カートがマキナの首を抱くチハルの横にしゃがみこむ。
「チハルちゃん、大丈夫だって。今は部品が足りなくてスリープモードだけど、脳が無事ならマキナちゃんすぐに復活するから」
「で、でも、こんな」
ひどいものだった。胴体は穴だらけ、首は脳髄を守るようにした管だけがかろうじて繋がった状態で引きちぎれている。
カートはチハルの頭を撫でてそっと抱き寄せた。
「なにすんの」
「俺らの会社、便利屋だから。ベビーシッターもしてんの」
「赤ちゃんじゃないし……」
カートがぽんぽんと背中を叩いてしばらくすると、泣きすぎたチハルが、カクンと首を揺らす。チハルの手から滑り落ちそうになったマキナの頭をマックスが抱き上げた。
「うちがベビーシッターしてるなんて初耳」
「うるせ」
マックスが服の袖を引っ張り、チハルの目元にそっと当てて涙を吸わせる。
カートが床に座り込んだままだったチハルを抱き上げると、ちょうど他の車両の無事を確認していたアカネとカナタが戻ってきた。
「どうしたんだ」
「泣き疲れて寝ちゃったみたい。今椅子に移動するとこ」
「そうか」
「カナちん、そっちはどうだった」
「あぁ、問題なく新如月に戻ってるっぽい」
「よかった」
緊張感漂う車内には似合わない間の抜けたお腹の音が響く。カートとマックスが俯くアカネを見ると、カナタが表情一つ変えずに片手をあげた。
「あ、悪い。俺の腹が鳴ったわ」
「……あー……ね?」
「俺たち、食堂車行くわ。いいすか、総長」
「うん」
「……いやいやいや」
遠ざかる背中を見ながらマックスが呟く。とはいえ、思ったことまでは口にしなかった。
電車の外には、警察車両がうようよしている。
さすがに電車が動いたのは事故だが、駅についたら聴取で引き離されてしまうのだと思うと、カートは腕の中の体温を一度愛おしそうに抱きしめてからマックスの膝の上に乗せた。
「……なんで」
「別に。お前、チハルちゃんのこと好きでしょ」
「いや、そっちでしょ。何その身を引くみたいな……」
一つの打算もなく、欲しい言葉をくれるひと。もう求めてすらいなかった、渇望していたひと。
「……チハルちゃんギャルだし、ワンチャン3Pいけるっしょ」
「それな」
マキナがいたら暴れていたような会話だったが、生憎マキナもチハルも聞いていなかった。