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    nukohumi_sq

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    nukohumi_sq

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    小説:ウナ+ハン♂の馴れ初め的なもの

     エルガドに来て、しばらく経つ。
     今日も今日とてオレは拠点の中をうろうろしつつ、適度に時間を置いてはクエストボードを覗き込んでみたりしている。だけど、いつまでも小型モンスターの素材だけで作った鎧を着込んでいるハンターが、自信を持って挑めそうなクエストは貼り出されていない。大穴に辿り着くのはオレだ、なんてデカイ口叩いたところで、実際がこうでは……オヤジの呆れ顔と、ママの悲しむ顔が目に浮かんで首を横に振った。
     解っているんだ、このままではオヤジやママに認めてもらえるハンターにはなれないことくらい、解っているのだけど───はあ、と奈落のように深い溜め息を吐いてクエストボードの前を離れようとした時、何か壁のような物にぶつかってしまった。
    「おわっ⁉︎ アッわりぃ、大丈夫か⁉︎」
     ぶつかつて尻餅をついたオレよりも大きな声で驚いているのは、一人の男だった。この辺りでは珍しい黒髪を一つにまとめて結い上げ、切れ長の金目を赤い化粧で控えめに彩っている。ここ最近は、エルガドで一番の有名人。カムラの里から来た英雄さんだ。どうやらオレが壁だと思ったのは、英雄さんの胸板だったらしい。オレとは歳も、背格好もそう変わらないというのに、やはり英雄さんは鍛え方が違うのだろうか……なんて思っていたら、英雄さんは手を取って立たせてくれた。それから、オレの装備を上から下まで見て。
    「アンタもハンターか?」
     そうだと頷くと、そうか、俺もだ、と。
     言われなくても知ってる。誰よりも有名じゃないか。騎士団に請われて海の向こうからやって来て、密林で暴れるモンスターをあっさり討伐してしまった、って。
    「ん、俺ってそんな有名人なのか? いつも通りにやってるだけなんだがなぁ」
     普段通りにしてるだけで、有名になってましたってか。さすが英雄さんは格が違うな。だが悪いけど、ここはオレの方が長いんだ。新参者には手出しさせないぜ。
    「その大穴ってのがさ、俺にはよくわかんねーんだよな。アンタ、エルガドはもう長いのか? よかったら色々教えてくれよ」
     いや、手出しさせないって言っただろ。……えっ? 言ったよなオレ。余りにも綺麗にスルーされたせいでこっちが不安になってくるんだが。この英雄さん、いっそ恐ろしいほど厭味が通じてない。英雄さんの教官って人も相当アレだけど、この人はこの人でなんかちょっとアレじゃないか。カムラの里には、こんなのが二人も……いや、もしかして里の人間みんながこうなのか?考えただけで頭が痛くなりそうだ。
    「おい、どうかしたか? そんなしかめっ面して額押さえて……頭でも痛いのか? こんなカンカン照りの中歩き回ってちゃ不味いぜ」
     どうせオレは日がな一日拠点の中をうろうろ歩き回ってるよ。って、おい。おい! ちょっと待てよ、どこ連れてくんだよ! ……え? うさ団子屋? 冷たいものを飲んで休んだ方がいい? 余計なお世話だ! だいたい頭が痛くなりそうだってのも原因は誰だと思って───
    「アズキさーん、うさ団子三十本! あとお茶二つ頼むわ!」
     聞いちゃいない。聞いちゃいないな英雄さん。それにしたって団子三十本って、オレは団子を食べるつもりでここに来たわけじゃな……あっ自分で全部食べるんだ。へえ。そう。ふうん。
    「はー、やっぱカムラのうさ団子は最高だぜ~」
     英雄さんはもっちもっちと巨大な団子を咀嚼しながら、団子の山の隣に串の山を作っていく。そんなに食べられるかと思った団子の山が、みるみるうちに消えていく。どんな速度で食べてるんだ? 吸い込んでるのか? 噂に聞くクシャルダオラの大技でも、ここまでの吸引力はないんじゃないか。やっぱり、英雄なんて呼ばれる身体を維持するからには、そのくらいは食えないといけないのか? にしても食いすぎだろ。一生分の団子だろ、これ。
    「なあ、アンタ名前なんてンだ?」
    「え…………、ウナバラ」
     藪から串……じゃなくて藪から棒に訊かれて、思わず素直に答えてしまった。よくわからない後悔みたいなものを抱えるオレをよそに、英雄さんはもっちもっちと団子を食べながらウナバラ、ウナバラ……と繰り返している。なんだよ、そんなに変な名前かよ。
    「アンタさ、その鎧よく似合ってるぜ」
     似合ってる? 改めて自分が着込んでいる鎧を見る。一丁前のハンターらしく装備してはいるが、駆け出しのオレには、まだ小型モンスターの素材で作れる程度の鎧しかない。ハッ、オレにはこの程度がお似合いだってことかよ。
    「この青い鱗のとこがさ、エルガドの海みてぇでスゲー綺麗だ。アンタの髪と目の色によく馴染んでると思ってたけど、名前にもぴったりじゃねぇか」
     な、なんだよ急に……そういうアンタはご立派な鎧だな。ま、チヤホヤされて皆の頼りにされてる英雄さんとなりゃ立派な装備もラクに揃うよな。
    「そうそう! そうなんだよ! コイツなんかさ、結構な数の素材が要るんだけど、操竜でバカスカやったら大量に落ちやがって。いやー、お陰様でラクして一式揃ったわ」
     本当に厭味が通じないなこの人……なんだか突っかかってるのも馬鹿馬鹿しくなってきた。湯呑みの茶を飲み干して、座っているのに何も頼まないのも悪いので、うさ団子を注文しようとメニューを手に取る。
    「おっ、もう調子はいいのか? じゃあさ、このうさ団子食ってみろよ。新作だって」
     俺まだ食ったことないんだよな、と英雄さん。そんなに気になるなら自分で食べれば、と言おうとしたが、英雄さんの皿をにはまだ手つかずの串が二本残っている。いつの間に二十八本食べきったのだろう。それはそれとして、皿に料理が残っているのに次を頼むのは失礼だ。仕方ないから英雄さん指定の新作うさ団子を注文すると、ピンクのツートーンカラーの可愛らしい団子が出てきた。さっそく口に運ぶ。
     が。……。…………。………………………。おかしい。こんなはずではなかった。口の中が痛い。を、通り越して熱い。炎上している。ブレスを吐く前のバサルモスやリオレウスはこんな気分なのだろうか。俺は目の前に置いてあった湯呑みを引っ掴んで一気に飲み干し、それだけでは足りずにアズキさんからお代わりを貰って更に飲み干した。
    「お、おい、大丈夫か……?」
     大丈夫? 大丈夫だって? これが大丈夫に見えるのか⁉︎ と掴みかかろうにも口の中が熱痛過ぎて何も言えないが⁉︎ 一体何を食わせたんだよ⁉︎ 追加のお茶を貰っては飲み干し、テーブルをバンバン叩いて半泣きで抗議すると、英雄さんはおずおずとメニューのある部分を指差した。
    「こ、これ……こんな桃色で可愛いのに辛いのかよ……」
     いのち辛がらもち───誰がどう見ても辛い団子のネーミングだよ‼ ねえ‼ 英雄さん‼‼
    「お、おい! ほら、こっちの甘いの食えよ! な⁉︎」
     むぎゅ、と辛くない方の団子を口に押し付けられるが、喉に詰まりそうだからやめてくれ。あと、辛さのせいで唇が痛い。きっと明日になったら真っ赤に腫ているぞ、くそ……駆け出しとはいえハンターの口周りをこんなにも痛めつけるなんて、恐るべし、うさ団子。
    「わ、悪い、本当に悪かった……アッそうだ! これ使えよ!」
     ヒリヒリする唇を指で擦っていると、英雄さんが懐から巾着のような物を取り出した。中から出てきたのは、手のひらサイズの丸い何か。小さいながら、虹色に光る貝のようなものや、金の細工が目を引く。
    「俺の知り合いに薬草に詳しい人がいて、その人に貰った軟膏なんだ。すげぇよく効くから塗っとけよ」
     と、英雄さんは薬の容器らしいそれをキュポッと開けると、おしぼりで手をしっかり拭き、何を思ったか指に取った軟膏をオレの唇に。ふわりと、甘い香り───
    「……ん、よし。これで腫れないぜ、絶対」
     ちょっと待った、これどういう状況だ?この人一体、何してるんだ? そんなオレの困惑をよそに、英雄さんはさっさと軟膏を懐に仕舞い、教官に呼ばれてたんだった! と慌てて帰り支度を始めた。アズキさんにお代を渡して、席を立つ。
    「じゃあな、ウナバラ! 今度一緒に狩りでも行こうぜ!」
     うん、とも嫌だ、とも言う間も無く、英雄さんは風のように駆けて行ってしまった。なんだよ。いや、ほんとなんなんだよあの人。
     まだ少しだけヒリヒリしている唇に、自分で触れてみる。英雄さんの武骨な指先で軟膏を塗りたくられた唇は、まあ、どう考えても量が多かったのだろう、ベッタベタだ。でも、なんだろ。なんか、こう───
    「嫌な奴では、なかったかな……」

     ぼんやりしたまま座っていたら、アズキさんから「顔が赤いニャ、お団子そんなに辛かったのニャ」なんて言われて、誤魔化すのに苦労した、なんて。
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