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    湯船先輩

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    湯船先輩

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    ツイッターのツリーでこっそりと描いていた、うちの卒業探索者(楠木 輝導くん)のシナリオ後の話のまとめ。
    ツイッターのリプをコピペしただけなので大変見にくい。
    輝導君は満足のいく卒業で思い入れがあったし(うちの子は皆思い入れがある)、ミュージカルを見て「演劇をやりたい!!」という思いがたぎったため書いた思い付きの作品(ですらない)

    自分の担当しているアイドルに演劇の仕事が来た。グループの中でも抜群の演技力でドラマにも出演して人気うなぎ登り中の彼女には遅かれ早かれ来ると思っていた。実際に彼女には演技とそれに対する熱意という才能があり、それが生かせるようなプロデュースを行なってきんだ。
    演劇は始めてであり、きちんと演じられるか不安を感じていた彼女だったが、最終的には受けてくれることになった。
    叩けば叩くだけ伸びる彼女のことだ。心配は要らないだろう。自分ができることは仕事の調整と励ましくらいなもので、できる限り彼女の稽古場に顔を出していた。
    「また来てくれたの?」と笑っている彼女が汗だくになりながらも満たされた表情をしていて、やっぱりこの仕事を受けて良かったと思った。

    彼女とそのまま打ち合わせもかねて話している時、ふとある少年に目が止まった。彼は部屋の隅で台本をかじりつくように読み込んでいた。
    なんというか、この場にいるどの俳優さんよりも影が薄く存在感がない少年という印象を受けた。そのオーラの無さから俳優ではないのかと一瞬思ったが、なぜか果てしなく惹かれるものを持っているようなそんな匂いがした。
    この感覚は子どもの頃からある自分の勘だ。これがないと仕事にならない。
    今日は時間があったからそのまま稽古風景も見ていくことになった。彼女は何とか台詞を覚えただけの段階で演技についてはまだまだという印象を受けた。これについては演出家に絞られながら作品に近づいていくしかない。僕にできることはないため、黙ってその様子を見ていると、彼の出番が来た。
    その光景は圧巻であった。
    彼の演技はその場にいる誰よりも作品の中に没入しており、その姿は彼自身ではなく、この作品の中に登場する人物そのものであった。
    まだ稽古が始まって幾日も立っていないのにも関わらず、彼の演技は完成に近いものになっていた。
    僕はただただ圧倒されるしかなかった。
    もう少しその風景を見ていたかったが、けつがあったため僕は彼女や関係者の方々に挨拶をしてその場を出た。
    すごい人がいたものだ。僕にはできない芸当だし、僕が憧れてやまなかった演技の才だ。そんな大きな現場で自らがプロデュースするアイドルががんばっていると思うと、心底誇らしい気持ちだ。
    僕はその劇の開演がさらに楽しみになった。もちろんまた彼を見たいという気持ちと、彼女が大きく成長する姿が楽しみだという2つの気持ちがあった。
    それからはあまり稽古場に行けなかったが、事務所に帰った彼女の話を聞くのが楽しかった。そんな日々が続き、ついに公演日。
    チケットはすぐに完売したようでお客さんの期待度も高いようだ。僕は緊張している彼女に声をかけ、何とか舞台上に立てるように整える。僕にできることはこれくらいだ。
    彼女には舞台に上がる才能がある。その輝きを信じてるからこそ送り出せるのだ。背中を押された彼女は笑顔で舞台に上がっていった。
    彼女を送り出した後、ふと後ろを振り返ると彼がいた。いや、前に見た時とは明らかに違う。舞台衣裳に身を包んだ彼はこのシナリオの登場人物が現実世界に現れた.
    かのような印象を与えた。それはもう別人だと思わせるような完成度の高さを維持しながらこちらに歩いてくる。

    僕の憧れ続けた才能だ。その才能が僕の横を通りすぎ、光輝く舞台に上がっていく。
    やっぱり彼は"あちら側"の人間だった。僕はそこから静かに舞台を見ていた。

    「こんな言い方、良くないと思うんですけど…」
    だから、彼が話しかけてきた時は心底驚いた。
    「あなたはこんな所にいて悔しくないんですか?」
    彼は言いにくそうだが、それ以外の言葉が思い付かないという様子で話しかけてきた。人に話しかけるのが苦手なんだと思っていたが、疑問に思うと気になってしょうがない性格なのかも知れない。
    「質問に質問で返して申し訳ないけど、どうしてそう思ったの?素直な意見でいいから」
    僕がそう返すとさらに表情を曇らせながら彼はこう答えた。
    「…舞台を熱心に見てたから。でも…それはお客さんの視線とは違ってて…。えっと…ライトに照らされる人達に憧れを持ってるんじゃないかって、思って…」
    「でも、えっと…あ、あなたは芸能に関係した?仕事をやってるからこういったライトを浴びる人達を間近で見てて、自分はそこに上がることができないから、羨ましいとか悔しいとか思わないのかな…と…」
    ご、ごめんなさい!失礼ですね…と彼は続けていった。声も徐々に小さくなっていて聞き取りづらかったが、きちんと聞くことができた。疑問に思うのも納得だ。現に僕自信でさえ疑問だったんだ。
    「そうだね、僕もこの仕事を始めたばかりの頃は、いや、ここ最近まで不思議でならなかった。
    僕はスポットライトを浴びる才能なんなかったから、表舞台に立つことを諦めた人間なんだ」
    「だから君達みたいに舞台の上でキラキラと輝く人達が羨ましいって今でも思うよ。…でもね」
    そこで僕は彼の目をまっすぐに見た。彼からは戸惑いが感じられる。本番中だし、彼には次の出番もある。ここで揺れ動くような役者ではきっとないだろうから、彼の質問には短く端的に答えるのがベストだ。
    「そんな僕だからこそ、うちのアイドル達をさらに輝かせることができるんじゃないかって思ったんだ」
    それが僕のこの夢を見続ける(仕事を続ける)答えだった。
    "辛い思いをしたらするほど人間として味が出るから、そういう経験をした者にしか獲れないもの、倒せないものはある"という友人の言葉がフラッシュバックした。
    あの言葉は別に僕に対してに言ったわけでもないのに、この仕事をする意味が僕にもあるって心を動かされてしまったんだ。
    僕の夢は"彼女達を輝かせるために僕にしかできないことをやる"に変えさせられたんだ。
    「だから僕にはこの憧れや悔しさが必要で、大事に持ち続けているんだ」
    彼は不思議そうな顔をしながらも最後まで僕の話を聞いてくれた。真に理解することなんてできないだろう。僕にはあの体験があって、あいつの言葉があったからこそ、この答えにたどり着けたんだ。彼は何かに悩んでいるのかもしれないが、それを僕が知らないのと同じように人を理解することは難しい。
    「君にも考え方の転機があるといいね。さぁ、出番だ。行っておいで!」
    僕は笑顔を浮かべながら、彼の背中に手をつき、押し上げてやった。僕はこうした誰かの背中を押すことが好きなのかもしれない。
    彼が光の中を歩いていく。今の自分であれば心から、彼の未来が光に満ち溢れることを願えるだろう。

    終わり!
    この舞台俳優が私のPCとしてセッションできればいいな~
    (思った以上に長くなっちゃった)
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