夢心地深夜二時。
喉が渇いて起きたシュートは、キッチンに向かい、コップに注いだ水を飲み干した。
そのまま部屋に戻ろうとすると、鍵を回す音が聞こえて、ラキが帰ってきた。
「おかえり」と言おうとしたが、返り血だらけの姿に思わず息を飲んで、黙ってしまうシュート。
ラキはというと、何も言わずに風呂場に向かって行った。
とても辛そうな顔で。
同棲する身として、仲間として放っておけなかった。
部屋の電気をつけると、冷蔵庫や戸棚から小麦粉やベーキングパウダー、チョコチップ、牛乳、砂糖を取り出して、大きめのマグカップの中で全部混ぜる。
それをレンジで温めている間に、替えの下着とネグリジェを洗面所に置いておく。
一緒にいる時間が長いせいか、着替えを取ってくることに何の疑問も抱かないことを、この間パームにケチ付けられたのを思い出した。
マグカップケーキが出来ると、別のマグカップに牛乳だけを入れて温め、そこに蜂蜜を入れて溶かす。
テーブルにその二つを並べたところで、ラキが黄色いネグリジェを着て洗面所から出てきた。
「シュート君……」
「話したい事は沢山あるとは思うが、まずは休んだ方がいい。軽いものを用意しておいた」
「……ありがとう」
ソファーに腰掛けたラキの隣にシュートも掛ける。
ラキが黙々とケーキを食べ、ホットミルクを飲んでいる間、シュートは何気なしにテレビを点ける。
深夜だから大して面白いものはやっておらず、すぐに電源ボタンを押した。
「あのね、シュート君」
不意に、ラキが口を開いた。
「あたし……人を殺しちゃったの…」
「………」
「任務で出来た敵だけど…あたし、剣で人は斬りたくないのに……」
「………」
「人殺しの手で料理なんて……やだよね、食べたくないよね…」
上手い言葉が見つからない。
彼女をどう慰めるのが正解か解らない。
それでも、何か言ってあげなければ。
彼女がまた歩き出せるように。
「……俺は、ラキの料理が食べたい」
「えっ……」
「お前の作る料理が俺は、一番好きだと…思う。だから…その………」
緊張なのかは解らない。言葉が出てこなくなってきて、代わりに右手が彼女の肩に伸びて抱き寄せていた。
「また、朝になったらどうしていくか決めよう。お前の作った朝食を食べながら」
「シュート君……」
ラキは頬を擦り寄せて、浴衣から覗く白くて厚めの胸板に体を預ける。
少し速めの鼓動を子守唄に、自然と瞼が降りていった。
いつもだったら、別々の部屋で寝るが、今日ばかりは一緒に寝ることにした。
彼女が少しでも穏やかに眠れるように。