家に帰る夕方の電車は帰宅ラッシュのサラリーマンやOL、下校中の学生で溢れかえっている。
人混みが嫌いな彼はそれをなるべく避けたいが、今日はさっさと家に帰りたい気分だったので仕方無しに乗った。
仕事の格好でいる為、物珍しそうな目で見られることが、彼の眉間の皺を深くする。
UMAの目撃情報を元に現地に行けば、新種の珍獣で、しかもそれを狙う密猟者との戦闘が勃発。
終わって帰ろうにも飛行船が悪天候で飛ばず、三日も余計に留まる羽目になった。
兎に角疲れた。
早く家に帰って、シャワーを浴びて、眠って、レポートを……いや、その前に飯だろうか。
思えば、家に帰りたいと思ったのは初めてであった。
物心付いた時には既に孤児院で独りぼっちだった。
髪の色か、目つきの悪さか、周りの子供達の大半は自分と関わろうとしなかった。
関わってくる奴等も居たが、それは俗に言ういじめっ子だ。
そいつらが嫌で、よく孤児院から抜け出しては図書館に居たが、門限までに帰らなければ折檻があることを身を持って知っている為帰るしか無かった。
帰りたくもない場所に。
ハンターになったら、大人になったら、一人で静かに暮らそうと決めていた。
ただ、人生プランというものは壊れるもので、一人の暮らしは叶わなかった。
家に帰れば、料理の芳しい香りが満ちる部屋で、彼女が待っている。
その彼女のお陰だろうか、家に帰りたいと思えるのは。
改札をくぐれば、あとは家まで歩くだけ。
今日の夕飯はなんだろうか、なんて子供みたいなことを考えながら歩く足取りはどこか軽そうだった。