no title「今日は〜何にしようかな〜」
ルンルンと黄色のエプロンを纏いながら今日の夕飯を考えていると、粗めにドアが開いて誰か入ってきた。
「おかえり!………あれ?ナックル君???」
「よ、久しぶり」
入ってきたのはやけにボロボロになったナックルと…そんな彼に引きずられてきた、見ただけで分かるくらい落ち込み、メンタルごとボロボロそうなシュートだ。
「二人で任務だったのは知ってたけど……どうしたのシュート君…」
「簡潔に説明すると、しくってこのザマだ。とりあえずシャワー借りていいか?」
「うん、いいよ」
ナックルがシャワールームに行ったのを見ると、ラキは三角座りで落ち込みまくるシュートの傍に座る。
「何があったなんて話したくないよね、うん。分かってるから何も聞かないよ」
「……」
「今日はね、冷蔵庫のお肉ぜーんぶ使って焼肉パーティーにしよっか!お酒もこの間買い足したから食べて呑んで…」
置物じゃないかってくらい、無反応なシュートに、これ以上言葉をかけても無駄だと悟ったラキは思い切り抱きしめた。
顔面が大きくて柔らかいものに包まれて驚くシュートをラキは離そうとしない。
「少し、こうしてるね…」
初めて自分が指揮を任された任務だった。
だから念入りに準備もした。
オレに至らないとこがあればナックルがサポートしてくれる、そう思いもしたがなるべく一人でやりたかった。
それが良くなかった。
少しのミスで作戦が狂った時、オレはどうしていいか分からなくなり、捕獲対象を逃がしてしまった。
「オレは…駄目な奴だ」
散々に浴びた罵詈雑言が頭から離れない。
「ハンターに向いてないかもしれない」
何よりもハンター失格だと言われたのが辛かった。
「……シュート君は素敵なハンターだよ」
アタシの言葉で彼の悲しい気持ちが和らぐといいな。
「初めての事にもちゃんとチャレンジ出来たんだよ?これは成長だよ」
何を偉そうにって思うかな。でも、これくらいしか言葉が見つからないの。
腕の中で聞こえる啜り泣きをラキは何も言わずに受け止める。
それが段々と薄らいでいったので、体を離すと少しだけいつもの彼に戻っていた。
「……ラキ、ありがとう」
「ううん、大した事してないよ。じゃあご飯作ってくるね」
少し湿った跡のあるエプロンのままラキはキッチンに戻った。
シャワールームに向かうと、あがったばかりのナックルと鉢合わせる。
「何でいるんだ」
「いや、テメェが動かねぇからここまで引きずってきたんだよ!覚えてねぇのかよ!」
「…冗談だ」
そう、フッと笑った顔を見て「なんだ、ちゃんと立ち直れたじゃねぇか」と内心で呟きながら、ナックルはラキが用意してくれた着替えを着てリビングに向かう。
「サイズ大丈夫だった?ナックル君、時々うち来るから買っておいたんだけど」
「わざわざ悪ぃな。サイズは大丈夫だぜ。……でも、このTシャツの柄なんだよ」
多分日曜日の朝にやっているであろうヒーローものが印刷されたTシャツに少し苦言を呈す。
「安かったから……ま、気にしない気にしない!晩御飯出来るまで待ってて!」
「お前も大概大雑把だな…」
ナックルはそう言って、ソファーにドカっと座る。
「大変だな、お前も」
「そんな事ないよ。むしろ嬉しいの」
「?」
「シュート君が素直になってくれたから」
少し悲しげに、でも嬉しげに微笑む横顔が何故か見てられなくて適当につけたテレビに視線をやった。