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    lavender_queer

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    タル鍾ワンライ「二人の秘密」より。
    ぬるいけど性描写があるのでR18。
    先生の伝説任務第二幕までのネタバレあり。

    タル鍾ワンライ「二人の秘密」 鍾離の体に、たった一つだけ傷がある。それは右方の脇腹から左肩に向かって伸び上がる、裂傷の痕だった。
    「まるで天に昇っていく龍みたい」
     その傷を初めて見た時、タルタリヤはそう言って笑った。彼がこの傷を見たのは、鍾離と肌を重ねて幾度目かのことであった。それまで鍾離は頑なに襯衣だけは脱がず、正面から抱いてくれるようにタルタリヤに頼み、その夜も同様だった。たまたま甘い気怠さに揺蕩いながら鍾離を背後から抱きしめている時に、ふざけて襯衣の中に手を入れ、滑らかなものとして知っている肌に未知の違和感を見出した。珍しく体を強張らせた鍾離が制止するよりも早く、タルタリヤは襯衣を捲り上げて、その違和感の正体を確かめ、肌に刻まれた小さな龍を見つけたのだった。
    「……あまり見るな、ただの古傷だ」
    「先生の体って神様だからほとんどの傷は自然に治癒できるんだろ? 何でこんなにはっきりと残っているのかな」
    「俺にも分からない。だが……」
    「だが? 何か心当たりでも?」
    「いや、この話はもう止そう」
     鍾離はそう話を切って寝返りを打ち、タルタリヤに向き直った。タルタリヤは、まるで開きかけた秘密の小箱を取り上げられた子どものような気分となり、先生のけち、とあえて大袈裟に拗ねてみた。すると、琥珀色の瞳が細められ、「公子殿は、俺の顔よりも背中の方が好きと見える」と鍾離が笑う。そんなことはない、と頭を振る羽目になり、その晩、傷についてそれ以上語られることはなかった。
     その夜以降も食事や閨で幾度となく顔を合わせ、また体を重ねたが、鍾離から傷の話をする気配は一向になかった。だから、タルタリヤの方でもあえて訊ねるような野暮はしなかった。別段、恋人だからと言って相手に全てを曝け出さなくてはならないわけでもなく、相手の全てを知り尽くしている必要もない。正直に言えば、あの傷の由来が気にならないことはなかった。だが、それは鍾離の神の力を以てしても完全には癒えきらぬ傷――武神としても名高い彼にそれほどの深手を負わせたのは一体どんな強者なのか、という興味が中心だった。
     
     だから、快楽に震える背中を撫でたのは、ほんの気紛れだった。あるいは、神でありながら凡人になりたいと言って、こうして人の子に抱かれ、あられもない姿を晒していることへ、いじらしさを覚えたからかもしれない。
     肌から薄く盛り上がっている仄赤い龍を撫でると、背後から穿たれ、うつ伏せている鍾離の体がびくりと跳ねる。
    「……っふ、……」
    「先生、もしかしてここ弱い?」
     肌に散る黒髪の隙間に指を滑り込ませ、もう一度、じっくりと這わせる。全身に広がりゆく甘い痺れに耐えかねたように艶めいた呻きが漏れ、腰が大きく揺らされる。内壁がうねるようにタルタリヤ自身に絡みつき、思わず息を詰めた。
    「っ……凄いね、ここ、そんなに気持ちいいの?」
    「……あっ、ん……おい、やめ、ろっ……」
     鍾離は枕に埋めていた顔を上げ、タルタリヤの方を振り返ってきつく睨み据えた。それは普段ならば相手を一瞬のうちに怯ませ、また服従させることのできる睥睨だった。だが、男の前に肌を晒し、常には厳然そのものであるかのような瞳は熱に孕み、言葉の端々には快楽が滲んでいる今では、ただタルタリヤを煽る意味しか持ち得なかった。
    「こんなに気持ちよさそうなのに、止めるなんて勿体ないことするわけないだろ?」
    「公子殿、待て、はなせっ……」
    鍾離は力の大して入らぬ体でタルタリヤの下から逃げ出そうと藻掻いた。けれども、傷に触れれば、手負いの獣が力尽きるように狩人の腕の中に落ちてくる。せめても抵抗らしいこちらを睨む潤んだ琥珀の瞳さえ、蜂蜜のように蕩けている。それでも嫌だとかやめろと騒いでいたが、幾度も傷の龍を愛でるうち、その拒絶の声もただの嬌声に変わり果て、やがて体が激しく波打ったかと思えば、乱れたシーツに熱がぱたぱたと零れ落ちた。それにつられて、タルタリヤも熱の解放を迎えた。
    「あんなに止めろと言ったのに」
     事を終えた後の鍾離は、不機嫌を隠そうともしなかった。
    「……ええと、気持ちよくなかった?」
    「そういう問題ではない」
     鍾離は憮然として言い放つ。そして、相手が嫌がったら止めると教わらなかったのかと説かれ、タルタリヤは返す言葉もなかった。だが、いつものように背後から抱きすくめることを許され、長々しい説教の中でも今度から触るなとは言われなかった。表向きはタルタリヤの行為を咎めているようでも、実際に鍾離の心を占めているのは何がしかの戸惑い、罪悪感のようなものらしく、時折、琥珀色の瞳の奥が揺らいでいた。

     それからというもの、龍の傷に触れることは、タルタリヤの愛撫の定番となった。背面から抱く時は無論、たとえ向かい合った体勢でも背中とシーツとの間に手を忍び込ませて、傷をなぞった。挿入前の前戯の時も相手をうつ伏せにさせ、指を這わせたり、欲望に駆られるままに唇や舌を押し当てたりさえした。その度に、鍾離は僅かに複雑そうな表情を浮かべたが、それもほんの一瞬のことで、拒絶の代わりに享受の声をあげることで傷へのタルタリヤの興味を受け入れた。それでも、鍾離は何も話さない。だから、タルタリヤも傷を愛でる以上のことはしなかった。
     タルタリヤが旅人からある話を聞いたのは、鍾離が傷への愛撫により強い快楽を引き出されるようになっていた頃だった。旅人から聞いた話というのは、鍾離の旧友に関するものだった。鍾離が目を与えて空を見せ、人間には途方もなく長い時を共に過ごし――そして矛を交えて封印せざるを得なかった友。鍾離にとって決して単純ではない意味を帯びた記憶に、彼の知らぬところで触れて良かったのかと戸惑いを覚えた。そして、同時にあの背中の傷が持つ記憶を知り、自分が鍾離に強いてきたことの残虐性に愕然とした。
    「今日は背中に触れないのか」
     ある晩、タルタリヤの腕の中で、鍾離は小首を傾げた。紅を刷いた目元は、そればかりではない赤みで薄っすらと染まり、それらに彩られた石珀の瞳の奥には熱が燻っている。それが何を意味するのか理解できないほど、タルタリヤは疎くはない。だが、代わりに腰を撫で上げた。
    「……は、んっ……」
    「今日は趣向を変えて、こっちはどう?」
     張り出た腰骨を皮膚の上から指でなぞり上げる。体の震えが、その答えだった。
     それから暫くは、背中以外に触れることで鍾離の快楽を引き出した。肌を重ね始めて早々、傷ばかり愛撫するようになったため知り得なかったことだが、鍾離は己を人間の姿として造形する際に何か間違えたのではないかと思われるほど、その肌が敏感に出来ていた。石を砕き練り上げて焼きしめた磁器を思わせる肌理細やかなそれは、タルタリヤの掌を飽きさせなかった。
    「……公子殿、今日もあそこにはまた触れないのか」
     タルタリヤがまだ新たな発見に興味を尽くさぬ頃、鍾離は再びそう問いかけた。疑問の形だが、その声には情欲が籠められている。こちらを見据える一対の瞳もまた、あれだけ執着していたものを何故放擲したのかと突然の理不尽を咎めたてるようなところがあった。タルタリヤは頭を掻き、視線を宙に彷徨わせる。
    「えっと、つまり先生は触ってほしいの?」
     声の代わりに、琥珀の瞳が熱っぽく潤んで返事をする。タルタリヤは彼の背中へ触れやすいように、正面から抱き合っていたのを背後からの体勢へ組み替えた。普段は一つに束ねられている髪が解かれ、白い肌に千々に散り乱れていた。龍の傷はその細い隙間から姿を示し、久方ぶりにタルタリヤの意識を向けられようとしていた。タルタリヤは手始めに掌を軽く押し付けたが、待ち侘びていたように鍾離の体が軽く波打つ。
    「ん……は、ぁっ……」
    「先生、きもちい?」
     鍾離は小さく首を縦に振った。褥を共にし始めた頃は羞恥心からか「聞くな」と言われ、やがてそうした言葉を返されなくはなったが頷いてはくれず、素直に返事をするようになったのが最近のこと。自分に抱かれ、快楽に包まれる姿は愛情と喜びとをタルタリヤの心に呼び起こす。だが、背中の傷の由来を知ってしまった今では罪悪感ばかりが先走り、興が乗らず、以前の様に指を走らせることができない。
    「……公子殿っ……その、もっと、」
    「もっと、なに?」
    「もっと、強くふれてほし、い」
     これがもっと別の箇所――それこそ濡れそぼつ鍾離自身であるとか――であれば、タルタリヤの欲望を煽るのにこれほど適した言葉もない。どうすれば、彼の欲望を煽ることが出来るのかということも、十分に知っている。だが、鍾離の望みと、タルタリヤの望みとはまるでさかしまだ。
     タルタリヤは僅かに沈思したあと、枕に頭を預けうつ伏せていた鍾離の体を、苦しくないように柔らかく抱き起す。背後から抱き込むような形になり、腰を深く沈め、これまで以上にタルタリヤの侵入を受けた鍾離は、は、と息を詰めた。
     タルタリヤの眼前には、例の傷があった。先ほどよりもずっと近く、生々しく見えた。この傷が未だに消えないのは、恐らくまだ鍾離のなかで過去が風化しきっていないからかもしれない。この傷をつけた相手と、何があったのかは詳しくは知らない。鍾離をしてこれだけ長い時を引きずらせるということは、ある意味では恋愛にも等しい激しい感情がそこに在ったのかもしれない。鍾離とその相手との二人だけの秘密の外に、タルタリヤはいる――だが、この鍾離の心の傷そのものであるような龍に触れることを許されるのは信頼の証に他ならない。
     タルタリヤは、美しく繊細な玉にでもするように、背中の傷に優しく口付けた。すると、鍾離が不思議そうに振り向いた。
    「……公子殿?」
    「何でもない、ただキスしたくなっただけ」
    「……急に何だ」
    「先生がここを撫でられて感じる、というのを知ってるのは俺だけなんだよなって思ってさ」
     鍾離は薄く笑った。小さい花が綻ぶようなそれもまた、タルタリヤの知る鍾離の秘密だった。
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