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    NatsuNe_02

    @Natsu_Ne02の作文部屋
    ここに上げるものはほぼ推敲してない。

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    POIPOI 16

    NatsuNe_02

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    風邪を引いたフィガロの部屋のセキュリティの小話。時間軸は1周年ストより前のつもり。
    【注意!】北3がほとんどですが、カッコいい北3はいませんので苦手な方はお戻りください。
    文中に出てくる魔法についてはただの妄想。
    フィガロの強さをコメディタッチで書きたかった。

    失敗した話フィガロが目を開けるとまだ辺りは薄暗かった。太陽は顔を出し始めているようだが、窓から光が差し込むほど高くはないのだろう。ぼやけた視界で窓の外を見ればアメトリンのような空。やはり、いつもより目覚めるには早い時間だった。
     それにしても寒い。上掛けを引っ張り上げて肩まで潜り込む。魔法での温度調整も必要ない季節であるはずなのにとても寒い。フィガロの背筋にゾクゾクした寒気が走る。何だか頭も痛いような気がするし、頭をグルグル回されているような眩暈もする。手の甲で額に触れてみるとやはり異常に熱い。
    (しまったな……)
     明らかな風邪症状だ。フィガロは自身に診断を下した。
     ここのところ、忙しかったせいもあるのだろうか。慣れない魔法舎での生活で疲れていたのだろうか。
    「《ポッシデオ》」
     フィガロは自分用に薬を調合するのも億劫で、ベッドの中で気休めに治癒力を高める魔法を自身にかける。
     弱っている時に無闇に魔法を使うのは褒められた行為ではないのだがこればかりは仕方ない。幸い今日は授業はないし、一日寝ていることにしよう。
     そうと決まればと、フィガロはおそらく起こしに来てくれるだろうミチルに口止めを含めて手紙を魔法で飛ばしておく事にした。もしかしたら、心配したミチルが薬を持ってきてくれるかもしれない。フィガロはその様子を思い浮かべて、フィガロはふふふっと小さく笑う。でも、風邪を移したくはないなとも思う。
     ミチルへの手紙を飛ばし終えるとフィガロはじっくり眠るための準備に入った。しかし、危惧することがある。ここには北の魔法使いが同居していることだ。寝込んでいるとしれば好機とばかりこの部屋に乗り込んでくる可能性が高い。双子を除く北の魔法使い3人にしてみれば、フィガロは目の上のタンコブであり良質なマナ石になり得る存在。そのフィガロが弱っている。それに過去の片を付けるには持ってこいだ。しかし、フィガロにとっては面倒な事だ。タイミングが悪い事に、賢者は西の魔法使い達と依頼を受けて昨日から不在だ。
     とは言っても、安易と石になってやるつもりもない。こんな体調で相手をしたくないが。さて、どうすればいいのか。あの3人に近づかなければいいか。それなら、邪魔者が部屋に入れないようにしよう。それなら簡単だ。
     わずかに軽くなった頭で思いついた対策を実行すべく、上掛けから左手を出し人差し指をくるりと回して魔法を使う。
    「まずは媒介を三種用意してね、と。あとはぁ……」
     間延びしてしまった言葉尻が、フィガロの体調の悪さを物語る。
     南の魔法使い達に授業をするように話しながら支度をしているのも、覚束無い思考と手際の確認のためだろう。のろのろと目的のものを引き寄せては、出来上がったものを室内に配置していく。
     そして、通常よりかなり時間はかかったが完成したものを眺めてフィガロは満足気に笑んだ。
    「《ポッシデオ》」
     フィガロの魔法陣が天井いっぱいに広がって光り、それぞれの媒介に雪が降るように魔力が注がれる。その様子を見届けてフィガロは再びベッドへ潜り込んだ。
     よしよし、これで邪魔されずに眠れる。フィガロはそっと目を閉じた。

     力加減を間違えたことに気がつかないまま。




    ◇◇◇




     フィガロが寝込んでいるらしい。
     どこから聞きつけたのか、ブラッドリーとミスラ、オーエンはフィガロの部屋の前に偶然にも同時刻に集まった。
     三人ともそれを聞いた時は半信半疑だったが、部屋の前に来て見ればそれは確信に変わった。張られている結界が強い。お前、北出身を隠してるんじゃねぇのかよとツッコんでしまいたいくらい強い。これはさすがに若い魔法使い達も気がつくのではないだろうか。あまりの事に誰かの喉元がゴクリと音を立てた。
    「おいおい、こりゃあマジだな」
     ブラッドリーが乾いた笑いと共に、言葉をこぼす。武者震いなのか声が震えているようにも聞こえた。
    「これだけの結界を張っておいて?もし罠だったら、返り討ちにあうのはブラッドリーだね」
    「何で俺だけなんだよ!」
    「俺は勝つので」
    「僕も」
    「理由になってねぇ!」
     でも、ブラッドリーも負ける気はしていない。最近では「もしかしたら、そろそろ勝てるかも?」と思える事があるのだ。3人で組めば尚の事。
    「《アルシム》」
    「あ、ズルい」
    「って、おい!」
    「先に行きます」
     そうだったと、ブラッドリーは内心頭を抱えた。この2人との連携プレーの困難さは北の祝祭で痛感したはずだったのに。フィガロに挑む前にこの2人をどうにかしなければいけなかったのだ。
     ブラッドリーが悔やんでいる間に、ミスラは繋げた空間の扉に手を掛けた。強力な結界があっても、結界の内側と空間を繋げてしまえば関係ない。ところが、いつものように扉が開かない。魔法による抵抗に遭っているのか、ドアノブを握るミスラの手の筋が浮き上がっている。流石はフィガロと言ったところか。ミスラでもタダでは通して貰えないらしい。
    「《アルシム》!」
     ミスラは再度呪文を唱え、力を込める。力業で押し切るつもりだ。なかなか開かない扉にミスラも体重を掛け、前のめりになる。そこでやっと扉が開き始めた。あと一息だ。
     扉が枠を外れ向こう側が見えそうになった瞬間、抵抗が急に止み、扉とともにミスラの体も向こう側に勢い良く引っ張り込まれる。
     オーエンもブラッドリーも、ミスラ自身もフィガロの結界を打ち破ったのだと思った。扉の向こう側はフィガロの部屋だ。そう思って、ミスラは引っ張り込まれるままに足を踏み出した----が、
    「はあぁぁぁぁぁぁ!?」
     落下した。
     フィガロの部屋って床なかったっけ?残された2人は呆気に取られながらそんな事を思ったが、そんなはずはない。
     開け放たれた扉の向こうからこの世の熱さとは思えない温度が伝わってくる。フィガロの部屋でないことは確かだ。マグマ溜まりか。その熱のせいか、ブラッドリーの顎に汗が伝った。
    ミスラの空間の扉が消えていく。ミスラ自身は戻ってきていないが、叫びながら消えていく時に遠くで呪文も聞こえたからきっと無事なはずだ。
     一体どういう仕掛けだ。ミスラでなかったらどうするつもりだ。ブラッドリーは考えた。しかし、それより答えを出したのはオーエンだった。
    「ふーん、厄介だね」
     オーエンの額にも微かに汗が滲んでいる。
    「何か分かったのか?」
    「教えない」
     自分で考えたら?とオーエンはニッコリ笑った。
    「てめぇ……ブン殴って吐かせてやろうか」
    「できない事を口にするより、頭を働かせた方が賢明じゃない?」
    「やれなくは無いって見せてやろうか?大体、こっちだって既に察しは付いてるんだよ」
    「へぇ?お前でも分かるんだ?聞かせて貰おうか、その迷推理」
    「てめぇ、今の絶対嫌味だな。」
     軽口なのか本気なのかどっちとも取れる言葉の応酬。ブラッドリーのこめかみに青筋が立つが、目的から逸れる事は時間の無駄だ。ブラッドリーは気を取り直して、説明を始めた。
    「おそらく、外側の強力な結界は囮だな。内側にもう1枚……いや、2、3枚結界が張られていると考えた方がいい。そのうちの1枚がミスラの空間移動魔法を阻む結界だったんだろ」
     それだけではない。外側の結界が強力であればあるほど内側の結界には気付きにくい。そこに魔力を削っていても、フィガロは更に内側に高度な空間移動魔法に干渉する結界を張っている。魔法陣に組み込まれた魔法の術式。それを発動した本人ではなく、他者が干渉し歪めるなんて事が可能だなんて誰も思わないだろう。しかし、その複雑で繊細な魔法をやってのけてしまう頭脳と技術を持っているのがフィガロだ。
     これだからフィガロは。オーエンとブラッドリーの思う事は1つだった。
     でも、分かったこともある。これだけの複雑な魔法は即席で行使されたものではない。つまり、予め用意されていたと考えるのが正しい。体調不良説に翳りが生まれる。そうなればこの襲撃は好機と言えるのか。
     疑念は心の揺らぎになる。
    「チッ!まどろっこしい事は性に合わねぇ!」
     今朝も南のちっこいのがフィガロを起こしに来たはずだ。ということは、部屋の入り口の防御が一番手薄なはず。ブラッドリーは意を決し部屋のドア正面に立ち、魔道具の銃を呼び出す。
    「やっぱり正面突破しかねぇよな!」
     そして、銃を構え狙いを定めると躊躇う事なく引き金を引く。
    「《アドノポテンスム》!」
     魔力を銃弾として撃ち込む。貫通力には自信がある。いくら強力な結界と言えど、一点に集中して撃ち込み続ければ亀裂が入る。
     ブラッドリーは寸分の狂いもなく、銃弾を撃ち込んでいく。
    「これで終いだ!」
     より密度の高い魔力を込めた弾丸が結界に当たり、パリンッというガラスが割れるような音を立てて遂に入り口の結界が崩れていく。
     結界が1枚消えた事で、フィガロの部屋内で発動している魔法が探りやすくなった。
    「やっぱりな」
     ブラッドリーが思ってた通り、入り口の防御は手薄だ。若い魔法使い達が近づく可能性があるからだろう。
     ドアの内側付近で発動している魔法がない事を確認して、ブラッドリーがドアノブに手を掛け回そうとしたーーーーが、
    「しまっ……!!」
     その瞬間、ドアノブに触れた右手から何が這い上がる感覚。これは遅延発動型の魔法だ。そう気付いた時にはブラッドリーの右腕は内側で爆竹が弾けるような攻撃を受けてボロボロになっていた。
    「くっそ……!!」
     力が入らなくなった右腕を庇ってよろけた体をなんとか踏ん張って支える。怪我を負っても諦めきれず、フィガロの部屋を睨もうと顔を上げた時、目の前には胡椒の瓶が浮いていた。
    「は?」
     鼻や口を手で塞ぐ暇など無かった。容赦なくふりかけられた胡椒に抗えきれず、ブラッドリーはくしゃみをしてどこかに飛ばされてしまった。
     静まり返った廊下に胡椒が舞っている。なんとも不思議な光景だ。ミスラもブラッドリーもどこかに行ってしまい、残されたのはオーエンだけ。
     オーエンは離れたところでブラッドリーが消えた瞬間を見届けると、さてどうしたものかと考えた。正直面倒になってきた。別に怖いとかじゃないけど。
    「オーエンさん?」
     胡椒が収まるのを待っていると、後ろから声を掛けられる。
    「どうしたんですか?何かすごい音もしたような」
    「ミチル、いいところに」
    「え?」
     部屋から恐る恐るといった様子で出てきたミチルを見て、オーエンはニンマリと口角を上げる。
    「フィガロのお見舞いに来たんだけど、中に入れなくてね」
     北の魔法使いに対する警戒心が高いミチルにそう説明するのは賭けだった。
    「お見舞いですか?フィガロ先生、今日は部屋に来ちゃダメって言ってましたよ」
     ミチルは困ったように眉根を寄せて答える。それを聞いたオーエンはますます気を良くした。フィガロが寝込んでいるのは本当らしいという確信を得たからだ。
    「ミチルは心配じゃないの?それくらい寝込んでいるなら、まともに食事は摂れているのかな?薬は?君たちの先生なのに。意外と薄情なんだね、南の魔法使いって」
     そこまで言われるとミチルは顔色を青ざめさせて、それから少し怒った表情でオーエンを睨むと「待っててください」と言って自室へ戻っていった。
     しめしめとオーエンは笑う。扱いやすくて助かる。南の魔法使いは、人助けの気持ちや団結感というものが強いからああして煽ればすぐに動揺する。だから弱くて、こちらも思い通りに事が運べる。
     二、三分後やはりミチルは薬の瓶を持って戻ってきた。
    「僕だって心配で、夜にはお薬を持って行こうと思っていたんです!」
     さあ、行きましょうとミチルが先を行き、フィガロの部屋のドアをノックする。
    「フィガロ先生、ミチルです。あの、ダメって言われたけど、やっぱり心配で。お薬だけ受け取ってほしくて……!」
     ミチルが訴え終えると、室内で微かに物音がする。向こうから出てきてくれるのか。願ってもない。それならドアを開ける前に戦線離脱する可能性が格段に低くなる。
     もし開けられなくても、ミチルにはフィガロの魔法は発動しない。これもオーエンが予測した通りだった。
     ドアノブが回る音。ドアが向こうから開けられる。オーエンは難関を突破したと思ったーーーーが、
    「何用だ」
     中から出てきたのは何とオズだった。真紅の瞳が冷たくオーエンを見下ろしてくる。一瞬でオーエンの背筋が凍った。
    「え?オズさま?」
    「フィガロに近づくなと言われなかったか?」
    オズの迫力にミチルはビクリと肩を揺らす。
    「す、すみません。でも、お薬だけでも渡したくて」
    「そうか。預かろう」
     ふっとオズの口元が優しく綻んだようにミチルには見えた。そして、オズの大きな手がミチルの頭を撫でる。ただそれだけの事でミチルは、じんわりと心が温かくなる。ミチルもオズを見上げて安心した様に笑んだ。
    「オズちゃん、どうしたの?」
    「おや、ミチル」
     オズの後ろから姿を現したのは双子の魔法使いだ。
    「スノウ様、ホワイト様」
    「ミチルや、フィガロが心配で来たのか?」
    「はい、お薬を……。お二人は?」
    「我らは看病じゃよ。何とも若い魔法使いには厄介な風邪じゃ。フィガロも近づくなと言っておったじゃろう?ミチルも早く部屋に戻るが良い」
    「……」
     ミチルは何とか自分にも看病をさせて貰えないか食い下がるつもりだったが、スノウとホワイトにそう言われてしまえば従うしかない。
    「オーエンさんはどうしますか?」
     自分と一緒にお見舞いに来たオーエンは確か千歳を超える魔法使いだ。フィガロに会って行くことも可能なのかもしれない。しかし、振り返ったところにオーエンは居なかった。
    「あれ?」
    「オーエンちゃんなら自分の部屋に帰った」
    「え?お見舞いに来たって言ってたのに?」
    「ほれ、良い子じゃ。ミチルもお帰り。フィガロが起きたら一番にそなたを呼ぼう」
    「……はい」
     スノウに促され、トボトボとした足取りで部屋に戻って行くミチルを見送ってオズはドアを閉めた。

    オズが振り返るとベッドにはフィガロが横たわっている。熱はだいぶ下がり、今は幾分か穏やかな表情だ。そのフィガロを見守るようにベッドの端に腰を下ろす双子にオズは近づいた。
    「いきなりめっちゃ強い結界を張るから何事かと思って駆けつけてみれば……」
    「甘えるのが下手なところは変わらないのじゃな、フィガロちゃんは」
     幼な子を優しく叱るように、見守るように、呟く二人の気持ちをオズは知っている気がした。
     フィガロは心配や面倒を掛けたくなくて敢えて遠ざける方法を選ぶが、そばに居る者は余計に心配になる。それを煩わしいとも思っていないのに、全てを自分のみで解決してしまおうとする。その力があるのがまた厄介だ。おかげでオズや親代わりである双子にさえ、表立って弱ったところを見せようとしない。
     スノウとホワイトはフィガロの両脇に陣取り、添い寝を始めた。きっとそのまま眠ってしまうに違いない。窓にカーテンがないせいで、日差しはベッドに届いてしまいそうだ。日が昇りきってしまえば気にはならないだろうが室内が暑すぎでも良くないだろう。
    「《ヴォクスノク》」
     オズが呪文をとなえると薄く雲がかかって日差しが和らぐ。
     昼になったら、フィガロを起こそう。心配して見舞いに来たミチルのことを話せば喜ぶだろう。その前に、両脇の双子と自分が仕出かしたことに存分に驚くといい。
     そんなことを考えながら、オズはイスに腰をかけ昼になるのを待った。



    おわり
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