それを選んだのは、単に唇に触れるための口実だった。
口に含んだ液体を勇者の口に流し込む。飲み下したのを確かめてもジャミはしばらく唇を貪るのをやめなかった。震え、息を乱しながらも、アステルは抵抗しない。
けれどそれは毒でもなんでもない、ごく軽いアルコールだった。薬草を漬け込んであるので確かに味は奇妙だが、言ったような効果はない。
だからアステルが、本当に来たくないと思っているのなら、振り切ることは容易いのだ。毒のせい、逆らえないと言い訳し、己の意志で彼のもとへ来ている。
「んっ……っ、はぁっ……」
彼に肌を許すのも彼女の意思。彼の舌を素直に受け入れることに満足し、舐める以上のことは勘弁してやっている。
「勇者サン」
笑いながら彼はアステルを組み伏せた。苦しげに顔を背ける仕草がたまらない。
晒された細い首に、誘われるまま吸い付き舌を這わせる。痕を残せないのがもどかしいが、アステルの手が彼の服を──服だけを縋るように握っていて、ジャミは声に出さず笑った。
もう少し、もっと彼女を乱し虜にしてから、真実を明かせばどうするだろうか。何一つ、彼は強要していないと知ったら。