こぼれないよう、フォークで慎重にすくわれた黄色のとろふわが、マユミくんの口元へ運ばれる。形の良い唇の中にそれが納められ、咀嚼するほどの硬さもないそれがゆっくりと飲み込まれるのを、僕はドキドキしながら見つめていた。
「美味しい」
「本当?お世辞でも嬉しいけど」
「お世辞じゃない。舌触りの良い、丁度いい半熟加減だ」
とても真面目な顔で褒めてくれるのが恥ずかしくて、「本を見て作れば誰だって作れるよ」って返す。本当はここ数日、卵と生クリームと格闘していたのは内緒だ。スクランブルエッグなんて簡単に作れると思っていたけど、ホテルの朝食で出てくるようなそれを作るために2パック程卵を消費した。炒り卵とスクランブルエッグって作り方がほとんど同じなのに。奥が深い。
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