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    ぜね@ガロンゾ労働賛歌

    五飛教えてくれ…俺はあと何箱開ければいい…

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    Stir until the sugar dissolves / グラユス
    21.03.20 / 1200字

    #グラユス

    深い眠りに意識を引きこむ波濤の、その波の引いている、覚醒の水面に浮かびかかったころに、グランはなにかあたたかいものが肌に触れるのを感じて、閉じていた瞼をかすかに震わせた。朝になって自然に目が覚めたのならば、目を閉じていてもその向こうに陽光が部屋にさしこんでいるのを感じるから、それがないいまはまだ夜の明け離れていない時刻なのだと茫洋と考えた。
     肉体が制御の下に戻りつつあるうちに、グランは眠りに落ちる前の記憶を漫然とたぐり、自分がほかの人間と同じベッドに身体をおさめているのだと思い出した。いまグランの右手になぞるように触れているのはその人物なのだ。意識にかかっていた白い霞が薄れるにつれ、その中にいる人物の輪郭が鮮明に心の目に見えた。
     まだ少し重いような心地のする瞼を緩慢にひらくと、果たしてグランの隣に身を横たえた彼が、その顎のあたりに引き寄せたグランの右手を己の手のひらで覆い、形を確かめるように緩やかにさすっているのだった。雪国の空に似た薄灰の瞳がまんじりともせずこちらを見据えていた。まだ夢の綿にうずもれたままのような調子で名を呼ぶと、ユーステスはいつもの低く凪いだ声で「すまない。起こしたな」と詫びた。自分は肩までしっかりと毛布に入っていたが彼の褐色の肌はその二の腕までがあらわになっていて、グランは重たい眠気にかすかに呻きながら腕をのばしてユーステスの肩まで毛布を引き上げた。自分もいまは大した衣服も身につけていないのだと思い至ったそのいたたまれないような羞恥はあとからやってきた。それに気づいているのかいないのか、ユーステスはかすかに口角をゆるめて、「ありがとう」とうすく笑った。
     銀色の細い髪からのぞく獣の耳が揺れたように見えて、ユーステスに捕まっていないほうの手をのばしてその毛並みのしなやかな耳に触れると、ユーステスは幼い子どもが不可解ないたずらに興じるのを慈しむような顔をしてみせた。そのあいだも右手を放さないでいるので、なにをしていたのかと問うと、「おまえの手を見ていた」とそのままの答えが返ってきた。まだずいぶん小さいのにしっかりとした戦士の手だ、この手に救われたものたちのことを考えていた、とユーステスは言った。眠りのそれではない、なにか胸を濡らすような熱い波に打たれたのが自分でもわかって、グランはこそばゆいように眦を細めながら、己の右手を包んだままのユーステスの手を胸もとに引き寄せた。ユーステスの手も、と言うと、ユーステスは銀氷の瞳をかすかにみはってみせたが、すぐに眦をゆるめてそれにはなにもこたえずに、もう寝ろ、と言って、もう片手でさっきグランがユーステスにそうしたようにグランの頭を撫でた。ユーステスと一緒じゃなきゃいやだとごねると、ユーステスはなにもかもすべて明け渡したような微笑で瞳をふせて、グランの右手を少し強く握った。
    「わかった。夢で会おう」
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    ぜね@ガロンゾ労働賛歌

    TRAININGStir until the sugar dissolves / グラユス
    21.03.20 / 1200字
    深い眠りに意識を引きこむ波濤の、その波の引いている、覚醒の水面に浮かびかかったころに、グランはなにかあたたかいものが肌に触れるのを感じて、閉じていた瞼をかすかに震わせた。朝になって自然に目が覚めたのならば、目を閉じていてもその向こうに陽光が部屋にさしこんでいるのを感じるから、それがないいまはまだ夜の明け離れていない時刻なのだと茫洋と考えた。
     肉体が制御の下に戻りつつあるうちに、グランは眠りに落ちる前の記憶を漫然とたぐり、自分がほかの人間と同じベッドに身体をおさめているのだと思い出した。いまグランの右手になぞるように触れているのはその人物なのだ。意識にかかっていた白い霞が薄れるにつれ、その中にいる人物の輪郭が鮮明に心の目に見えた。
     まだ少し重いような心地のする瞼を緩慢にひらくと、果たしてグランの隣に身を横たえた彼が、その顎のあたりに引き寄せたグランの右手を己の手のひらで覆い、形を確かめるように緩やかにさすっているのだった。雪国の空に似た薄灰の瞳がまんじりともせずこちらを見据えていた。まだ夢の綿にうずもれたままのような調子で名を呼ぶと、ユーステスはいつもの低く凪いだ声で「すまない。起こ 1199

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    TRAININGStir until the sugar dissolves / グラユス
    21.03.20 / 1200字
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     肉体が制御の下に戻りつつあるうちに、グランは眠りに落ちる前の記憶を漫然とたぐり、自分がほかの人間と同じベッドに身体をおさめているのだと思い出した。いまグランの右手になぞるように触れているのはその人物なのだ。意識にかかっていた白い霞が薄れるにつれ、その中にいる人物の輪郭が鮮明に心の目に見えた。
     まだ少し重いような心地のする瞼を緩慢にひらくと、果たしてグランの隣に身を横たえた彼が、その顎のあたりに引き寄せたグランの右手を己の手のひらで覆い、形を確かめるように緩やかにさすっているのだった。雪国の空に似た薄灰の瞳がまんじりともせずこちらを見据えていた。まだ夢の綿にうずもれたままのような調子で名を呼ぶと、ユーステスはいつもの低く凪いだ声で「すまない。起こ 1199

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