最後の魔導書 マトリフはベッドに横になったまま咳を繰り返す。引き攣った喉は細く息を吸ったが、それは込み上げる喀血に邪魔されて長くは続かなかった。
気休めの回復呪文も薬草もとうに諦めた。マトリフは手のひらに広がった血を服で拭う。あの戦いから十数年。だが命はまだ終わろうとしない。
マトリフは咳を堪えながら起き上がると枕元の棚に手を伸ばした。そこには一冊の魔叢書が置かれてある。マトリフはそれを迷わずに手に取った。
マトリフはその魔導書を開かずに胸に抱える。中に書かれたことは暗唱できるほどに覚えていた。マトリフは魔導書を胸に抱くと安心したように身体の力を抜く。その身体は前のめりに倒れていった。
「……ガンガディア」
呟いた言葉は響くことなく消えていく。何故よりにもよってこの本を託されたのかとマトリフは思った。
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