君を残す呪文 それに気づいた時には、呪文は煙のように消えかけていた。
「なんの呪文だそれ?」
ガンガディアの手はマトリフに向けられ、指が輪のように形作られていた。そこには間違いなく呪文の形跡があり、しかもマトリフの知らないものだった。だが攻撃呪文ではなさそうで、その証拠にマトリフの周りに咲いた花は風に揺れるだけでなんの害も受けていなかった。
「……秘密だ」
ガンガディアは珍しく言い淀みながらぽつりと口にした。真面目な気質の彼はその事に不誠実さでも感じたのか、恥じるように目線を外らせてしまった。
マトリフは何か言い返そうとした口を閉じる。揶揄うにはよいネタだと思ったのだが、何故だが気分が乗らなかった。あまりにも平和すぎる時間の流れに感化されたのかもしれない。マトリフは咲き乱れる花に目をやる。そうすると自然とそこに立ち尽くす二人にも目がいった。
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