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    下町小劇場・芳流

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    ⑴2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面①
    バルトスの苦悩

    #ダイの大冒険
    daiNoDaiboken
    #ヒュンケル
    hewlett-packard
    #バルトス
    bartos
    #不死身の長兄
    immortalEldestBrother

    2021.12.11「不死身の長兄」web拍手お礼画面① 騎士は、港の岸壁に立ち、そこから紺碧の海を眺めていた。
     ホルキア大陸の南西に位置するこの港町は、比較的温暖な地域だった。遠くに見えるのは水平線にすぎないが、ここから船で5日も行けば、ラインリバー大陸、ロモス王国に着く。かつては、ロモス側と船で人々が行き来をしていた交易の街だった。
     だが、数年前に、魔王軍がこの港町を制圧して以来、定期船は出てはいなかった。
     騎士は、骨の腕を組み、まっすぐに対岸にあるはずのロモスを見つめていた。海に変わった様子もなく、水平線に船影もない。
     部下からの報告を聞いても、近いうちに人間たちからの総攻撃となる様子までは、まだなかった。
     だが、それが表面上のつかの間の平穏に過ぎないことは、長年、魔王に騎士として仕え、戦場に長くあった彼にはよくわかっていた。
    ―まさに嵐の前の静けさ、よの。
     騎士は、二本の腕で腕組みをし、思案に暮れながら思った。
     魔王軍は、いまだに、ホルキア大陸のほぼ全土を制圧しており、この大陸においては、魔族が人間たちを支配している状況に変わりはなかったが、それは表面上のことにすぎないことは、幹部である彼にはよくわかっていた。
     つい数か月前までの1年間、魔王が、勇者によって、時のはざまに封じ込められていたのだ。
     その間、彼ら幹部は魔王軍を維持するだけで精いっぱいであった。その領土内では、もともと魔族による支配にあえいでいた人間たちが、魔王不在の間隙を突き、各地で蜂起をした。そのため、彼ら幹部は、その鎮圧に明け暮れた。
     その結果、ホルキア大陸内の一部の領土を奪われ、人間たちが独立を宣言した。旧パプニカ王国の王都であった港町は、早々に人間たちの手に落ちていた。この港町からさらに南西に行った場所にある古都だった。
     ここも危機的状況にあったが、度重なる小競り合いの結果、なんとか、魔王軍の手に残されていた。
     その状況下で、勇者を先頭にした人間たちの反撃が始まったのだ。
     勇者も魔王とともに、時のはざまに封じられていたため、魔王不在の隙に勇者に攻め込まれるという最悪の事態は避けられた。
     だが、すでに時勢の流れは彼らにある。
     時を得たものが時流に乗ったときの勝機の強さは、戦場で暮らす彼には、肌身にしみて よくわかっていた。
     遠からず、魔王軍は崩壊するだろう。
     既に幹部も半分になっていた。
     彼は思案した。
     地底魔城を守る自分が最後の砦ではあるが、勇者が魔王の居城である地底魔城にまで攻め込んできた時には、果たして食い止められるだろうか。
     彼は、冷静に、双方の戦力を分析した。そして、足元に視線を落とした。
    ―難しい・・・。
     騎士はうめいた。
     魔王軍の勢力を維持することは、すでに困難な状況になっていた。
    ―わしは構わん・・・だが、あの子は・・・。
     彼は、騎士だった。
     だから、主君のために戦って果てるのであれば、それもやむなしと考えていた。むしろ本望ともいえる。
     だが。
     彼は、まだ幼い我が子の姿を脳裏に浮かべた。6年前に戦場で泣いていた赤子。その子を拾い、今日まで慈しみ、育ててきた。まだ幼い、人間の少年だ。
     血のつながりがないどころか、種族さえも異なるが、あの子を表現する言葉は「我が子」以外にはなかった。
    ―わしに何かあったら・・・あの子はどうなる。
     彼は騎士だった。
     だから、もともと、いつ戦場で果てるかわからない任務を負っていた。
     そのため、彼は、彼自身にいつ何があってもいいように、あの子が自分で生きていけるように、可能な限り多くの知識や技術を教えてきた。
     だが、まだあの子は、6歳だ。
     大人の庇護を必要とする年齢だ。
    ―何故もう少しの時間が、与えられなかったのか・・・。
     せめて、もう少しあの子が大きくなってくれていれば、心置きなく戦えるものを。
     彼はそう思ったが、すぐに思い直した。
    ―いや、いくつになっても、いつまでもあの子の姿を見ていたいと思い、心残りに思うのであろうな。
     彼はそう思うと、ロモスにつながる海をまっすぐに見つめた。幸い、今日の海は凪いでおり、相変わらず異常も見受けられなかった。
    「バルトス様。」
     配下のがいこつ剣士が、控えめに声をかけてきた。
     彼は振り返った。
     部下が報告をする。
    「キメラでロモス側に斥候に出た部隊が戻ってまいりました。
     ロモスの港で、大型の船が建造されているそうです。砲門も認められるとのこと。」
    「軍船だな。」
    「はい。
     まだ建造途中ではあるようではございますが、いささか不穏かと。」
    「そうだな。」
     しかし、彼は、苦渋に満ちた声で答えた。
    「だが、今ロモスまで部隊を派遣するだけの余力がない。」
    「バルトス様。」
    「ここからロモスまで一軍を派遣すれば、その分、ホルキアが手薄になろう。さすれば、旧パプニカ王国の勢力が、この港を攻める。
     今は動けん。
     ホルキア上陸の際に叩くしかなかろうな。」
    「・・・はい・・・。」
    「しばらく警戒を怠るな。
     この港が、まず、第一の防衛線となる。」
    「はっ。」
     それだけ指示をすると、彼は、岸壁から下り、街中へと戻った。
     兵舎に戻りながら、彼は思案した。
     部下に指示を下したものの、本来なら、軍艦の出撃前に攻撃するべきだ。それもできずに迎え撃つしかないという時点で、すでに負け戦だ。相手は、万全の態勢で、軍勢を送り込んでくるのだろうから。
    ―この戦い、危ういな・・・。
     人間一人一人の力はさほど強くはない。だが、あちこちで蜂起を受けている今の状況では、それを制圧するのが精いっぱいであり、勇者の軍勢にまで手が回っていなかった。
     彼は、街を歩きながら、ふと、1軒の店で視線を止めた。
     そこは、書店だった。
     ガラスの向こうに何冊もの、色とりどりの絵本が飾られ、小さな美術館のようになっていた。
     彼は、頬をほころばせた。
     彼の幼い息子が、絵本を読んでとせがむ姿を思い出したのだ。あの子は、絵本が好きだった。
     騎士は、並べられた色彩の中で、ふと、1冊の絵本に目を止めた。
     それは、表紙に大きな星の絵が描かれた絵本だった。
     その表紙と、彼の息子の笑顔がまた、重なった。
     騎士は、胸元に視線を落とした。
     そこには、紙でできた、星の首飾りがかけられていた。
     ずいぶん前から持っているものなのだろうか。端が折れて、多少くたびれていた。
     騎士は、初めてこれを手にした時のことを思い返した。
    ―じゃーん!
     とうさん、はい。
     そう言って、彼の息子は、彼に星の首飾りをかけてくれた。小さな息子お手製の、勲章だった。
     騎士は、店の扉を開けると、店主に声をかけた。
    「すまんな。あの絵本を、1冊もらえまいか。」
    「は、はい。」
     店主は、騎士の姿を見て、すぐに魔王軍の軍人であることに気付いた。恐れおののき、震える声で応対した。
     店主は、絵本を紙で包むと、騎士にさし出した。
    「ど、どうぞ。」
     すると、騎士は、店主の手に、金を握らせた。
    「お、お代は結構です。魔王軍の方からお金はいただけません。」
     だが、彼はかぶりを振った。
    「いや、受け取ってくれ。
     我が子に、人から奪ったものを贈るわけにはいかんのでな。」
     店主は、幾分か強引に金を握らされ、返すこともできずに受け取った。
     騎士は、店を出ると、購入したばかりの絵本を抱え、兵舎への道を急いだ。
     この絵本は、人間たちの作った、彼らの文字で書かれたもの。
     だが、彼は、息子には、人間の文字も読めるように教えてきた。
    ―このくらいの易しい絵本なら読めるであろうな。
     喜んでくれるだろうか。
     これを渡したときに息子の表情を思い浮かべると、骨しかないはずの彼の胸が温かくなった。
     あの子に、早いうちから人間たちの文字も教えておいてよかったと、彼は思った。想像よりも早く役立ちそうだな、と思い、彼は寂し気な笑みを浮かべた。
    ―わしがいなくなったら、あの子はどうなるのだろうか・・・。
     彼は祈った。
    ―人間の神よ。
     モンスターに過ぎないわしではあるが、あの子は、そなたたち人間の神の庇護に入るべき幼子だ。どうか、わしの願いを聞いてほしい。
     わし亡き後も、あの子を守ってくれるものを遣わしてはくれまいか。
     その願いが叶うなら、このかりそめの命も、惜しくはない・・・。
     その願いが届いたかどうかは、わからなかった。
     
     
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