2022/8/7司冬ワンドロワンライ 水遊び/透ける 何かに気付いたように、冬弥はふと足を止め顔を上げた。釣られて司も冬弥の視線を追うが、冬弥は振り返り、一心に来た道を見つめていた。
「どうした?冬弥」
「音が聴こえるんです」
音?と司が聞き返す前に、冬弥はその細い指である箇所を指した。
「あちらの方から音楽が……」
司は冬弥の指す方向へ耳を澄ました。街路樹が風に揺れるざわめきや、立ち止まる二人を通り過ぎる通行人の足音が耳に入るのみで、どれほど集中しても彼の言う音楽は聞き取れなかった。きっと冬弥の優れた聴力によって拾われた音なのだろうと結論付け、冬弥と目を合わせる。
「この公園は随分広いからな。何かイベントでもやっているんだろう。行ってみるか」
司の問いかけに、冬弥は表情を明るくして頷いた。
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