未定火の中から苦無を取り出し橙色に光る刃を見つめながら向き合う男と女。
男は女の左手の薬指に焼ごてのように刃先を押し当ててぐるりと一周。
皮膚はじゅうじゅうと音を立てて焼け女は痛みに呻きながら男の肩をぎりりと噛む。
女の指に一生消えない痕が焼きついたら今度は男の薬指に焼けた苦無を押し付ける。
奥歯が砕けそうなほど強く噛み締めながら女がつけた肩の歯形に口付けて耐える男。
誰もいない、二人だけの婚礼。
薬指の『指輪』を重ねあい静かに口づけを交わす。
その二人の影は轟音とともに消えていった。
―その一年前のこと。
カムラが誇る英雄はギルドに入った救援要請に応じて溶岩洞にいた。ヤツカダキを目的としたハンターは突如としてラージャンに襲われて装備を失い虫の息。そこに駆けつけたのはカムラの英雄と、もう一人。すらりとしなやかな身体を持った長身の男。
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