蝙蝠①金目の物だから欲しいとか盗って困らせてやろうとか、そんなんじゃないんですわな。これはねぇ厄介ですよ。盗み自体を衝動的にやってしまうもんでしてね。窃盗癖ですよ、息子さん。
盗みを繰り返していた事がついにバレた際、精神鑑定を行った医師が親に告げた言葉をぼんやり思い出していた。物心ついたときから連れ添っているこの謎の衝動は、平穏な生活を破壊した元凶である。酷く心を痛めた両親に家を追い出され、流れ着いた先でもなお盗みはやめられなかった。
気がつくと床に組み敷かれていた。ここの家電屋は少し古い建物で、入り口は狭く外から中の様子は見えにくい。建物の奥に店主がいるだけ。防犯カメラが無い代わり鏡が置いてあったが、店主の位置からは全て見えないはずだった。ホコリっぽいし薄暗くて店としての活気も全く感じない。だのに万引きにここまで敏感だったとは。奪い返した延長コードと俺を交互に視線を送る男、ここの店主と思われる人物だ。
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