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    怪物jwds⑤

    #怪物
    monster
    #ジュウォン
    #ドンシク
    #ジュウォンシク
    jewish
    #jwds
    ##怪物

    約束『ハン・ジュウォン警部補、生きてますか?』
     電話する日時を事前に確認していたので、ドンシクは電話に出てすぐに、そう囁いた。
     人をからかうような言い回しに懐かしい気持ちになり、その後、何故か切なくなった。
    「……はい。おかげさまで」
     誰かに恋する感覚を知った自分に、まだ戸惑いがある。
     これまでも、人間らしい感情が無かったわけではないが、ジュウォンにとっての感情は単に、自分の気分の話だった。人に対しての感情表現がより豊かになったのは明らかに、ドンシクやジェイのせいだ。
     とはいえ、ドンシクのせい、などと責めればまた、あの妖しげな笑みと話術に弄ばれ、墓穴を掘る羽目になる。元々、ジュウォンが自ら首を突っ込んで追い回していたのだから。
    『ごめん。冗談にしては不謹慎だな。声を聞くのは久し振りだから、少し浮かれた。元気?』
     間を空けたらお互い他人行儀になってしまわないかと、こちらは少し緊張していた。
     急いで帰宅して、ドンシクを近くに感じられるよう、少しだけマッコリを飲んだ。
    「元気です。ドンシクさんは、お元気でしたか」
    『うん。元気にやってます。ご飯は食べた?』
    「これからです。食べながらでも構いませんか?」
    『そんなの聞かなくていいって。ずいぶん遅いな。仕事で何かあった?』
    「今日は……」
     仕事以外の話があまりできない自分でも、ドンシク相手なら何でも話せる。もちろん、もう捜査情報の漏洩はできないし、してはいけないのはわかっている。
     そういう意味で助けが欲しい時は、具体的な情報を伏せても、ジュウォンがいくつか質問するだけで、ドンシクはジュウォンの知りたいことを察して助言できる。
     伝わらないのは、この恋心くらいだ。
     察しのいい彼が、ジュウォンの変化に気付かないとも思えない。変化には気付いても、それがドンシク自身に対するものだとは、思い当たらないかもしれない。しかし、あえて気付かない振りをしてくれているなら、伝えない方がいいのだろう。
     今回は解決した事件の話だ。助けが欲しいわけではない。何からどう話そうかと言い淀んだら、オーブンのタイマーが鳴った。
    『あ、何か作ってる?』
    「ローストビーフサンドです。作ると言っても挟むだけですが、少しオーブンに入れた方がパンも香ばしくなるし、チーズが溶けて美味しいので」
     通話しながら取り出して、皿に置く。
     キッチンでそのまま食べる方が片付けは楽なので、折りたたみの椅子を開いて座った。
    『相変わらず美味しそうな物、食べてるなぁ』
    「こういう物で……僕の部屋でも良ければ、来月ソウルに食べに来ませんか」
     今日、誘えたらいいと思っていた。そうしたい理由は言わず、切り出す。
    『うん?いいの?』
     二つ返事で了承され、拍子抜けした。
    「たまには直接会いたいです」
     自分の部屋に呼びたいだけだと、気付かれるだろうか。
     気付かれたところで下心は意識されないのも、それはそれで切ない。
    『うん。俺も会いたい』
     台詞だけなら、恋人同士の会話に近い。
     ドンシクは必要な時は私情を捨て、はっきり言い切る潔さもありつつ、ふわふわと優しく甘い言い回しも素で使う。
     言葉通りの意味しかないとわかっていても、嬉しくはある。
    「他にも行きたいところがあれば、付き合います」
    『そういうのでいいの?わかった。楽しみにしておく』
     そういうのって、どういうことだろうか。そういえば、変更を提示されることはあるものの、ドンシクはジュウォンからの誘いをあまり断らない。
    「じゃあ、休日がわかり次第、また相談します」
    『了解。明日も早い?』
    「非番です。もう寝るところなら……また明日かけます」
     もうすぐ二十三時になる。今日はこの通話を楽しみにしていた。本当はもう少し話していたいが、ドンシクに無理はさせたくない。ドンシクも、介護や仕事があるなら、もう寝る時間だろう。
    『難しい事件?長い話でも、聞くつもりはあるけど』
    「事件の話に限らず色々、話したいです。明日の予定に支障がなければですけど」
    『こっちもちゃんと、時間を気にせず話せる時間を選んだ。身体は勝手に寝ちゃうかもしれないけど――どうしたい?ビデオ通話の方が、俺が眠ったかどうかわかるかな。そうじゃなくても、返事をしなくなったら切っていいよ』
     どちらかが寝るまで電話するなんて、恋人か親友みたいでくすぐったい。
    「ビデオ通話がいいです。切り替えますね」
     端末を操作し、ちょうどいい場所にホルダーをセットした。
     にこにこと手を振る彼の様子は――ジュウォンの予想と少し違った。
    『見えてる?良かった。元気そうだ』
     暖色系の灯りの中で、ベッドに寝転んでいるドンシクが映る。
    「ドンシクさん……あの」
    『ん?どうした?ごめん、思ったより本気で寝そうな体勢だったろ』
     確かに思った以上にくつろいではいたが、それだけではない。
    「何ですか?その髪」
     思わず口調が乱れる。
     父の聴聞会の頃の、耳を半分隠すぐらいの長さまでは見たことがあるが、それよりずっと長い。
    『ああ、これ?引っ越しでばたばたして、床屋に行くタイミングを逃した。マニャンかソウルまで行って馴染みの床屋に切ってもらうか、新しいところを探すか迷ってるうちにずるずるのびちゃったな。最長記録かも』
     分けた前髪は、頬に沿うかサイドから後ろに流れ、襟足は肩口までのび、細い首を儚げに見せている。ゆるく波打つ曲線が芸術家か俳優のような雰囲気を醸し出し、とても元警察官には見えない。
     額を全部出すと急に品が出る。
     はったりがきいて、カリスマ性を増すとでも言おうか。
    「アーティストみたいですね」
     精いっぱい下心を隠して、顔を作る。
    『はは、そう?ジファには、胡散臭いから早く切れって言われたぞ』
     どこか変化する度、新しい魅力にときめかされているなんて、思ってもいないだろう。自宅で独りだからか、隙だらけのまま照れたように笑うのも凄く魅力的だ。
     食事なんてしている場合じゃなくなった。
    「今のは、褒め言葉です。僕は……似合っていると思います」
    『ふふ、ありがと。ジェイは、切る前にあなたに見せろって言ってた。なんでかな。別に、髪なんていつでものばせるのに。でも、ビデオ通話にした意味はあったね』
     ドンシクのこういう、狙わずに人を惑わすようなところは、本当にずるいと思う。しかも、素知らぬ顔で狙って惑わすこともできるから、余計たちが悪い。
     隙あらば笑わせて、相手が肩の力を抜いて話せるようにしているのだとはわかっている。
     それにしても、ジェイは言った通り、勝手に手伝ってくれている――というか、本当に面白がっている。この後きっと、ドンシクからもジュウォンからも、反応を聞いて笑うつもりだ。
     ――ぜ~んぶ顔に出る
     そう言われたのを思い出したが、どうしても変な顔になってしまう。
    『くせっ毛だから、合う床屋じゃないと中々、落ち着くかたちにまとまらないんだ。ここまで伸ばすと落ち着きはするんだけど、ちょっと鬱陶しいんだよね。ジュウォナみたいにきれいにセットできるほど、お洒落でも器用でもないし』
     ふわりと耳にかけるように髪を指でさらう仕草に、思わず見惚れる。
    「僕は、髪が多いので――きっちりセットしないと駄目なんです」
     髪を気にして視線がそれたのを機に、ローストビーフサンドを一口、頬張った。
     ちゃんと美味しいのに、味が気持ちの動揺でぐちゃぐちゃになって、動揺が顔に出るのをごまかすために、もぐもぐとパンを咀嚼する。
    『そうなんだ。ごめん、話がそれたな。仕事、お疲れ様』
     仕事の話以外が続くなら、その方がいい。でも、優しい労いの言葉は素直に嬉しい。
     食べながら頷いて、焦りの合間にも目はしっかり、ドンシクを観察している。
     髪を辿るとどうしても、黒いVネックのTシャツからのぞく鎖骨に目が行ってしまう。
    「このところ、かなり立て込んでいました」
     咄嗟に手に取った飲み物は酒で、むせそうになったのをどうにか堪えた。
    『ずっと忙しそうだったよね。メッセージだと説明が大変なのかなって思った』
    「あんまり返せなくて、すみません」
     返事を急がないことなら、気軽にメッセージを送れる。
     だが、返したいことがある時に限って、長文を打つ時間も短文でテンポよくやり取りするタイミングもなく、もどかしく思っていた。
     申し訳ないと思って上目遣いで見つめたら、ドンシクはまた、きょとんとした。
    『え、違う違う。こみ入った話をメッセージで打つのは大変だろ。電話の方が逆に早く済んでいいのかもなって。運転が簡単な道とかで、もっと気軽に電話してよ――ジフンなんか暇を持て余す度にどうでもいい電話をしてくるし、未だに、マニャンの年寄りの相手を押し付けてくるぞ』
     ジフンとの関係は、相棒としても個人的にも羨ましい。
     でも、同じくらい気軽に電話していいと言ってもらえたのが嬉しくて、ようやく味が舌に染み渡る。
     テキストでのやり取りも、それはそれで嬉しい。自分のために打たれたドンシクの言葉が端末に記録されるのさえ嬉しいのだ。
     ――待てよ。この通話は、プライベートビデオと相違ないんじゃないか?
     ふと気付いて、そっと録画の操作をした。
     実は以前から、こっそり通話を録音している。
     真夜中にドンシクの声が聞きたくなって、笑い声や名前を呼ぶ声を聞きながら、悩ましい熱を持て余していた。
     実際に話している間はかわいこぶっている自分が、ひどく浅ましく思える時もある。
    「ドンシクさんも、忙しいですか」
     最近、介護をしながらでもできる仕事を始めたというのは、本人からも聞いた。
    『んー、まあ、仕事も多少は大変さがあるけど、警察官よりは全然。介護も今はそんなに深刻な状態じゃないし、時間は作れるよ。仲良くなれそうな人も、いなくはない』
     ジェイが言っていたのと同じ人物だろうか。
    「恋人、とか?」
     勇気を出して、いつもは触れない話題に触れる。
     ドンシクは少し驚いたが、それは彼も、そういう出会いを意識した発言ではなかったからのようで、思案している。
    『そういう人はいないかなぁ。あなた以外だと――』
    「……え」
     どきりとする。
     考え込んで間延びしたのか、ジュウォンの反応を期待しているのかわからない不意打ちに、また、動揺してしまう。チーズやマヨネーズが顔についていないか急に気になって、そわそわする。
    『あなた以外だと、やっぱり、マニャンの仲間たち以上に仲良くなるのは難しそうだな』
     当然、前者か。
     ドンシクがジュウォンを、イケメンだとかお洒落だとか言って、冷やかすようなことは割とよくあるが、ドンシク自身の恋愛観を語ることは全然無い。
    「あぁ、そうなんですね」
    『広域の時の悪友は相変わらずだけど、これから仲良くなっても、犯歴や、警察官だったことを話せる相手は稀だよね』
     犯歴なんかより、ユヨンの説明をするのは大変だろうと思う。
    「それは、僕だってそうです。中々いないでしょうね」
     逆に、あの事件のことを先に知って関わってくる人間がいたら、どうなるのだろう。
     知りながら、ドンシクに深い同情と愛情を示せるような相手ができてしまったら――?
     ドンシクは多分さっきから、恋愛関係に限定せず、人と親密になれるかどうかの話をしている。
    『それでもいいっていう人を今から探すほどでもないんだなって、改めて思った。あなたは?モテるだろうけど、仕事が忙しいうちは難しいか』
     今していた心配が、すぐに解消される。
    「仕事は関係ないです。ドンシクさんでも難しいなら、僕だって条件は、ほぼ同じですよ」
     やはり恋愛についての話だったのかと思い直し、ジュウォンがそう返すと、ドンシクはまた、柔らかく笑んだ。
    『でも、寂しくはないよ。ジュウォナがこうして電話くれるし』
     ――条件に当てはまるのは他でもない、ジュウォンだと言ってくれればいいのに。
     エゴではなく、少しでも関わりを持つことでドンシクの孤独が和らぐのなら、喜んでその役を引き受ける。
     ドンシクは強い。でもその強さは本来、無くてもいいものだったろう。傷付けられることで、弱いままでいられなくなっただけだ。成績優秀だったユヨンと同様、知能は高かったのだろうが、あの事件さえなければ、もっと気楽に生きられた。
     犯人への警戒心はもう、必要ない。事件が収束に向かうにつれ、明らかに柔和になった。
     おそらく、今のドンシクを悩ませているのは、自分が誰かを傷付けることや、心配をかけること。深い関係になった人間が、自分の過去のせいで不幸になること。
     傷付きやすいのに強くて、生きるのが辛いほど不幸なのに、生きていないと得られない幸せを知っている人。
     胸がぎゅっと熱くなって、また、ジェイの説教が浮かぶ。一体どんなかたちにすれば、大事に思っていることを、ドンシクを不快にさせずに伝えられるのだろうか。
     恋心を隠してそうするのは、卑怯だろうか。
    「僕と違って、ドンシクさんにはちゃんと友達もいるでしょう」
    『あなたもね――代わりはきかない』
     目を少し細めたドンシクに、まっすぐ見つめられる。
    「……ありがとうございます。僕にとっても、大事な関係です」
     少しは伝えられただろうか。
     僕にとっては友達以上に、誰より大事だと言えたらいいのに。
    『ソウルから出勤するの、大変だろ』
     しばらく黙っていたら、ドンシクがそう切り出した。
    「運転は好きだし、停める場所さえあれば家に戻れなくても眠れるので、便利です」
    『確かに。俺なら面倒になって、キャンピングトレーラーを買うかもな』
    「それも似合いますね」
     そういう逞しさと自由さは似合う。社会的な立場や肩書が変わっても、それに振り回されずにいられるのは、ドンシクの強味だろう。
    『この髪じゃ、不審者扱いされるな』
    「不審者というより、スタジオ撮影中のハリウッドスターみたいですけど」
    『あはは、じゃあ、ジュウォナが要らなくなったサングラスをもらって、かけようか』
     想像して、少し顔がゆるむ。覚えていたら、次に会う時に似合いそうな物を渡そう。
    「僕には、トレーラーに住むまではできませんね。今の部署なら、行方不明者はソウルの繁華街に向かうことも多いです。行き来することは頻繁にあるので、ソウルに住み続けた方が便利かもしれません。ドンシクさんとジフンさんが教えてくれた場所でも、よく見つかります」
    『あー、この頃は、若さゆえの家出の方が多かった?』
     居場所の見当をつけるために、何度かマニャンの人々にも助言をもらった。
     ドンシクはソウルにも詳しいし、ジフンはジュウォンより、若者の流行に詳しい。
     富裕層の場合はヒョクに、女性の場合はジェイやジファにも聞く。奇しくも、普通に友達を作った場合より、かなり有能なアドバイザーたちだろう。
    「ええ。だから皆、比較的すぐ見つかりました。件数が多かっただけで」
    『悪いことに巻き込まれていないなら、まだいいかな』
    「ええ――深刻な事件じゃない方がいいです」
     行方不明者と家出人を地道に探して、深刻な状況になっていないとホッとする。
     以前のジュウォンなら、愚かさを見下してしまったと思う。
     それでも、ミンジョンについての一連の不幸を目の当たりにしてからは、自業自得だとは思えない。どこかに痛みを感じるようになった。その愚かさや、少しでもマシな場所へ逃げようと願う切実さを利用する、犯人の卑劣さや邪悪さも身を持って知った。
     そんな時こそ、ドンシクを思い出さずにいられない。
     あの時も、最悪の事態に陥る前に止められたら――どんなに良かったか。
    『仕事の話はしない方がいい?』
     表情が暗く見えたのか、ドンシクは心配そうに、様子をうかがってくれる。
    「僕は……ドンシクさんの声が聞ければ、何でもいいです」
     マッコリがやっと効いてきたのか、少しだけ素直になる。
    『そう?ジュウォナの声も落ち着いてて、心地いい。言葉がきれいだからかな』
     ジュウォンの話し方は、親しくなってもくだけない。
     友達が少ないとそうなるとか、嫌味を言われたこともある。でもドンシクは、話しやすい口調でいいと、受け入れてくれる。
    「――ドンシクさんの仕事の話も聞きたいです。職場の人はどんな人たちですか?」
    『マニャンほど面白いことは無いよ。ジュウォナより面白い人もいない』
    「僕は、面白くないです」
     つまらないやつだと、何度言われたか知れない。
    『そう?冷静かと思えばすぐ怒るし、拗ねたりむくれたり、面白いよ。最近は柔らかい表情も増えて、前より笑うようになった』
    「前から笑ってましたよ」
     照れくさくて、いつも通り拗ねて言い返してしまう。
    『ほら、口がへの字になってる』
    「――なってません」
     今度はむくれた。いつだってドンシクの方が上手だ。
    『マニャンに来てすぐは、愛想笑いしかしてなかっただろ。俺の態度が悪かったから、それもすぐやめちゃったし。今思えば、もう少し眺めておけば良かった。マニャン以外では、愛想笑いをするくらいの社交辞令はこなしてたんだなって』
    「ドンシクさんがすぐ人をからかうからでしょう?僕が怒りっぽいんじゃない」
    『怒った顔もかわいいから、つい』
     余裕が憎らしい。
     ――ストレスが眉に集まってる
     またジェイを思い出す。ここにいないのに、二人分からかわれている気分だ。
    「かわいくないです。誑かさないでください」
    『ははは。やっぱり、顔が見えた方がいいね。ジュウォナは嫌?見られるの』
     本当に楽しそうに笑うドンシクが眩しい。
     面白い、の次は、かわいいだなんて。人の気も知らないで。
    「嫌だったらビデオ通話はしません。でも、一方的に遊ばれるのは嫌です」
    『あ、そうか。ジュウォナは俺を見てても別に、楽しくないよね』
     ジュウォナと呼ばれると、頬が熱くなってしまう。
    「楽しいですよ。ドンシクさんの方が僕より、表情は面白いですから」
     録画をしているのは向こうにはわからないが、それを知ったらどう思われるのだろう。
     ひとしきり声を上げて笑ったら、ドンシクは枕に埋もれるようになり、眠そうな流し目でこちらを見た。
    『なんか、返しが大人っぽくなった?元気そうで良かった』
     少しは成長もしただろう。それでも、ドンシクとの年の差は永遠に縮まらないのがもどかしい。出会ってからの時代は共に歩めると思うことで諦めて、今のドンシクをできるだけ知りたい。ドンシクはいつでも、今のジュウォンを、まっすぐ見つめてくれるのだから。
    「もう、眠いんですか?」
    『うぅん、まだ大丈夫。俺の生活は地味過ぎて、あなたほど話すことがないから、すぐからかっちゃうんだろうな。そっちはまだあるんでしょう?俺が寝るまでずっと話してて欲しいって言ったら、困る?』
     またそうやって、勘違いさせるようなことを言う。
     ドンシクが眠った後も、観ていてもいいぐらいだ。
     今すぐ隣に行けたらいいのに。
     でも、隣に行っても何もできないままの自分を想像して、悔しくなる。
    「一人で話し続ける話術がないかも」
    『……はは、何でもいいよ』
     ドンシクが唇を触る癖に色気を感じ、目をそらす。
    「――脚はまだ、痛むんですか?」
    『少しね。前より良くなった』
    「薬を飲むと眠い?」
    『ん――そうだな。眠そうに見える?話してる間に寝ちゃったら、もったいない』
    「無理はしないでほしいです」
     ほろ酔いのジュウォンと同じようなぼんやりした感じに見え、声を和らげると、ドンシクはそのまま口角を緩めた。
    『またすぐ続きを話せる?』
     そうやって今度は、甘える子どものような顔をする。
    「これからは、もっと電話します」
    『……ん』
     ふっ、と力が抜け、ドンシクは目を閉じた。
    「ドンシクさん、寝ちゃいました?」
    『ジュウォナ――』
     少しだけ身じろぎして、ドンシクの眉が下がる。
    「……お休みなさい」
     平穏な生活を得たドンシクの様子に、自分ともうこれ以上関わるべきではないのではないかとも思う。それでも、『寂しくはないよ。ジュウォナがこうして電話くれるし』とわざわざ言うなら、この関係を続ける意味はあるのだろう。ジュウォンが孤独を感じないようにしてくれているのなら、今はまだ甘えていたい。
     ときめきと、慣れない幸福感に伴う動揺に惑いながら、ジュウォンはしばらくそのまま、ドンシクの寝顔を眺めた。
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