岸吉 中央分離帯の縁石のそばに、ひとかたまりの塵が落ちている。
光沢の失せた黒。目を凝らすと、何かを隠し持つ両手のような形で折り畳まれた形状と、奇妙な位置から突き出した硬質な尖りが見えた。翼と、嘴。
カラスだ。カラスが死んでいる。吉田ヒロフミがそう認識した頃には、その死骸ははるか後方に消えていた。
バックミラーを覗いてみたが、当然ながら運転手である岸辺が見やすい角度に調整されているその中には、目当ての物は見つけられなかった。諦めて、浮かせかけた腰を助手席のシートに落ち着ける。
昼間の高速道路はひどく空いていた。
「カラスの死骸って初めて見ました」
そう言って、自分で可笑しくなる。それは嘘ではないが、嘘ではないだけの言葉だった。
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