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    @amber2551910

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    【チェンソ】岸の家で芽の生えたじゃがいもを見つける吉
    事後描写あり

    #岸吉
    kishiyoshi

    岸吉 死と似た温度のまどろみからめると、吉田ヒロフミはベッドの上にひとりきりだった。
     もう一度シーツと同化したい気持ちを振り払い、乱れた髪を手櫛で直しながら身を起こす。比較的築年数の浅いこのマンションの一室は、一年中暑くも寒くもなく保たれている。つまりは今、吉田の裸の背中を不快に湿らせる汗は空調の不備によるものではなく、ここ数時間の吉田の振る舞いのせいであったし、つまりは岸辺のせいでもあった。完全なる当事者であるはずなのに、事が済んだら言葉の一つもかけずにさっさと寝室から立ち去り、今は恐らくベランダで煙草を吸っているはずの家主を少しだけ恨めしく思った。が、さしたる重みもなくぎっただけのその感情は、強く主張を始めた喉の渇きにあっさりと優先順位を取って代わられた。
     吉田は数時間前に脱ぎ捨てたTシャツをベッドサイドの床から拾って、のろのろとした動作で身につける。シーツと岸辺の肌しか触れない時間が長かったせいか、どことなく他人の衣類のように感じてしまうのがやたらと可笑おかしかった。全身が気怠く、圧迫感を覚えたくはなかったので、下半身は下着だけを履く。他人の家において礼儀を欠いた出で立ちであると思わなくもないが、そもそも吉田が身につけていた服を剥いで放り投げたのも家主なので、気にしないことにした。
     素足でぺたぺたとフローリングを踏み、キッチンへ向かう。リビングを抜ける時にベランダへ視線をやると、やはりそこには人影があった。色素の抜けた色の髪は、予想していたものと寸分違わなかったが、当たったところで特段嬉しくもない。ベランダに通じるガラス扉と網戸はどちらも開け放たれていて、嗅ぎ慣れた煙草のにおいが、室内までうっすらと届いていた。
     岸辺と吉田は同じ組織に属しているわけではないが、悪魔の討伐という共通した目的を持ち、概ね近しい地域を業務エリアとしているため、現場で顔を合わせ、結果として共闘の形を取ることはままある。そういった際に、食欲を失うようなたぐいの悪魔が相手でない場合は、仕事を終えたらついでに食事を共にすることもある。加えて、その後の予定や翌日の都合が悪くなければ、岸辺のマンションに足を運んでセックスをすることもある、そういった関係性がいつの間にかあった。そして、昨日はそのすべてが揃った日だった。
     キッチンは、部屋の広さに見合った十分な広さがあったが、この場所が料理に使われている様子を、吉田は一度も見たことがなかった。調理器具も調味料もない。モデルルームのような非現実感に覆われながらも、シンクに無造作に置かれた銀色のスキレットが、この家の主人が岸辺だということを忘れさせずにいてくれる。
     冷蔵庫は置いてあるものの、いつ来てもろくなものが入っていない。そのことを把握している吉田が気を利かせて食材を買ってくるわけでもないため、白い直方体の内側は、今日もアルコールばかりが豊富だった。銀色の筒たちの横で居心地が悪そうにしていたミネラルウォーター――言わずもがな、吉田が持参したものだ――のキャップを開け、中身を喉に通す。美味くも不味くもなかったが、その無害さが、今の吉田にはありがたく感じられた。
     キッチンのゴミ箱のそばに置かれたものに気づいたのは、その時だった。自分の頭が光源を遮っていたせいでよく見えず、そっと頭を傾けながら屈み込む。無造作に床に転がされたそれは、ビニールの袋に入ったじゃがいもだった。
     珍しい。このキッチンで、出来合いの惣菜や弁当ではない、そのままでは口に運べない食材を目にするのは初めてのことだったので、吉田はそれをまじまじと眺める。袋の大きさなどから見るに、数個入りで販売されていたもので、大きめの一個が残されているようだ。これがどのような経緯の果てにこの場所に辿り着いたのか、すぐには思い当たらなかった。スーパーで買い物かごに野菜を入れる岸辺を想像し、あまりのそぐわなさに喉を震わせて笑う。
     強引に想像するに、岸辺が家に上げた女性あたりが料理をこしらえた余りだろうか。ビニール越しに触れていると、ふと、ゆるやかな曲線の中に、異質な硬い尖りがあることに気がつく。土に塗れた皮を突き破り、不気味さを漂わせる生白い色を晒したそれは、芽だった――吉田の思い違いでなければ、確か、有毒であるはずだ。
     ベランダに向かって「岸辺さん」と呼びかけると、岸辺は緩慢に振り向いた。時折、風をはらんで揺れるレースのカーテン越しに、煙草の火が明滅しているのが見えた。吉田は、じゃがいもを顔の高さまで掲げて見せる。
    「これ、芽が出てますよ」
     言ってから、はたと気づく。セックスの相手に対し、事後に初めて投げかける言葉としては、随分と色気も間も抜けてはいないだろうか。そう思っても、口から出た言葉を飲み込むすべはない。
     岸辺が怪訝そうに目を凝らすのがわかった。これ、というのは不親切な表現だったかもしれない。吉田がそっと反省しているうちに岸辺はその正体に気づいたらしかった。
    「食えないのか」
     投げかけられた短い疑問に、吉田は首を捻った。指摘しておいてなんだが、即答するほどの知識は持っていなかった。リビングに放置していた自分の携帯電話を拾い上げる。小さな液晶を覗くと、いくつかの着信履歴とメールの受信通知があったが、丸ごと後回しにして検索画面を開いた。皮膚が少しふやけた指先では、ボタンが押しにくかった。
     検索結果に表示されたもののうち、信憑性のありそうなページをざっと眺めたところ、じゃがいもはやはり芽に毒があるが、その部位を全て取り除けば問題なく食べられるらしい。かびのように、表層に現れてしまったらその内側は全て手遅れになってしまっているのかと思っていたが、そうではないようだ。
     誤って芽を口にした場合の症状として並べられた、眩暈、吐き気、嘔吐など物騒な文字列に、吉田は思わず少し笑う。今まで何度も死戦をくぐり抜けた人間であっても、発芽したじゃがいもの一つで死ぬかもしれないということがなんだかとても愉快に思えた。
     取れば食べられるみたいですが、全部綺麗に取り除く自信がなければ、やめたほうがよさそうですね。そんな吉田の答えを聞いて、既に視線を外に戻していた岸辺はどちらでも良さそうに「そうか」と言った。吉田が検索した結果がどうであっても、岸辺の返事は変わらなかっただろう。
    「埋めて育てたらどうですか。立派に育つかも」
    「出来の悪い芋を育てるのは、もう充分だ」
     岸辺は優秀なデビルハンターだ。最強の自称も、周囲からは納得を伴って受け止められている。自身の能力もさることながら指導力も高く、多少過激ではあるもののとびきり効果的な岸辺の指導のお陰で独り立ちした教え子も大勢いる。正確には、大勢いた﹅﹅。デビルハンター自体の元々の殉職率の高さに加え、岸辺により優れた技術を身につけた者はより危険な現場に送られる。結果として、今も呼吸をしている教え子の方が珍しいらしい。
     指導放棄をされて、立派になり損ねたじゃがいもを、残念だったね、と見下ろした。
     そもそも、岸辺の内臓というものは、じゃがいもの毒素を摂取したところで、どうにかなってしまうような素直な仕組みをしているのだろうか。そんな疑問が湧く。案外、わかりやすい臓器などというものは悪魔との契約で既に空っぽになり、あるべき場所には薄靄うすもやが詰まっているだけかもしれない。外側から見ただけでは、何ひとつわかりなどしないものだ。じゃがいもが毒を育んでいるかどうかが、芽が生えてこないとわからないのと同じく。
     言葉にできない何かにひたひたに満ちて、許容量を超えたコップの縁からこぼれるように、とうとう発芽してしまった。それは、どこかの誰かの心の動きに似ている気がした。
     手の中で黙ったままのじゃがいもをひとしきり眺めてから、吉田はキッチンに戻る。ペダル式のゴミ箱の蓋を持ち上げ、真上で手を離した。ゴトン。薄っぺらいプラスチックの底板に、それなりの重量を有したものが落ちる音は、思いのほか大きく響いた。吉田が、自身の所有物を廃棄したことを間違いなく認識したはずの岸辺は、何も言わず、視線のひとつもよこさなかった。
     ビニール袋に穴が空いていたのだろう。手のひらに土がついているのに気づき、吉田はシンクの蛇口のレバーを上げる。流れ出した水は、少しだけぬるい。血や体液と違って、その汚れはあっさりと流水に流れて消えた。

     サンダルを素足に引っ掛けて、吉田はベランダに出た。両足の間を抜ける風はさほど冷たくはない。夏でも秋でもない今日の、夜でも朝でもない景色を背に、岸辺は煙草を吸っていた。手摺に置かれた金属製の灰皿には、二本分の灰と吸い殻が転がされている。どことなく、ベッドに放置された自分と重なって見えて、吉田は煙草の死骸にこっそりと心を寄せた。
     ベランダは、二人ではまだ空間に余裕がある。きっと三人では狭く感じるだろう。
     片手の指では足りない数、吉田がこの部屋を訪れて分かったことがあった。岸辺がわざわざベランダに出て煙草を吸うのは、吉田への副流煙の影響やらにおい移りやらを気遣ってのことではなく、どうやら、夜の空気の中で煙草を味わうのを楽しんでいるだけ、ということだ。その証拠に、吉田がこうして隣に立っても、顔を背けたり、煙草を吸う手を止めたりはしない。それは、吉田が岸辺を好ましく思う理由の一つだった。
     手摺に頬杖を突き、岸辺を見上げる。
    「誰の置き土産だったんですか」
     言葉を省略しても、ついさっき吉田の手によってごみになったもののことだとすぐに知れただろう。岸辺も吉田も、物事を察する力には秀でたほうの人間だ。それはこの世界において、生き延びる力とおおよそ近しい意味を持っていた。岸辺は「さてな」と応える。それがとぼけているのか、本当に忘れているのか、吉田には見抜けなかったが、どちらでも大した問題はない。
    「俺が覚えてることなんざ、吸ってる煙草の番号と、人体のどこにナイフを刺せば死ぬかくらいだ」
    「博識ですねえ」
     軽口を聞いた岸辺は、特別長く煙を吐き出したあと、先端の灰を落とすような気兼ねの無さで、吉田に一瞥をくれた。無遠慮に見下ろされるその構図で、つい数時間前のゼロ距離未満のやり取りが思い返され、思わず、ぐ、と息が詰まる。内腿の皮膚が鳥肌を立て、勝手に震えるのがわかった。
     しまったな、と思う。無遠慮に距離を詰めて、いつでも好きな場所にナイフを刺すことができるところまで招き入れたのは吉田だった。それで勝手に動揺していれば世話はない。表情を変えないように努めたが、果たしてどうだっただろうか。岸辺の目に映る吉田の姿を、吉田は生涯知り得ない。
     岸辺は、博識か、と独り言を言った。
     光のない瞳は吉田を捉えている。

    「お前が何を考えているかも、解らん」

     ああ、と。吉田は思わず微笑んだ。
     自分がこうして目をわずかに細めて笑うと、向き合う人間が女だろうが男だろうが、年上だろうが年下だろうが、大概は動揺して目を泳がせる。だというのに岸辺の反応ときたら、悪魔が折った電柱やら路傍の草やらを眺めた時とちっとも変わらない。表情筋の無駄遣いだなあ、と思いはするものの、その浪費が、吉田は嫌いではないのだ。

    「ありがたいです。これからも、解らないまんまでいてください」
     俺が何を考えているかも。
     俺に芽が生えているかどうかも。何もかも。

     相変わらず岸辺の顔にはろくろく揺らぎというものはなく、吉田が茶化しながらではあるものの、それなりの重量を乗せて差し出したその言葉が、果たして届いているものやらわからない。
     横目でこちらを伺う岸辺の耳朶みみたぶには、穴だけがある。普段その空洞を飾っている金属は今、ベッドサイドに置かれている。指先の感覚がばかになってしまわないうちに、吉田がひとつずつ外したのだ。吉田が伸ばす指から意図を汲み、耳を寄せて、つたない指先にさせるままにしていた岸辺のことを考える。
     あのとき、あそこにあったものは決して愛なるもの﹅﹅﹅﹅﹅ではないが、何かがあった。その正体は掴めないだろうが、考えたその結果、解らないままだ、ということに行き着くことは、意味のあることだと思えた。少なくとも吉田は、そう思いたかった。
     吉田は岸辺のシャツの胸ポケットに手を伸ばし、内容量を減らして歪んだ箱の中から、いつかの日に受け取らなかった煙草を一本拝借する。昨日、吉田は人に似たかたちをしたものをいくつも殺した。紙一重で殺されずに済んだ。岸辺とセックスをした。天国から蹴り落とされる、不道徳のバイキングだ。だと言うのに、煙草に対してだけ、お行儀よくするのもばかばかしい。
     その一連の動作を拒否するでも歓迎するでもなく眺めていた岸辺は、ライターを取り出す仕草をしかけて、やめる。
    「お前の歳も知らないな」
    「そうでしたっけ。何歳だと嬉しいですか」
     言葉遊びに応える代わりに、岸辺は咥えた煙草をこちらに向けてくる。まだ薄暗さが残る中で、まるでそこだけが呼吸をしているように燃えていた。
     煙草の先端を重ねる。息を吸う。蛍火が二つに増える。
     世界に朝が芽吹くのを、地上の人間よりも少し早く眺めていると、岸辺がふと吉田の顔に視線を留めて「鼻のそれ、どうした」と尋ねてきた。温度のない眼差しに促されるままに鼻の頭に触れると、ごく浅いが確かな凸凹がある。指でなぞるうちにすぐにその正体に思い至って、吉田は声を出して笑った。
    「アンタの歯型ですよ」
     岸辺は、まだ少し長さのある煙草を灰皿で擦り潰しながら、そうだったか、と感慨なく呟く。相槌を打つように、マンションの屋上から、生きたカラスが鳴く声がした。
     
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    PAST【FB】テセウスの実体は出てきませんが気配は濃いめ
    お互いに噛み合ってないけど、まあ……それでも別にいっか……大人だし……という関係性の兄弟が好き
    ハグの日スキャマンダー兄弟 ロンドンの自宅、その地下に広がる、ケルピーを飼育している水場――そう呼ぶには、それはあまりに広大だったが――から上がったニュートは、体温の低下を感じて身を震わせた。構われたい気分だったのだろう、普段よりも幾分しつこくじゃれつくケルピーとの遊びに付き合ってやる時間が少し長かったかもしれない。けれど、優雅な角度をした水草の尾が上機嫌に水面を叩いたのを見て、ニュートは微笑んだ。魔法動物がのびのびと快適に、彼ららしく美しく生きることと天秤にかける価値のあることなど、そうそうない。寒さなど、シャワーを浴びて、温かいものを胃に入れれば済むことだ。
     水を含んで頬に張り付く前髪を指でどかしながら、ニュートは階段に足をかける。つい先ほどまで跨っていたケルピーの体について、脈動や、筋肉の動きかた、体温に思いを馳せる。ニュートは、魔法動物たちの体温をよく知っている。現在確認されている魔法動物のほとんどについてそうであったし、特に、この自宅の地下室や、トランクの中で飼育している彼らのそれは、正しく健康を維持することに直結するものであるので、暗記していると言ってよかった。
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    PAST【FB】1年生のテセウス・スキャマンダーと卒業数年後のアルバス・ダンブルドア
    ラブではないし将来的にもラブにはならない距離感のふたり
    テセウスとアルバス 大広間の一角がにわかに騒がしくなったので、テセウスは手紙に落としていた視線を上げた。扉の前で、長身の男性が教師と話している。鳶色の髪は、ほのかに濡れているのが見て取れた。外では雪が降っているらしかった。
     周りの生徒たちも、その男性の存在に気づき出したようで、長テーブルのあちこちから興奮した囁き声が上がる。鼓膜で捉えた名前に、テセウスは納得する。ホグワーツ魔法魔術学校に通う生徒で、その名を知らない者はいないだろう――アルバス・ダンブルドア。我が校始まって以来の秀才であり、呪文や変身、錬金術など多彩な分野で才能を高く評価されている、極めて優れた魔法使い。
     つい数年前までここに在籍していた彼が、今度は教鞭を取る側になるという噂は本当なのだろうか。それが現実となることを、多くの生徒が待ち望んでいる。収まるどころか徐々に大きくなっていくざわめきが、そのことをを表していた。テセウスは小さく嘆息し、母からの手紙を折り畳んでローブのポケットにしまった。愛すべき大広間だが、今は何かに集中するに相応しい空間とは言えなかった。
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