🍎🎸
グシャッ……
「あ……また壊してしまった…」
潰れた生物を地面に落として一人の天使が血で汚れた手を拭いながらそう呟いた。好奇心旺盛で夢見がちなルシファーはエデンに住まう動物をよく殺してしまう
それは、そうしようとしてやっているのではなく只、興味の惹かれる対象に触れようとして力の加減が分からず殺してしまうのだ。生まれてから数千年、自分の力がエデンの生物にとって異常な程であることを理解はしているもののコントロールができないのである。
「全く…またですか?ルシファー」
「うん…ごめんねセラ…」
セラが呆れたように苦言を呈す。新しいものが好きで自分でも作ることを好むルシファーは度々主の作り出したものをいじっては壊してしまう。それは何度咎めても直ることはなかった。
そんなある日セラに呼び出されたルシファーは目を爛々と輝かせた。
「人間…?」
「えぇ、新たに主が作り出す、意思の持った生物です」
「言葉は?」
「話せるようですよ」
セラの答えに更に表情を明るくさせる。今まで作られてきた生物は鳴きはすれど言語は扱えず意思の疎通が取れないものばかりだった。天使のような言葉を話す新たな生物。しかも形も今までとは違う二足歩行。ルシファーはワクワクと期待を胸に膨らませた。遊びたい、触りたい、話してみたい。どんな生物なのだろう。どんな見た目なのだろう。どんな話をするのだろう。
「ルシファー、次に生み出される“人間“は決して壊してはなりません。主から使命を与えられて創造されるのだから。わかりましたね?」
「うん!うん!絶対に気をつけるよ!」
興奮したようにブンブンとルシファーは首を振る。セラはその姿を見て本当に大丈夫だろうかとため息をついた。
「ねぇ君の名前はなんて言うんだい?」
「アダムと与えられました、天使様」
「ふむふむ、アダムっていうんだ!私はルシファー!是非名前で呼んで!」
仲良くしよう!と笑いかけて、アダムの手をぎゅっ握り締める。
「いっ…!」
「あ、ごめんね!痛かった?」
「だッ大丈夫です…」
顔を歪めてぎくりと体を震わせるアダムにルシファーは咄嗟に力を緩める。心配するように顔を覗き込めば苦笑いをするアダムに、あぁよかったこれで壊さなくて済むとルシファーは内心で安堵した。
「ごめんね、私まだ力加減が分からなくて…」
「大丈夫です、そんなにお気になさらないでください」
「でも君を壊すわけにはいかないから、次も教えてくれる?」
「次?また来てくださるのですか?」
アダムの言葉にルシファーは勿論!と大きく頷く。まだ感情表現の仕方がうまく分からないのだろう、アダムはポッと頬を染めてはにかむように口角を上げた。